また明日も手を握るから 9



気が付いたら、私はシズちゃんの腕の中だった。

「し、ずちゃん、なに…?離して」
なんとかその腕を離そうとしたが、私の力ではびくともしない。
むしろシズちゃんの俺を抱きしめる力は、強くなる一方だった。
「離さねぇよ、もう絶対離さねぇ」
「なんで…」

ぎゅっと強く抱きしめられると、ようやく少しだけ離され、シズちゃんの顔が見られる距離になった。
私は涙で顔がぐしゃぐしゃだったけど、シズちゃんも同じくらい泣きそうな顔をしていた。

「お前が妊娠したのは、俺のせいだ」
「え…?確かに父親がシズちゃんだけど…」
「そうじゃなくて!お前が妊娠すればいいと思って、わざと避妊しなかったんだよ!」
「は…?」
どういうこと?
私が妊娠すればって、え?わざと?

「なんだんだよセフレって!俺は冗談じゃねぇよ!お前は慣れてるのかもしれないけど、俺はお前だから抱いたってのに」
「え?」
「この関係をどうにかしたかったんだよ。もう終わりにしたかった」
終わり、という言葉にびくっとする。
それに気づいたシズちゃんが、そっと肩をなでた。
「終わりってそうじゃねぇ。俺はちゃんとしたかったんだ。俺だけのものになってほしかったんだ…」
「しずちゃ…」
「お前がどういうつもりで俺に抱かれてたか、情けないことにわかんねぇ。俺の他にセフレがいんのかもしんねぇ。だけど妊娠したんだ、だから」
「…だから?」
もう涙で前が見えなかった。
きっと今私には、信じられないことが起こっている。

「もう俺のものになれよ、臨美」
「…っ!しずちゃん」
もう私は、ずっとシズちゃんのものなのに。
涙で何も言えなかったけど、シズちゃんに腕をまわしてぎゅっと抱きついたら、シズちゃんが見たこともないくらい穏やかに笑ったから、あぁ伝わったんだと思って。
そうしたらまた涙が止まらなくなってしまった。



「他にセフレなんていないよ…」
「よかった…いたらそいつ殺してやるところだったわ」
「ってか、シズちゃんじゃなかったら、しようとか、言わないし…」
「ったく、最初っからそう言えよ」
自宅のマンションにシズちゃんをいれると、そのあとはずっとシズちゃんの膝の上に乗せられることになった。
急に訪れたラブラブな展開に、恥ずかしくて逃げたくなるのだが、シズちゃんはそれを許してくれなかった。
距離が近いと言ったら、「今まで遠かったんだから、別にいいだろ」と真面目な顔で言われてしまった。
別にいいけど、いいけど、恥ずかしいんだよ!

私のお腹を優しくなでながら、シズちゃんは飽きもせず私と子どもに話しかけている。
「本当にここに俺とお前の子どもがいるんだなぁ、すげぇなぁ」
「あと2カ月で生まれるんだよ」
「間に合ってよかった…」
そう言ってほほ笑むシズちゃんは、もう「お父さん」だった。
ああ、この子にはちゃんとお父さんができたんだなぁ
そう思うと、また涙が出そうになった。

「また泣いてる」
シズちゃんの指が、そっと涙をぬぐった。
「だって嬉しくて。この子にちゃんとお父さんができたんだなぁって」
「お前に旦那もできただろうが」
「だん、な…」
旦那、って。夫婦ってことで。つまり結婚するってことで。
顔がいっきに赤くなるのがわかる。
なんでそこに考えがいたらなかったんだろう。
真っ赤になって俯いてしまった私に、シズちゃんは覗き込んで無理やり目線を合わせる。
「なんだよ、いやなのかよ」
「嫌なわけない、けど…。本当にいいの?私でいいの?私、重いよ?性格悪いし、面倒くさいし、」
「そんなの知ってる。何年一緒にいたと思ってんだよ」
「だって…」
「俺は最初から、お前しか選んでねぇ」

そっと手を取られ、ぎゅっと握られた。
決してつながることはないと思っていた、私とシズちゃんの人生。
ようやくシズちゃんの手を握ることができた。
こうして明日も明後日も、ずっとずっと一緒にいたい。
ずっとこうして手を握っていてね。
私はこの手をもう離せない。だからシズちゃんも、もう絶対離さないで。



無事完結しました…!
お付き合いくださってありがとうございました。
すれ違っているシズのぞが書きたかったのですが、うまく伝わっているでしょうか。
離れ離れの2人のときは、自分もつらくなってしまったのですが、最後はもうのりのりで書くことができました。
大変だったこともありましたが、すごく楽しく終えることができて嬉しい気持ちでいっぱいです。
自分の力不足に歯がゆくなることもあったのですが、こうして完結できたのも、読んでくださる皆さんのおかげです。
読んでくださって、そして5000hitいただいて、本当にありがとうございました!!

とりあえず、子ども生まれてからのも書きたいですね。