微温湯


ぽちゃん、とお湯にしずくが落ちる。ぼこぼこ浮かぶ重たい泡に身体を授けると、さっきのことを思い出してしまって、んっ、と声を響かせてしまった。

「…ああ、まだ身体が感じちゃってるな」
「サンジさ、」
「大丈夫怖くねェよ」

ふるりと震える小さなからだをぎゅうっと強く抱きしめて、白くてふわふわな肩にキスを落とす。さっき、このからだを。この子を抱いたんだよな…と、思うと、その愛しい事実にサンジの胸も強く締め付けられた。やっと…、サンジさんとひとつになれた。と涙していたなまえだったが、それはサンジも同じだった。
何度、愛おしいこの子を想い抜いてきただろう。何度、抱くことを想像してきただろう。決して性的な目で見ていたわけではないけれど、でもこれだけ大好きなレディ相手に、そう思わない方がどうかしているとサンジは思う。

「身体、痛くない?」
「…うん、平気。サンジさんすっごく優しくって甘かったの」
「はじめて、だいすきな恋人を抱いたからね。優しく甘い愛を持ってなまえちゃんを抱くって、ずっとずっと決めてたんだ」
「ん…ふふ、はじめて」
「そう、はじめて」

そのことばに、なまえは嬉しそうに笑う。ふにゃりと崩された相好にはまだたっぷりの照れ臭さが浮かんでいる。目尻を垂らして顔を覗き込もうとすると、なまえはびくっと肩を震わせて濡れた両手で顔を覆った。

「ん? どうしたの」
「は、はずかしいから…あんまり見ないで、サンジさん」
「あ…ほんっと、かっわいいよなあ。なまえは」

そういう仕草、男心をくすぐるって知ってるかい?と、無防備な耳元で問えば「んっ、」とまた甘ったるい声がバスルームいっぱいに響いた。お部屋よりもずっと反響する、それ。今日、生まれてはじめて出したであろう喘ぎ声に、かあっと耳たぶが赤くなるのを見て、その愛らしさにサンジはぱくっと熱いそこを優しく食んだ。

「や、サンジさ…っ、」
「かァわいい…感じちゃう?」
「もっ、」

予想外の行動になまえはぱっと手を離してつい。後ろの彼に顔を向けてみると、ふっと色気に塗られたサンジと目があった。あ…この顔。さっき、緩やかに中を蹂躙していたときの、あの感じている表情によく似ていて。こくりと喉がなってしまった。

『おれ、すっげェエロいよ』

そう言っていた彼だけど、それはきっとわたしも──。そう、なまえはぼんやりと思う。だって今。耳を食まれ、“そのカオ”をみて、覆い被さった大きな手の男らしい指の腹で、なぞるように甲を撫でられただけで頭がふわふわして、下腹部がきゅんと疼いたのだから。

「なまえ。こっち向いてごらん」
「ん……」
「大丈夫。きみの好きなキスをするだけだよ」

甘く低い声に誘われるようにもう一度顔を向ければ、下唇を掬うようにしてキスを、された。きゅうっと、自分でもわかるくらいにお腹あたりがあつくなったから誤魔化したくってすこし身じろぐとお湯が大きく揺れた。からだを包み込んでいるそれに負けないほど、あったかいサンジの舌はとっぷりとなまえの舌に絡みついて、滑らかな快感を残していく。まるで、さっきの行為を想起させるように口内を犯していくから、つい。鼻から甘声が漏れちゃって。お湯の揺れる音に彼女の甘美が混ざり溶けていくたび、サンジもふっと口角を緩めて、抱きしめる腕に力をこめていく。

「なまえ…かわいいな。…だいすき。すっげえ、好き。もう、どうしようもねェほどに…きみに夢中だよ」
「は……、っ、ん…っ」

つう、と銀色の糸が二人の唇を繋ぐ。それを絡めとるようにもう一度。愛をこぼしながら深く深くキスをすると、サンジは満足したように笑った。

「はは、綺麗なお顔が真っ赤っかだ」
「サンジさん……、の、せいだもん…」
「うん、ごめんな。キス気持ちよかったな
「…うう、」
「ああ、恥ずかしがらねェで、なまえちゃん。嬉しいんだ、おれ。こうしておれの全てにきゅんと感じてくれてるなまえを見るとな、いっとしいなあって、たまんなくなっちまう。ますますなまえに溺れちゃうよ」

お湯のなかで重ねていた手をやさしく持ち上げ、ちゅうっと愛の烙印を押し付けるように、薬指の付け根にキスを落とすサンジの髪の毛は湿気と水分のせいか、いつも以上にうねっていて。そういえば…サンジさんとお風呂に入るものはじめてなんだって、とろけた脳のどこか冷静な部分でおもう。

「けど、安心してくれ。えっちなことはもちろん、もうえっちなキスもしねェから。今ので、今日はおしまい」
「……ほんと?」
「あはは、疑ってるな? ほんとだよ。これ以上なまえにえっちな触れ方してるとな、そろそろおれも…やべェから、」
「ひゃっ、」

波紋のおかげで滲み、よく見えないけれど。導かれるようにして動かされた手に彼の股間が触れると、ちょっぴり硬い熱を感じた気がして。「な?」とどこか少年顔をする、魅力的な年上の彼氏の色気に当てられ、またぼんっと顔を赤くするなまえだった。