僕らが愛を知る理由


月9パロ
28歳パティシエ子持ち静雄×21歳臨美ちゃん
臨美ちゃんがだれおま乙女です



「正社員にならないのか」

そう言われた時、確かに心臓が痛いくらい揺れた。
ずっと好きだったバイト先の店長。
子どもがいる事も、死んでしまった奥様を今も大切にしている事も、知ったところで気持ちは少しも変わらなかった。
そんな人に、必要とされている。
それだけで、声が震えるくらい嬉しかった。



「津軽が、熱?」

クリスマスイブ。
ケーキショップにとって一番のかきいれ時。
空はだんだんとオレンジに染まり、イルミネーションが輝き始めた時にかかってきた一本の電話に、店長である静雄さんの声が固くなる。
「いえ今日は…できるだけ早く迎えに行きます。はい、すみません」
電話を切った後も、店長の顔は険しい。
困ったように、顔を掌で覆っていた。

「津軽くん、熱ですか?」
「あぁ、結構高いみたいでな」

津軽くんは店長の一人息子だ。
今3歳の可愛い盛り。
人見知りするのかそれほど話したことはないが、たまに見せてくれる笑顔が本当に可愛い男の子だ。
確かに朝、少し風邪っぽいとは思ったが、まさかこんなに悪化してしまうとは思わなかった。

熱が高いなら、迎えに行って病院に連れて行くべきだ。
しかし夕方になったとは言え、まだまだお客様はやってくる。
追加のケーキを作ったり、イートイン用の盛り付けをしたりと、店長が店を抜ける訳にはいかない。
…だったら。


「私が行きますよ?」
「は?」
「津軽くんの迎え。よければその後病院に連れて行って、私の家であずかります」

ちょっとでしゃばりすぎかと思ったが、これが一番いいとも思う。
今日の店長に津軽くんの面倒を見る余裕はないだろう。
私はもう勤務が終わるし、残念ながら予定もない。
うちで看病して、明日の朝連れて行く、たぶんそれが津軽くんの体調を考えたら一番いい。
そう伝えると、店長は申し訳なさそうな顔をして、「頼む」と絞り出した。



「ただいまぁ」
「おはようございます」
「津軽!」

次の日の朝、すっかり平熱に戻った津軽くんを連れてお店に行くと、心配そうな店長が飛び出して来た。
よほど気にしていたんだろう、津軽くんを抱きしめ体調を確かめていた。
「もうすっかり熱も下がりましたよ」
「よかった…本当にありがとう」
「いえ、私も津軽くんと仲良くなれて嬉しかったですし」

正直、静雄さんに子どもがいると知った時はショックだった。
もうこの想いは終わりにしようと思った。
でも、今は違う。
津軽くんと一緒にいる店長が好き。
いつもより優しい笑顔。暖かい声。
それを見れるのが本当に嬉しい。
静雄さんも、静雄さんが大切なものも、私はまとめて愛しいと思う。
きっとこれが本当の愛なのだ。

津軽くんの頭を撫でると、昨日までは見られなかった本当の笑顔を向けてくれる。
それが嬉しい。
「お泊まり楽しかったか?」
「うん!臨美お姉ちゃん、またお泊まりしてもいいですか?」
「いつでもおいで」
津軽くんを抱きしめると、臨美お姉ちゃん大好きーと抱き返してくれる。
それを店長がびっくりしたように見守っていた。


「臨美お姉ちゃん、ツリーの飾り付けしたいです」
「でももうクリスマス終わっちゃうよ?」
「いいからいいから!」

お店も閉店時間。長く忙しかったクリスマスも、あと数時間で終わりを迎える。
そんな中で、奥から出てきた津軽くんが、私をツリーの前まで引っ張った。
確かにツリーの飾りは少し寂しかったが、今さらという気はしないでもない。
それでも津軽くんが楽しそうだったから、一緒に飾り付けをすることにした。
サンタや星の飾りを、津軽くんと相談しながらつけていく。
それを店長が楽しそうに見ている。

「これで最後です」
そう言って、小さな靴下を津軽くんが差し出してきた。
赤と緑のクリスマスカラーの可愛い靴下。
「どこに飾ろうか?ここかな〜?」
そう言いながら一番いい場所を探していると、何か固いものが指に触れる。
靴下の中に何か…?

靴下を逆さにすると、掌には銀色に輝く小さなリング。
「え…?」
驚いて、後ろにいる静雄さんを振り返る。
静雄さんはそっぽを向いたまま、早口で言った。
「勘違いすんじゃねーよ!その、津軽のお礼だ」
その顔は、耳まで赤い。
「しちゃう…勘違いしちゃいますよ…」
驚きと嬉しさと、色々な感情がいりまじって、何とか声に出せたのはそれだけだった。
こんなの、勘違いするなって言われたって無理だ。
リングをぎゅっと握りしめる。
確かにあるその感触に、涙がこぼれる。
そんな私に狼狽えたのか、なかば怒鳴りつけるように静雄さんは言った。

「っ!なら勘違いしとけ!」
「…はいっ」

大事に大事にリングを抱きしめると、津軽くんがそっと服を掴んで引っ張った。
「臨美お姉ちゃん、メリークリスマス」
「メリークリスマス、津軽くん、静雄さん」


大好きな人と、大切な人と、今日は最高のクリスマス。



メリークリスマスということで、甘さで砂を吐きそうなものにしました。
月9の優ちゃんにめっちゃ萌えたのでパロです。
もはや臨也の面影はどこにもない…
そして津軽の口調がわからなかったです。

皆様よいクリスマスを。