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「ねえ、知ってた? わたしの血、ほんとうは緑なのよ」

人間みたいな格好をしているくせに、彼女は両手を広げてそんなことを言った。夕焼けを映してセピア写真のようになった教室で、晴々と笑った彼女だけが風景から浮いている。
 どうも彼女は昨日辺りから様子がおかしい。嫌いだと断言していたココアをさも好物であるかの如く美味そうに飲み干したし、お気に入りで冬になると必ず身に付けていたマフラーも今はなかった。紺であるはずのセーラー服がセピア色の中で一つだけ黒々としている。スカーフでさえ黒く見えた。風にはためくカーテンが生きているようで、ますます奇怪だ。

「信じられないのなら、今度、見せてあげようか」

 ふふ、と笑う声もまるで彼女のものではなかった。どうしても不自然なほどに声は明るく、足取りは軽い。いつもは踏み締めて歩くのに、羽が生えたようなのだ。
 黒いスカートを揺らして、人間みたいに彼女は笑った。緑色だという血が通う頬と唇は、寒さもあって尚更赤かったから、やっぱり彼女の血は赤いのだと思う。
 そんなことを言ってみせても、緑だと言ってきかないのだろう。
 血は皆同じ色だ。同じ赤だ。それを彼女は緑だと言う。軽い足取りのまま、赤い空に消えてしまいそうだ。
 他にはないのに、ないはずなのに、どこにでもありそうな中途半端。中途半端は笑いを含んだ息を吐いた。帰ろう、と声をかけると彼女は、そうね、と呟く。浮いた足が地面に降り立つ。

「何があったの」

 そう聞くと、意外なことに彼女は動きを止めた。こちらを向いた目が捉えたのは僕じゃない。

「……なんにもないよ」

 呟く。誰かに向けて。緑だという彼女の血が、ろ過されて目から溢れた。透明な血を流して、人間みたい泣いた。
 色なんて無ければよかった、と思った。皆の赤い血も黒くなったセーラーも飲もうと思って買ってきたココアの缶も今はないマフラーも、全部セピアになればいいのだ。他の色はいらない。他にはいないのにどこにでもいそうな、彼女だけが緑であればいい。

「君の血が緑だというのなら、僕の血は青かな」
 
 彼女だけが緑で、僕だけが青で、あとは皆、夕日に焼かれてセピアになって。彼女や僕に、代わりなんて居ないんだと、誰かが言ってくれたのなら。
 中途半端は息を殺して笑い合って、どうやっても赤い血を皮膚の下に流しながら、そうなればいいねと泣いたのだ。

よくあるはなし

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