「あの子、褒められるのが好きみたいよ」
「…え?」
「それだけ。じゃあね」
「………え?」
風のようにやって来たブルーローズさんは風のように去って行った。あれ、あの人の能力は風だっけ?そんな事を思いながらも、僕は投げ付けられた言葉を反芻する。あの子、褒められるのが好きみたいよ。この場合のあの子とは誰の事か、なんて愚問だ。心当たりは一人だけ。あの子、イコール、ホァン・パオリン。…僕の好きな子。ブルーローズさんにはその事はもう既にバレているので、度々協力してもらっているのだ。今回もきっとそうなのだろう。
「褒める、かぁ…」
凄いね、とか。可愛いね、とか。褒めると言われても僕の少ないボキャブラリーでは碌な言葉が出て来ない。そもそも、彼女を目の前にしたら褒めるどころか普通の挨拶ですら(緊張して)しどろもどろになってしまうと言うのに。出来っこ無い、とは思えど、それで彼女の中で僕への好感度が上がるなら…。…やってみようかなと思う僕は、きっと浅ましい奴だ。
「ホァン、お、おはよう」
「おはよう、イワン」
まずは挨拶。この段階で既に限界だ、心臓的な意味で。目の前でホァンの笑顔を見た僕の顔に熱が集まる。逃げ出したい。でも駄目だ、そんなんじゃホァンに僕を好きになってもらえない。何か、何か一言…!
「…きょ、今日も、可愛いね!」
結局口から飛び出たのはそんな言葉。嗚呼、僕の馬鹿!こんな陳腐な言葉しか出て来ないのかこの口は!ホァンはぽかんとしている。僕は慌てて弁解しようとしたけれど、次の瞬間、彼女の顔が一瞬でボンッ!と真っ赤になった。
「…え?」
「な、何だよいきなり!何が目的!?イ、イワンに褒められたって別に、嬉しくないよ!」
「馬鹿ー!」と叫びながら彼女は走り去った。残された僕は何が起こったのか理解出来ない。僕がありきたりな言葉で褒めたら、彼女が顔を真っ赤にして、走り去って。
「う、わ………」
僕の顔も、真っ赤になった。どうしよう。どうしようどうしようどうしよう!

大好きです、ごめんなさい

さっきのホァンはお世話なんかじゃなく、本当に本当に可愛かった。こういうのを、惚れ直した、と言うのだろうか。


title by 嘯く若葉

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