50分の授業の合間に訪れる、たった10分の休憩時間。机に突っ伏して和哉は呟いた。こめかみを伝って汗は顎の辺りて滴り落ちる。
窓の外、空は真っ青で燦々とした太陽が必要以上に気温を上げていた。
「うわ、室内温度33℃だってよ」
「やめてくれ。余計暑くなる……」
何処から出したのか、隣では彰が温度計をしかめ面で見ている。和哉はまた唸った。
ボロい公立高校に、クーラーなんてあるはずが無い訳で。しかも次は無駄に厳しい先生。授業中、下敷きで扇ぐもんなら怒鳴り散らされるのは目に見えている。全く生徒が熱中症になったらどうするつもりなのか。
そんなことはともかく。どうしようもないほど、暑い。
「彰、ちょっとお前の能力で気温下げてくれよ」
「なんだそれ。そんな能力持った覚えは無いぞ」
「出来るだろ彰だし」
「意味わかんねーよ、と、ほら」
彰は自分の鞄に温度計を仕舞うと、弁当と一緒に入っていた保冷剤を和哉に投げて寄越した。融けてはいたもののまだ冷えていて、和哉は嬉しげにそれを首に当てる。
「おぉ、冷てー」
「おい。そのままだと冷たすぎるだろ、タオルを巻けタオルを」
世話を焼く親友がまるで何処ぞの母親のようで、和哉はにたにた笑った。ポケットから取り出したハンカチを適当に巻いて、首に当て直す。それでも十分な冷たさだった。
熱された血液が、首もとで冷やされて、全身を巡る。
しばらくそうしていたが、ふと見上げた時計は残り時間一分と告げていた。横目で見ると、彰は次の授業の用意を広げて予習をしていた。
(あーあ、休み時間終わっちまう)
温くなりつつあるがまだ冷たい保冷剤を、ハンカチを外し左手に握る。左隣の友人を見て、また和哉はにたにた笑った。
「そいや!」
先生が来たのとチャイムが鳴ったのと同時に、突然首に当てられた保冷剤の冷たさに思わず絶叫した彰の声が教室に響いていた。
夏よ - back