隣で眠らせて


 寒い!寒い寒い寒い!!

 茹だる様な暑さから一変。この一週間で気温は10度以上下がり、本格的な冬がやってきた。
 普段から真っ黒なコートを着ているくらいだ。折原臨也は滅法寒さに弱かった。

「ああホント嫌になるよね。この前まで30度とかだったのに。最高気温一ケタってどうなってるの」
 エアコンをガンガンに効かせても、どれだけ服を着ても、あまりの寒さの前では意味もなく、ただでさえ悪かった機嫌はさらに急降下するばかりだ。
 地球温暖化とか言ってるなら、冬なんてなくなっちゃえばいいのに。
 
 パソコンの前に座っていても、手がかじかんでしまいうまくキーボードが打てない。 これでは仕事にならなかった。
 かといってベッドにもぐりこんでも、足の先が氷のように冷たく、凍えてしまって眠ることもできなかった。
「…仕事もできない、休めもしないって、いい加減にしてよね」
 誰もいない部屋に響く自分のぼやきに、ますます寒さが増す。さすがの臨也も、あまりに自分の不憫な状況に、ちょっとだけ泣きたくなった。
「もう、無理」 
 そう決心すると、携帯でタクシーを呼びだし、コートの前をしっかり締めて、マフラーをぐるぐるに巻いて、なぜか自分から深夜の凍える街へと出て行った。



「さみ…」
 急激に冷え込みが増したせいか、布団一枚では厳しい夜になった。
 静雄は部屋の中が急に寒くなったような気がして、さっき眠りについたばかりだというのに、ぼんやりと覚醒してしまった。
 エアコンは電気代を考えるとなかなか使えない。
 布団を体にまきつけて、さっさと寝てしまおうと布団をにぎりしめると、なぜか自分の胸のあたりに暖かさを感じた。
「……?おれ、ゆたんぽとかしてたっけか?」
 寝ぼけた頭でぼんやりと考えるが、そのような記憶は出てこない。
 それでも、その暖かさを離せずに、ぎゅっと抱きしめる。
 すると。

「しずちゃ…くるしい」
「は?」

 自分が抱きしめているのは、あろうことか世界一憎く、そしてなぜか恋人でもある、折原臨也だった。

 さすがに寝ぼけた頭が、急に意識がはっきりしていく。
「いっ臨也?てめぇ何してやがる!!」
「しずちゃん、深夜にご近所めいわくだよ…」
 静雄にしがみついて寝ていた臨也も、静雄の驚いた声で目が覚めたのか、ぼんやりとした声で静雄に答えた。しかし体はしっかり布団の中。二度寝する気満々だ。
「寝んじゃねえ!いつのまに来やがった!何しに来た!!」
「シズちゃんうるさい。来たのはついさっき。来たのは寒かったから」
「は?」
「寒くて眠れないんだもん。シズちゃんも早く布団に戻って、つめたくなっちゃうよ」
 
 臨也が布団をぽんぽん叩く。
 あまりに驚いて布団から飛び出てしまったが、寝巻(高校のジャージだが)一枚でいるのは流石に寒い。
 言いたいことはたくさんあったが、布団の魅力には逆らえず、臨也の言うがまま布団に戻った。
 そこにすかさず臨也が抱きついてくる。なんだかそのしぐさが可愛くて、思わず頭を抱え込んでしまう。

「って、てめっ何だこの足!すっげぇつめてえぞ」
「俺冷え性なんだよ…これのせいで眠れなくて困ってたんだよね。シズちゃんあったかいから、一緒に寝れば眠れるんじゃないかと思って。」
 やっぱり眠れた、と呟く臨也は、今にも眠ってしまいそうだ。
 冷たくなったつま先を、そっと足でなでてやれば、気持ち良さそうに臨也がすり寄ってきた。猫みたいだ。
「おやすみ、シズちゃん」
「おう」
 臨也を抱えなおし、静雄もそっと目を閉じた。
 臨也の心臓の音と、ふんわりと薫る臨也の匂いのおかげで、覚醒してしまった意識がぼんやりと落ちていく。
 きっといい夢がみられそうだと思いながら、静雄は意識を手放した。



臨也は絶対冷え性だと思う。湯たんぽないときつい季節になりました。