そう言えば自分は彼の本当の笑顔を知らないのではないかと彼女は思った。彼の笑顔はいつも、眉を下げた情けないと言うか頼りないと言うか、失礼だがそんな風にしか感じられなかった。もっと自信あり気に笑い飛ばすくらいの堂々とした笑顔が見たいという気持ちが無い訳ではない。つまり見たい。だが本人に直接言っても困った笑顔しか見れない事は試す前から分かりきっている。どうしたら良いのだろう、と言うか、なぜ自分はこんなにも彼の笑顔を気にかけるのだろう。まぁ理由はどうあれ、彼の心からの笑顔が見たいのは確かだ。
「だからさ、笑ってみてよ」
「急過ぎるでござるよ」
イワン・カレリンではなく折紙サイクロンとしての彼に言ってみた。ヒーロー時の彼はいつもと言葉遣いとかテンションとかが違うから、まぁ早い話がキャラを変えているから笑顔も変わるのではないかと考えた結果の行動だ。我ながらなんて浅はかなんだろう、彼女は心の中で苦笑した。案の定彼はヒーローの時でも困ったように眉を下げて笑っていた。うん、予想はしていたが、残念。彼女は肩を落とした。
「ドラゴンキッド殿が気付かぬだけで、拙者は結構笑ってるでござるよ」
「心の底から?」
「………恐らくは」
彼も肩を落とした。暫し沈黙する空気。駄目だこのままじゃ気分がどんどん下降する。彼女は頭をブンブンと振って無理矢理暗くなりかけていた雰囲気を壊した。
「うん、分かった。絶対気付いてみせるからね!」
「応援してるでござる」
何で他人事みたいに言うんだろう、そう彼女は思ったが尋ねる事はしなかった。彼女はそのまま彼に背を向けその場を走り去る。しかし途中、先程彼の言っていた言葉が頭に響いた。ドラゴンキッド殿が気付かぬだけで。それに自分は気付いてみせると返した。彼女は走りながら背後を振り返った。そして、気付いたのだ。嗚呼、そうか、彼は自分が気付いていないところで、いつも。

癒されたように
笑うんだね


先程より遠のいた彼の顔はしかしはっきりと見えた。眉を下げず、だからと言って堂々ともしていないが、彼は彼女を見ながら確かに笑みを浮かべていたのだ。


title by 揺らぎ

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