角砂糖をもうひとつ


夏も真っ盛りな本日の最高気温は38度。
高層に位置する部屋は高断熱されてはいるけれど、ここ数年の異常的な暑さには敵わずに、一軒家に住んでいたなまえにとってはちょっぴり暑く感じることがある。
熱中症になったら大変だから。と、サンジはずっとクーラーを入れるようにしてるから、とても快適に過ごしているけれど、でも夏は夏。ちょっとベランダに出たり、お風呂上がりにはじわりとした暑さが肌に絡み付いて、なまえは熱を逃がすためにノースリーブのシャツに短いスカートを部屋着にしている。
最初はサンジも「なまえのやわらけェすべすべな肌を拝めるなんて、夏はいいもんだなあ」と目尻を甘く垂らしていたが、最近はそこにすこしの心配が含まれるようになった。

なまえがあまりにも積極的に涼をとるようになったからだ。

熱中症になって苦しい思いをさせるのはもちろんかわいそうだが、かと言って体を冷やしすぎるのも良くない。同棲をはじめて初の夏を迎えた去年もなまえは暑さに弱り、薄着で冷たいものを多飲し、毎月見舞われる月の痛みが倍増して返ってきたみたいで、お薬もあまり効かずに悶絶していた。愛おしい女の子のそんな姿はもう絶対に見たくないサンジは、今年はほどほどにしてあげねェと。と涼の度が超えようとすると声をかけている。
今も、その瞬間だった。

「こーら、なまえ」
「なあに?」

キッチンで洗い物をしているサンジのうしろにある冷蔵庫に彼女が立った。ブラックの、大きなドアを開けて中から麦茶の入ったポットを取り出している。それだけならいいのだが、氷をからんころんと次々グラスに入れていく音が響くから、サンジは洗い物をしていた手を止めて、声をかけながらくるりと振り返った。

「なまえちゃん、さっきから冷たいもの取りすぎだぜ。今日はもうさっきのでおしまい。な?」
「でも、暑くて死んじゃいそうなの」
「今日はほんっとクソ暑いよな。温度すこし下げようか」
「本当?」
「ああ、本当さ。だから、あったかい飲み物飲もうな。なまえの好きなココア、淹れるよ」
「生クリームも乗せてね」
「もちろん。なまえのだい好きな生クリーム。たっぷり乗せるな」
「えへへ。うん、じゃあ冷たい飲み物やめる」
「ん、いい子」
 
よしよしと、頭をやさしく撫でられてキスをもらうこの瞬間がなまえは大好きだった。
えへへ、と上擦った声がもれる。彼にこうして褒めてもらうため、わざとわがままを言うことだってある。今回だって、半分そうだった。

「サンジさん」
「なあに、お姫様」
「ココア飲んだらベッド行ってお昼寝しようね」
「お、いいねぇ。なまえをぎゅって抱きしめてお昼寝するの。想像しただけでにやけちまうよ」

猛暑の日は体も心もぐったりしちゃうから休日はおうちで過ごすことが多いけど、クーラーの下で温かなココアを飲んでサンジとお昼寝をする休日はとっても好きだと、なまえは思った。