貴方とコンビに コンビニ店員×客 「いらっしゃいませ」 深夜3時、池袋の駅前にあるこのコンビニでも、客なんてほとんど来ないこの時間。掃除したり、明日の販売品を確認したりするのが主な仕事だ。 しかし、一週間ほど前から、毎日この時間にやってくる客がいた。 いつも黒のコートを着た、俺と同い年くらいの男。ただの客ならさして珍しくもない。しかしこの客は、 「あぁ気にしないで。勝手に見てるから」 「じゃあ決まったら声かけて下さい」 とにかくよくしゃべる奴だった。 流石に初めて見た時は普通だったが、二回目からは何かと話しかけてきた。まぁこっちも暇だからいいんだが。 俺はお言葉に甘えて、デザート棚の在庫チェックを再開した。 夕方に女子高生やOLが大量に買っていくため、品数はかなり淋しい。入荷の朝5時まで持つかな… そう考えていると、突然後ろから話しかけられた。 「デザートないねぇ」 「うわっ」 「ごめんごめん、びっくりさせちゃった?」 他の従業員が裏方にいる今、店内で話しかけてくるのは、さっき入店した客しかいない。 「すんません」 デザートが見たいようなので、チェックをやめて端へ寄る。しかし先程自分でも確認した通り、デザートの棚は閑散としていた。 「すんません」 「ははっ、謝ってばっかりだね。今度は何に対して?」 「いや、デザートなくて」 「いいよ、この時間にくる俺が悪い」 でも残念だねぇとデザート棚を通り過ぎると、ペットボトルのお茶を冷蔵庫から取り出し、レジへと持っていった。 こいつはいつもお茶しか買わない。店内の全ての棚を見てまわるくせに、これ以外を買ったことはなかった。 だから、残念だとまで言わせる商品の存在が少し気になった。 「何探してたんすか?」 突然話しかけた俺に驚いたのか、財布から小銭を出していた手を止めて、まじまじと俺を見た。 あ、目でけぇ。 初めてちゃんと顔を見たが、びっくりするほど整った顔をした男は、照れ臭そうに、「苺のモンブランプリン」と答えた。それは、先週発売されたばかりの人気デザートだった。 「それ、夕方には売切れちまうんですよね」 「それじゃあ俺は買うタイミングないなあ」 心底残念そうに呟くと、男はがっかりした顔を隠しもせず、店を出て行った。 ありがとうございましたーと言いながら、俺はその顔が頭から離れなかった。 次の日。 「いらっしゃいませー」 今日も時間通りにやって来た男は、鼻唄を歌いながらデザート棚へ向かった。そして棚の中を見ると、あからさまにがっかりした顔をした。 昨日言っただろうが、夕方には売り切れるって。 しかしいい歳した男が、たかがコンビニデザートにそこまでがっかりするなんて、本当におもしろいな。ついつい、俺は男をガン見してしまった。 昨日と同じお茶のペットボトルをレジに置くと、「やっぱりないんだね」と苦笑いを浮かべた男は、千円札を俺に渡した。 釣銭を貰おうと差し出された手の上に、小銭ではなく、あらかじめ準備しておいたあるものを置いた。 少しの期待で、口元が緩んでしまった。 「これ…」 「取っといた。食いたかったんだろ?…っとですよね?」 置いたのは、男が探してはため息をついていた苺のモンブランプリン。 昨日のバイト終了時、ちょうどやってきたトラックは大量のプリンを運んできた。店長に頼んで一つ取っといてもらったのは、あんなにがっかりした顔をしてほしくなかったから。 こんな考えはおかしいって、わかってはいるが。 「いつも来てくれるお礼っす」 そう言うと、目の前の彼はなぜか真っ赤になって、でも嬉しそうに微笑んだ。 その笑顔はすごく可愛くて、心臓が変な音をたてる。あれ、いったいどうしたものか。どうしたらいいんだ? プリンの金を払って、男は上機嫌で帰って行った。 「ありがとう、今度お礼するから!俺、折原臨也。君は?」 「…平和島、静雄」 ああ、春ですね(笑) 苺のモンブランプリンは捏造です。あったら私も食べたい。 |