はじめてのクリスマス


枕元にこっそり置いたプレゼント。リビングでぴかぴかひかるクリスマスツリーはそのままにして、サンジとなまえはおなじベッドにもぐりこむ。
もうすぐ2歳になるむすめのはじめてのクリスマス。はじめてサンタさんになったサンジとなまえは、そっと置く瞬間、とてもどきどきした。起きないように、控えめに頭を撫でると、ぎゅっと握っていた小さな小さなこぶしがぴくりと動いた。
わ、おきちゃうかな? 固まったままむすめを見ていたけれど、すよすよ可愛らしい寝息を立て続けて、ほっとする。

布団の中、サンジとなまえは顔を見合ってくすりと笑う。

「明日のエリーゼの反応とっても楽しみね」
「うん。ドキドキするな。喜んでくれるかなァ」
「絶対に喜んでくれるわ。だってずっと欲しがってたもの」
「そうだよな。明日の朝楽しみだね」
「とっても。待ち遠しいわ」

ぎゅうっと手を繋いで目を瞑る。
ソワソワしているから脳が冴えているけれど、お互いの体温に導かれるようにして、夢の世界へと旅立って行った。




気温が低いぶんちょっぴり陽光がまぶしい、クリスマスの朝。
サンジがキッチンに立って、なまえがむすめの飲むお茶を用意していたところ、8時になった。

「そろそろ起こした方がいいかな」
「うん。エリーゼよく寝る子だもんねぇ」

ベビーマグにぬるめのお茶を入れながら考えていると、寝室から音が聞こえてきた。
むすめの可愛らしい声に、低いベッドから降りる足音。
ハッとして二人は手を止めごくりと息をのんで待つと、かさりとラッピング袋の音が近くなって、ひょこっとむすめが姿を見せた。

「えへへえ
「おはよう、エリーゼちゃん」
「エリーゼ、おはよう」
「おはよおこれえ!」

てとてと走ってママとパパのいるキッチンに入ってくるむすめに二人とも表情が溶けてしまうほどゆるゆるになっている。すこし照れたにこにこ笑顔で、ラッピングされた袋を両親に見せる。

「わあ、いいわねエリーゼ。起きたらあったの?」
「うん、あったぁ」
「そっか よかったなあ、エリーゼちゃん」
「これしゃんたあ?」
「そうよ、サンタさんからのクリスマスプレゼントね」
「エリーゼちゃん、すっごくいい子にしてたもんなあ」

さらっさらのサンジ譲りの金髪を撫でると、エリーゼは嬉しそうに小さな腕でプレゼントを抱きしめる。その愛らしさに、サンジはうるると瞳をにじませ、なまえもきゅんと、むすめの小さな小さな肩にやさしく手を置いた。

「#りせ#もしゃんたしゃんきたの」
「ふふ、ね。いつきたか気づかなかった?」
「うん。こわいの?」
「ううん、怖くないよ。サンタさんはすっごく優しいおじいさんさ」
「ほら、白いおひげの」
「えへへ」

ママが広げた絵本の中にいるサンタさんに、エリーゼは目を輝かせる。サンタさん、からもらったプレゼントを胸に抱いたまま、むすめはパパの方をみる。じいいっと視線が行くのは、サンジのおひげ。それを見て、さらにむすめはにこにこ笑みを広げる。

「ぱぱのぱぱみたい? おひげにりぼんついてる、」
「ああ、あはは。ジジイにそう言ったら喜ぶぜ、エリーゼちゃん」
「じじーがしゃんたしゃん?」
「ははっじじーじゃなくっておじいちゃん。ごめんね、パパ言い方間違えちゃった」
「おじーちゃあ、」
「そうそう。このプレゼントをくれたのは本物の赤いサンタさんだけど、エリーゼちゃん。ほら、クリスマスツリーのところ、みてごらん」
「ゼフのおじいちゃんがサンタさんとしてエリーゼにプレゼントをくれたのよ」

立ったパパに抱っこされて、むすめはキッチンから出る。ゆっくりとリビングに下ろすと、パパに言われた通り、ツリーまで走っていく。
その小さな後ろ姿を、サンジとなまえはあたたかな気持ちで追う。

「あ!」

ぴかぴか、昨日からずっと光を放っているツリーの元には胸の高鳴るものがある。
ラッピングを施し、色取り取りのリボンの結ばれた、プレゼント箱。
サンタのおじいちゃんのゼフからは数冊の絵本と知育玩具、ヴィンスモーク家からはおままごとキッチンとおままごとセット、なまえの両親からはお絵描きセットと小さなピアノがラッピングされたプレゼント箱の中に入っている。
目をキラキラ輝かせてむすめはその場にしゃがみ込んだ。

「しゅごいっ! ぷぜれんとお!」
「ううううっぷぜれんとってクソかわいいいいぃいッ」
「朝からほっぺたとろけちゃう。世界一可愛いわ、エリーゼ」

きゃっきゃと声をあげて喜ぶ無垢な姿は心が洗われる。去年は1歳前でまだ赤ちゃん、プレゼントは用意したけれど、よくわかっていなかった。だから、今年が親にとってもむすめにとってもはじめてのクリスマスで、目の前でキラキラとプレゼントをみてるむすめの姿に、昔の子供の頃の自分の記憶が脳裏に浮かぶ。
あたたかな部屋で、兄弟と一緒にプレゼントを見せ合って、特別に朝からケーキを食べて笑い合う。思い出すたびに胸にひだまりが宿って、忘れられない幼少期のクリスマスが、絵本のような一ページとして人生を彩る。その気持ちを、むすめにも刻んで欲しいと二人は願っている。

「エリーゼ、プレゼント開けてみよっか」
「うんっ!」
「どれから開けたい?」
「んと、……これえ」

すこし迷って、ずっと抱いているプレゼント袋をママとパパに見せる。

「サンタさんから何もらったんだろうね、パパにも見せて欲しいなあ」
「えへへ」

はじめてのサンタさんからの贈り物は、むすめがずっと欲しがっていた着せ替えのできるテディベア。リボンを解いて、顔を見せた時。顔に煌めきを乗せて、大事に抱きしめてはしゃぐむすめの笑顔はしあわせに満ちている。そんなむすめの笑顔が、サンジとなまえにとって最高のクリスマスプレゼントになったのだった。