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 ひゅるる、と情けないような音をけたたましく響かせて、黒ずんだ飛行機雲は右下へと伸びていく。ああ神様、と、横で僕の手を握っていたおばあが言った。それは何のつもりだったのだろう。無知な僕には到底計り知れないことだ。ひゅるる、るるる。また、何本目かの飛行機雲が伸びて、おばあの握る僕の左手が白くなってきた。悲鳴は、聴こえない。兄が居たはずの部隊ではないだろうか、あの機体は。おそらく最後の飛行機雲が落ちたとき、ついにおばあは泣き出した。僕はといえば、あっけないものだなと、まるで他人事のように思っていた。
 崩れそうになるおばあの手を引いて、置いてけぼりの子供を見付けると連れ出し、僕達はようやく街を離れた。
 逃げ惑う人混みに紛れて、子供の握る僕の右手とおばあの握る左手の体温を思い出してやっと、彼は死んだのかもしれないと考えた。あの兄が。もう居ないのかもしれないと。涙も感傷もなかった。ただ、どこかが痛いような気がした。
 おばあが、僕か兄にか、あるいは両方に、ごめんなあと囁いた。子供は僕の腕にしがみついていた。

 ここに神様はいない - back

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