First Christmas


 それは、シズちゃんとお付き合いなるものを始めて、最初のクリスマスイヴが明日にせまった木曜日だった。


 クリスマスも年末年始も関係ない俺達の仕事だが、シズちゃんの会社が粋なことにイブの夜から休みにしてくれたので、一緒に過ごせることになった。
 1ケ月も前から楽しみにしてて、プレゼントも悩んで悩んで。
 そんな中で、シズちゃんに「…泊まりにこねえ?」って言われた。つまりはそういうことでしょ?クリスマス。初めての、お泊り。一緒の夜。
 聞いた瞬間真っ赤になっちゃって、「っ行く…」としか言えなくて、それでもシズちゃんは照れたように笑ってくれた。


 楽しみだったんだ。もうどうしようもなく。自分のキャラじゃないことは十分わかっていたけど、ずっと楽しみだったんだ。
 なのに。


「わり、明日会えねぇ」
「は?」
「…仕事になった」
「…夜だけでも無理なの?ご飯だけでも…」
「無理だな。わりいけど。じゃあ、仕事だから」
 たったこれだけの会話で、俺のクリスマスの予定は白紙になってしまった。
 いきなり電話してくるから何かと思ったら、こんな最悪の結果だなんて、涙も出ない。
 やたらと早口で告げられた言葉は、俺にとったら死刑宣告も同じだった。
 こんな一瞬で、俺の楽しみにしていた1ヶ月はなかったことにされた。仕事だと?!冗談じゃない。
 ツーツーという携帯の音が俺の悲しみを一層あおる。でも、俺は、ここで泣き寝入りなんてしてやらない。
 焦ったような、すぐ会話をやめたいのがまるわかりのシズちゃんはあきらかにおかしかった。
 なにか隠してる…?それは確信に近い俺の勘。
 全てのパソコンと携帯の電源を入れ、情報収集という名の俺の長い戦いが始まった。



 24日。
 世の中に溢れたクリスマスイブの華やかな空気に、俺は吐き気がした。
 なんだ、この恋人たちの甘い雰囲気は。今まで気にもしなかった甘さに、イライラが止まらない。
 妬みだとはわかっていたが、それでも俺の中のとげとげした気持ちは収まらない。


 昨日、俺の持っている情報源を全て使って調べた結果、わかったことはただ一つ。
 シズちゃんの会社はやはり休みだった。
 つまり仕事なんて真っ赤なウソ。
 シズちゃんは嘘をついてまで、俺との約束を反故にしたのだ。許せるはずがない。
 理由はわからないけど、こんなの間違いなく浮気フラグだ。
 そんなことを考えながら、サンシャイン60階通りを大股で歩く。俺の殺気におされてか、誰も近づいてこない。


 でも、怒りに満たされた俺の心も、幸せそうなカップルを見るうちに、どんどん不安で押しつぶされそうになっていく。
 笑いあう男と女。嬉しそうな、幸せそうな、笑顔。
 まさかと思うけど、本当に浮気、なんだろうか。
 ずっと喧嘩ばかりしていた俺たちが、こんな関係になるなんて思っていなかった。
 実は高校の時から好きだったシズちゃんに告白されて、俺は思いあがっていたのだろうか。そもそも、シズちゃんは本当に俺が好きだったのか。
 本当は女性が好きで、今もどこかの女と一緒に笑っているのかもしれない。
 そう考えると、もう目の前が真っ暗で、目からは涙がにじんで、立っていることもできない。


 通りの端でうずくまってみた。勢いあまって池袋まで来てしまったが、来てどうしようというのか。
 シズちゃんに会っても、何も言うことなんてできない。
 だったら帰るべきなのか。でも一目会いたかった。


 そう思って顔をあげると、目の前に立っていたのは俺の会いたくないリスト常に上位の、シズちゃんの後輩、ヴァローナだった。


「なにしてるですか?」
「別に、君には関係ないでしょ」
「関係、あります。あなたのこと、先輩いつも気にしてます。だから私も気にします」
「シズちゃんが…?」


 沈んでいた気持ちが少しだけ浮上する。俺の事気にしててくれたんだ。池袋に来るなってことなのかもしれないけど、それでも嬉しかった。
 少し気分が上向いてきた俺は、いつもは話したくないその女に一つだけ聞いてみた。聞きたいことがあったのだ。
 それはどんなに調べてもわからなかったこと。


「ねぇ、シズちゃんが今日どうしているか知ってる…?」
「先輩、ですか?先輩は…」


 その答えを聞いた瞬間、俺は走り出していた。



長くなったので続きます。ヴァローナの口調わからない…