きっとそれはいつまでも


覚悟はできてる?の続き



1月1日、元旦

新年に相応しい明るい朝。
空は雲ひとつなく、高く澄みきった青が広がっている。

そんな中、俺はというとなぜか。
なぜか平和島家の一家団欒にお邪魔するという、いたたまれない状況に追いやられていたのでした…


「いつも静雄がお世話になってますね」
「寒い中よくいらっしゃいました」
「明けましておめでとうございます、臨也さん」

「明けましておめでとうございます。こちらこそいつもシズちゃ、静雄さんにはお世話になってます」

とにかく失礼があったら大変と、丁寧に頭を下げる。
迎えてくれたのは、シズちゃんのお父さんとお母さん、それに幽くん。
平和島ファミリー勢揃いである。

いたたまれない。
なぜ俺が?
すでにシズちゃんは俺を「恋人」として紹介しているらしく。(ホントに何考えてんの?バカなの??)
まぁつまり平和島家の皆さんには、大事な長男が男なんかと!って事で、俺にはいい印象なんかないはずだ。
なのにその中に入っていくなんて、胃が痛い以外の何物でもない。


しかし、いざ行ってみると。
「折原さんすごい所に住んでるんですねぇ!あ、お酒つぎますから」
「折原さんホントに美人ですね!おせち沢山食べてくださいね」

すごい歓迎っぷりである。
おじさん、おばさんに囲まれ、お酒やらご馳走やらを次々に奨められる。
とてもフレンドリーな雰囲気に、段々と緊張も溶けていく。
高校時代の事とか、馴れ初めとか、今なにしてるのかとか。
根掘り葉掘り聞かれて、最初は恥ずかしさもあって戸惑っていたが、気がつけばペラペラと話してしまっていた。
シズちゃんのお父さんお母さんって事もあるのか、とても話しやすい。
ここでシズちゃんが育ったのかと思うと、安心するし暖かい気持ちになる。
こんな家だったら、あんなキレイな内面に育つよねぇ。
新年そうそういい気分で、来てよかったなと思った。


あっという間に、夕暮れ時。
真っ青だった空も藍と赤のグラデーションに染まり、冷たい風が肌に突き刺さる。
「そろそろ帰るぞ、臨也」
ちょっと怒ったような声でシズちゃんが立ち上がる。
いきなりの事に、頭の中にはてなマークが並ぶ。
どうしたんだろう、さっきまで機嫌よく幽くんと話していたのに。
「え、でもいまおばさんとお汁粉作ってて…」
「いいから!」

急に手を引っ張られてバランスを崩した俺は、手に持っていたお汁粉が宙に飛んでいく。
かかる!そう思って目を固く閉じた。

しかし、いつまでたっても痛みも熱さも感じない。
不思議に思って恐る恐る目を開くと。
腕に熱いあんこを被って、眉をひそめているシズちゃんが目に飛び込んできた。

「シズちゃん!」
「大丈夫かよ?」
「シズちゃん!やだ、なんで、早く冷やさないと」
「落ち着け、俺は大丈夫だから」

俺をかばったシズちゃんの腕は、火傷だろう真っ赤になっていた。
騒ぎを聞きつけて、おじさんやおばさん、幽くんまでやって来た。
惨状を見ると、おばさんはてきぱきと部屋を片付け、幽くんはシズちゃんをお風呂場に連れていった。

あまりの事に呆然としていると、おじさんがタオルを差し出してくる。
「折原さん、ズボンに少しかかってますよ」
「あ、すみません…」
確かにそこを見ると、ほんの少し茶色くなっていた。
汚れを拭くために下を向いたせいか、申し訳ない気持ちになってきた。

「なんだかすみません…」
「どうして謝るんですか?」
「シズちゃんを怒らせてしまったみたいで…」
くっはははっ
おじさんは堪えきれないと言った風に笑いだした。
びっくりして顔をあげると、シズちゃんにそっくりの顔が、優しげな顔で微笑んでいる。

「あれは焼きもちですよ」
「焼きもち?」
「俺たちが貴方をずっと離さなかったから、イライラしていたんですよ」
そう言うと、おじさんは俺の手をそっと握りしめた。
「それほど貴方が大切なんですね。これからも静雄をよろしくお願いしますね」
それはつまり。俺はシズちゃんの家族に。


「あっ、父さん!手ぇ離せよ!!」
シズちゃんは怒鳴りながら、俺とおじさんの間に入ってきた。
「こいつは俺のなんだからな!って臨也!てめぇも何顔赤くしてやがる!!」
赤くなってる?
だってシズちゃんのお父さん、シズちゃんにそっくりだから、シズちゃんが年を取ったらこんな感じかなって。
うわあああああ俺恥ずかしい!
赤くなった顔を隠すように手で覆うと、シズちゃんはますます疑いの目を鋭くして俺たちを睨み付けた。

「帰るぞ」
「えっ、待ってよ!お邪魔しました」

玄関できちんと頭を下げると、おじさんもおばさんも、またと言ってくれた。
沢山のお土産を片手に、走ってシズちゃんを追いかける。
ようやくコートの裾を掴むと、振り返ったシズちゃんは、何とも言えない渋い顔。

「連れて行くんじゃなかった。あんなにお前が気に入られるとか、面白くねぇ」
くすっ
シズちゃんは、子どもみたいな事を、聞こえるか聞こえないかくらいの音量でぼそぼそと言う。
思わず笑いが込み上げてきた。
「んだよ」
「俺は楽しかったけどな。シズちゃんの家族、紹介してくれて嬉しかったよ?」
知らなかったシズちゃんの事が沢山知れた。
シズちゃんの大切な家族にに、認められた。
それが俺は嬉しくて仕方ないんだ。

「ね、早く帰ってお汁粉食べよう?おばさんにお土産でもらったんだ」
「おう、うちのお汁粉うまいんだぜ」
「俺、今年の目標、シズちゃんちの味を覚えるにしよーかな?」

そう言うと、シズちゃんの顔がびっくりするくらい嬉しそうにほころんだ。

手を繋いで家に帰りながら、シズちゃんはそっとささやいた。
「もう家族公認だから、逃げらんねぇな?」
「…ばーか」


君の大切なものは、俺の大切なものになっちゃったんだよ。
今さら逃がそうなんて、許さないんだから。
今年も来年もその先も、ずっとずっとよろしくね。



Twitterでお世話になった方たちに年賀状か年賀メールで送らせていただきました。
新年→シズちゃんは家族とだろう→臨也ぼっち→じゃあ平和島家行っちゃえばいいじゃん→そしたら親にご挨拶だよね!
ってノリで書きました。
楽しかったです!