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 沈んだ先は、深い深い濃紺の景色だった。

 ぶよ、と脇を泳ぐ深海魚は、今日もどこかへ行く。光のない底では目が必要ないから、彼は自分がどこへ向かっているのかを知らない。行きたい方へ流れていくだけ。
 正直、少し羨ましく思う。
 私はと言えば。泳ぐこともせず流れることもせず、見えないことが怖くて立ち往生しているだけで。なにも。

 砂を巻き上げて腰を下ろす。上であるはずの方向へ、腕を伸ばした。
――この。
 手を取ってくれる掌はないのだ。この、あるなしかの涙を掬ってくれる指はないのだ。

 寂しくは、ない。ただ孤独がひどく恐ろしかった。私は本当にここに在るのだろうかと、頼りない水の感覚にそう思った。

 ぶよ、とまた深海魚が泳いでいる。柔らかい皮を突っついて八つ当たりをしてみた。微妙な温度が、冷たい人肌を思い起こさせた。
 私は逃げ出したのだ。つらい、かなしい、と逃げ出してしまった。孤独は自業自得なのかもしれない。

「ここには、他に誰かいないのかしら」

 それでも呟いた言葉に、深海魚は「知らないよ」ともごもご言って、ゆっくり流れてしまった。濃紺は、かくも冷たい。

「上へ、泳げばいいだろう」

 寝そべって煙を吐いた貝がそう言ったのは、私が砂を撒き散らして仰向けに倒れ込んだときだった。

足を捨てられなかった人

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