あわい感触



どうやらなまえは朝に弱ェらしい。

同棲をはじめてから半年。最初の頃は慣れてねェ二人暮らしに気を遣ってくれてたのか、目覚まし時計よりも早く起きたり、起こしたときもするっと目を醒まして「おはよう、サンジさん」ってな、クッソかわいい笑顔を向けてくれていたんだが。

半年も過ぎりゃァ、どんどん素が出てきちまうもんだよな。
ようやく真正面から甘えてくれるようになっておれとしても更に愛しいなあ、愛でてェなあ。って感情がもう爆発しちまいそうなくれェに膨らんでくんだが…最近じゃ毎朝絶え間なく募ってくもんだから我ながら呆れちまうほどだ。

おれァ恋多き男だったが──いい歳してからの“初恋”ってのは、厄介なもんだよなあ。
どうしようもねェくれェになまえに惚れちゃってるから、おれは毎朝彼女を起こす時間すら愛しくってたまんなくなっちまってる。
るん、と年甲斐もなく心弾ませながらひかりの差す寝室に足を踏み入れて、天蓋ベッドのなかすやすやかわいい寝息立ててるお姫様を揺さぶり起こす。

「おはよ、なまえ。もう朝だぜ」
「…ん…ぅ…、」
「今朝はなまえちゃんのご希望通りのスペシャルメニューだよ」
「……うん、」
「お。起きた 今朝は…ロイヤルミルクティーだね。淹れておくから、なまえも用意してリビングおいで」
「…うん…」
「ん。いい子」

もぞもぞと体を起こしたなまえの頭を小さく撫でて、おれは今日の彼女の気分に沿ったドリンクを淹れにキッチンへと戻る。
なまえが着替えて顔洗って来るまでの時間を利用して、ミルクパンで煮出していく。彼女ははちみつをたっぷり入れた甘いミルクティーがお気に入りだ。クソかわいいだろ?
ニヤけちまう口元をそのままに、ミリ単位で正確に、彼女の舌にぴったりフィットする甘さを出していると、うしろで愛くるしい気配がふわりと揺れた。
ナイスなタイミングだ。彼女お気に入りのティーカップに芳醇なそれを注いで、食卓にそっとおきながらおれはなまえを見やる。

昨日は夜更かししてたもんな。
服を着替えてもまだおねむみてェで、ぽんやりとした様相で食卓に着く前の毎朝恒例の挨拶を待ってるようだ。ああ、もうなんつーかわいさだよ、なまえちゃん。おれからのハグとちゅー、トロンとしたお顔で待っちまって

「おはよう、なまえ。今日も世界でいちばん可愛いな」
「ん…えへへえ、おはよお」

ふわりと小さな体を抱きしめて、おれはたまんねェ恋心をぶつけるようにキスをする。
うれしそうな声が鼻から抜けたのがまた愛くるしくって、すこし啄んでから離すとなまえはまだぽやぽやした面持ちで間延びに返した。
甘ったるい声がまたかわいくってな、胸がうわずっちまう。

「ん…、ふわあ……」
「あ、こらなまえ。そんな目擦っちゃだめだろ? 傷ついちまうぜ」
「だって、ねむたいの……目が閉じちゃいそう…」
「なら、もう一回。今度は深ェちゅーしよっか」

綺麗なおめめをごしごし擦るなまえを諭しつつ、おれはこっくり頷いた彼女を確認するともう一度そのからだをぎゅうっと抱き寄せ唇を近づけたところ。
なんかな、すんっげェ幸せが痺れのようにおれの体にびりっと走った。身なりを整えたなまえからは日中には感じられねェ、天にものぼっちまいそうなほどに柔らけェ感触が強く密着したおれのからだに触れてる。

このマシュマロみてェな柔らかさは、。ぽわんとした心地のいい違和感は。
キスを寸前で止めたおれにきょとんとおっきな瞳を丸めてるクソかわいいお顔から視線を外して、おずおずと下に下げてみりゃァ、なまえちゃんのたわわなおっぱいがむにゅっとおれのからだに潰されてしまってるのを見た。

あまりの色気とかわいらしさに、おれの口元はまただらしなく緩んじまう。
ふっと持ち上げた口角の、この表情が好きななまえはぽっと頬を染めちまってていじらしい。

「サンジさん…?」
「ん?」
「どうしたの?」
「いやあ、すっげェ幸福に包まれてるなあって感動してたのさ」
「幸福?」
「うん、幸福。…なまえちゃん、ブラジャーつけてねェの?」

わざと。彼女の形のいい耳に口元を近づけて、低くささやいてみれば。
みるみるなまえの顔が赤く色付いていってな。こりゃあどっちの意味での赤面なんだろうなあって、だいすきなおれの声、に弱ェなまえちゃんは下着をつけてねェことよりも、おれの声に充てられてくらっとしちまってんのかなとおもって顔がまたにやけちまう。
そうおもえるほど。決して自惚れなんかじゃねェほどに、彼女から伝わってくる「サンジさん大好き」がおれの心をやわらかく満たしてくれる。

「ぶ…らじゃー?」
「そ。おっぱい…すっげェやわらけェから」
「あ…、うう…」

ぽんやりしていた可愛らしいお顔は徐々に覚醒してきた。今度こそおれの指摘に顔を赤く染め直して、なまえはいじらしくもじもじするからおれの若ェ恋心もむずむずしてきちまってな。
ほら、言うだろ。好きな子をいじめたくなるってな。
さすがに本気でいじめてェとか、そんな嗜虐心は持ち合わせてねェが…強いていやァ、キュートアグレッションっつーのか?
いすきななまえが、愛しくて仕方ねェなまえが、おれの言動にドキドキしてしゅんとしちまうのがな。すげえ、愛しいの。

「さ、サンジさん…、」
「かわいいな、なまえは。このまま…襲いたくなっちまうよ」
「む、う…」

だからそんな心情にくすぐられたおれは、彼女をぎゅっと抱き寄せておっぱいの柔らかさを味わいながら、もう一度耳元で囁いてみた。
やっぱり、耳まで真っ赤にしちまったなまえの恥ずかしそうな姿がおれの胸をガツンと揺さぶる。ちょっぴりむっと柳眉を持ち上げてるのもたまんねェ。
ん?って瞳を撓めて訊ねてみりゃァ、なまえは隠すように腕を胸元に当てて「おそわないで」って小さくこぼした。ああ…かぁわいいなあ。ほんっと、この子におれァ夢中だよ。

「大丈夫、さすがに学校前に襲ったりはしねェさ。でも…すぐにつけておいで。きみのやわらけェここに…目がいっちまうからさ。な?」

言いながら前髪にキスをして、するりと腕から解放するとなまえはこくこく頷いて逃げるように部屋に戻っていく。おれがつけようか。って言いてェところだが、なまえのふわふわなおっぱいを見ちまったらいよいよ制御できそうにねェからここはひとつ我慢だ。

「今日はいい一日になりそうだなァ」

可愛らしいハプニングに大満足したおれァ鼻歌まじり、自分の紅茶を淹れにキッチンに戻った。