散歩に出た理由なんてほとんど無いようなものだ。天気が良いから、気分転換に、何となく。この三択の中で一番自分の気持ちに近いのは最後の「何となく」だ。深く考える事ではないのかもしれない。とりあえず僕はふらふらとあっちこっちを歩き、偶々目についた公園に入ってベンチに座った。噴水も無い小さな公園、こんな所あったのか。僕は暫くそこでぼーっとしていた。鳥の鳴く声、木々が風にさわさわと揺れる音、遠くの人々のざわめき。目を閉じれば聴覚が研ぎ澄まされる。周りから聞こえる音を和やかに受け止め、僕は心底リラックスしていた。…彼女の声を聞くまでは。
「あれ、おりが…じゃなかった、イワン」
びくっと心臓が跳ねた。瞼を開けた僕の瞳に映るのは、女の子。彼女は今日もオレンジ色のカンフースーツ(と言うのだろうか?僕はよく分からない)を着ていた。
「ホ、ホァン…さん」
「さん付けなんてしなくて良いよ。隣、良い?」
彼女は苦笑して、僕の隣の空間を指差した。僕は慌てて頷く。「ありがとう」と言って座った彼女を意識した心臓が、どきどきと鼓動を速める。…気付かれない、よね。
「イワンはここで何してたのさ」
「あ、えっと…ぼーっとしてた」
「何それ」
彼女は笑う。その笑顔を見て、僕は自分の身体が火照るのを感じた。でも確かにここ落ち着くや、良い場所見っけたね。彼女の言葉に僕は頷くしか出来ない。うわ、凄く、恥ずかしい。早くここから立ち去りたいのと彼女の傍から離れたくないのと、矛盾した気持ちが僕の思考回路をショートさせる。今僕は何をしているのだろう、あぁ何も考えられない。
「…どうしたのイワン。何か、変だよ」
「え、何、が?」
変、確かに僕は変かもしれない。彼女が関わってくると変になる。嫌な訳ではないけれど、あぁでも、こんな自分を彼女に見られるのは嫌だ。僕はこの場から逃げようと身体に力を入れ、息を吸って…、
「顔も赤いし…熱でもあるのかな?大丈夫?」
「…!」
固まった。彼女の柔らかい手が僕の額に触れる。あぁなんてベタな、けれども僕の心臓を破裂させるには充分の行動なのだろうか!この場から離れるタイミングを失った僕は、かすれた声で大丈夫と言う事しか出来なかった。

明日天気に
 なればいい


そして理由のある散歩をするんだ。どこかで彼女に会う為に。


title by 揺らぎ

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