ほんとうはね、


臨也誕生日記念


5月4日。
ゴールデンウィーク真っ最中のこの日は、俺、折原臨也の誕生日だ。

昔から祝日だったため、家族以外から祝われたことは一度もない。
というか、家族からも祝われたことあったっけ?
大抵が家で一人ですごすか、妹たちの気まぐれに付き合わされるかで、誕生日に碌な想い出なんてなかった。

だから別に誕生日なんてどうでもいいし、この歳になってまで誰かに祝ってもらおうなんて思ってもいない。
そうだよ。そんなんだけど…

「…だからってこれはひどくない?」
別に直接祝ってもらおうなんて期待はしていなかったけど、まさかおめでとうメールの一通も来ないとは思わなかったよ!
信者の女の子たちからは山ほどメールとプレゼントが届いたが、プライベートでも付き合いのある人たちからは一つも来なかった。
新羅、は多分わざとだな。
運び屋は俺を嫌ってるから来るわけない。
ドタチンは、ゴールデンウィークは旅行に行くって言ってたから忘れてるのかな。
多分帝人くんたちは、俺の誕生日なんて知らないしね。…多分。

仕事用のリクライニングチェアに座りながら何度携帯を眺めても、受信メールは0
さすがに面白くない。面白くないので、新規メール作成ボタンを押し、一通のメールを作り始めた。
送信ボタンを押すと、いつものコートを羽織って外に出る。
仕事をする気分にもなれなかったので、大好きな人間観察でもしようと新宿の街へと繰り出した。


午後8時。
すっかり暗くなった街中をとぼとぼと歩いていく。
今日はなんとなく池袋に行く気にはならなくて、新宿でたくさんの人間を眺めていた。
ゴールデンウィークということもあり、多くの人間が楽しそうに大切な人とすごしていた。
俺は誕生日なのに一人だ。
大切な人もいない。楽しくもない。
気分を上げようとして外出したのに、ただむなしい気持ちになっただけだった。
こんな日はさっさと寝てしまうに限る。
そう思いながら、マンションのエントランスをくぐったところに、金色が座り込んでいた。

「おっせーよいーざーやーくんよぉ?」
「…なんでいるの、シズちゃん」
「あんなメール送ってきやがって、なに言ってやがる」
「メール…?」
そういえば、家を出る前に嫌がらせのメールを送ったことを思い出した。
携帯の送信履歴を見ると、確かに「シズちゃん」の文字。
「『俺誕生日だから、プレゼントちょうだい。死んで(^□^)』ってなんだこりゃ。手前が死ね」
「そのためにわざわざ来たの?暇だね」
「うっせぇ殺す!」

ああこんな日にシズちゃんと喧嘩とか本当にない。
そんな元気もない俺は、なんであんなメール送ってしまったのかと本気で後悔した。
しかしいつまでたっても殴ってこないシズちゃんを疑問に思い、反射的につぶっていた目をそうっとあけると、困った顔をしたシズちゃんがそこにはいた。
「…?シズちゃん?殴らないの?」
「…なんでそんなさみしそうな顔してんだよ」
調子狂うと俺から離れていくシズちゃんの背中に、なんだか本当に泣きたくなった。
さみしそう?俺が?
ああ、俺はさみしかったのか。
こんなに人間を愛してくれないのに、誰からも祝われないことに。
大切な人が誰もいないことに。
こんな感情、知らなくてよかったのに。シズちゃんのせいだ。シズちゃんのせいで。

「おい、行くぞ」
そう言うと、シズちゃんは俺の手をつかみ、エントランスを出ていく。
「ちょ!シズちゃん!?どこ行くの?」
「スーパー。駅前のとこならまだ開いてんだろ」
「は?なんでスーパー?何買うのさ。行くなら一人で…」
「ケーキ、あと鍋の材料買う。祝ってやるよ誕生日。だからんな顔すんな」
そんな顔ってどんな顔だよ、と言ってやりたかったけど、シズちゃんの力強い腕と、赤くなった耳と、大きな背中を見たら何も言えなくなってしまった。

俺の家で食べた鍋とケーキは、今までで一番甘かった。
「誕生日おめでとう、な」
そう言って頭をなでたシズちゃんの手は、今までで一番暖かく、俺にも大切な人がいたことをいまさらに気付かされた。


1日遅れちゃったけど、臨也誕生日おめでとう!
でもあんまり祝えてない…
ぼっち臨也にはシズちゃんがいるじゃん!って話を書きたかったんだけど…
臨也誕生日おめでとう大好きだぁぁぁぁあああああ!!!


title by stardust