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さらにやり返してきた嶋だったけどそんなのも教室に着くまでで、教室に着くと嶋はさっさと自分の席に行って帰り支度を始めた。

嶋の友人たちが教室にいて声をかけられていたがどうやらそれも断ったようだ。さっきおれにはあんな言い方してたとは思えないくらい申し訳なさそうに、ごめんね?なんて首を傾げていた。


誘った方が謝っちゃうくらい悲しそうな顔してるのがおれの方からも見えて。おれには絶対しないような顔に、さっきおれと話してたみたいに話してみろと内心思ったがああいう波風立てない断り方はマイチャンだからできるんだろう。

それはいいと思うんだけど、ならおれにももう少ししおらしく…

……ああ、でも。今更そんなされても対応に困る。


おれと話すマイチャンを想像してみて、ないなと小さく首を振り階段をのぼる足元におれは目線を落とした。


鞄置きに行くためだけに部屋に戻るのも面倒で、時間的にもちょうど良かったから1階の裏口から階段をのぼってきたんだけど。


「はあ、お、おじゃまします……」


8階に着いて、前みたいに開けておいてもらっていた篠塚先輩の部屋に入る頃には息が上がってしまっていた。


「…急がせたか?」


「ふつうに階段のぼってきただけです……」


1階からのぼってくるのはやっぱりきつい。

なんだ、と笑う先輩に迎え入れられて部屋にあがった。


「…せんぱい、もう戻ってきてよかったんですか?」


先にソファーに座った先輩は、ん?とおれを振り返る。


「集会終わって、何かやることあったんじゃないかと思って」


「集会仕切るのは風紀の仕事じゃないから」


大丈夫らしい。そういうもんなのか。

ソファーの横に鞄を置かせてもらい先輩の横におれも座って一度大きく吸った息。ふう…とそれを吐いたら隣に座る先輩がふっと笑った。


「落ち着いた?」


「…はい」


今日もすでにテーブルに用意されていた煙草。

おかしそうにおれを横目で見る先輩は、おれが何も言わなくてもその煙草に手を伸ばした。


「風紀の仕事もなかったんですね」


「今日は昼行ったから。この時期は学校も落ち着いてるし、そんなに人数いらないんだよ」


「へえ」


おれにはよくわからないけど、風紀が忙しくないなら先輩のとこにも来やすいしおれにとっても良いことだ。そうは言っても昼に行ってやることはあるみたいだから暇ではないんだろうけど。

先輩がいつもみたいにボックスから煙草を一本取り出すのを見て横でおとなしく待つ。


「体育祭とかやる頃には忙しくなるだろうけどな」


取り出された煙草がおれの口元に差し出されたから、先輩が言ったことには心の中で相槌をうっておれはそれを咥えようと口を開いたんだけど。


「……ぇ、」


口に触れるというところでひょいっと煙草を避けられてしまって固まった。

え、なに、と眉を寄せて先輩を見る。


「…どうしたんですか」


「いや。そういえばさっきまで俺の話退屈そうに聞いてたやつに煙草やんのもなあと思って」


「………」


そう言われてすぐに気づく。


……やば。忘れてた。

集会のとき、先輩はやっぱりおれのことを見ていたらしい。おれが顔をしかめたのもばっちり見られていて、先輩が目を細めたのもやっぱりそんなおれに向かってだったんだ。

いや、そうだとは思ったんだけど嶋とくだらないこと言い合って戻ったせいで集会であったことをすっかり忘れて普通に連絡して普通に来てしまった。

嶋のせいで忘れ、……いやそもそもああいうアホなことしちゃうおれが悪いんだけど…。


「どうせ俺の方からは見えないと思ったんだろ。前からって意外と見えるからな」


「ぅ、」


ぷらぷらと指に挟んだ煙草を揺らして意地悪な顔で見てくる先輩は、怒ってるというより楽しんでいるのが見て取れる。

ちゃんと話聞けとか怒られるんなら素直に謝るけど、いちいちそう意地悪なことをして面白がるだけならおれだって素直に謝りたくない。


「……だって、話長かったんですもん」


「ほーお」


篠塚先輩の話が特別長かったわけじゃなくて話す人が多かったから集会自体が長かっただけなんだけど。

先輩にちょっと反抗するつもりでそう言ったら集会のときみたいにすっと細められた目に、うっ、てなって目を逸らした。


「…おれのこと見てるなんて思わなかったし」


「つまんなそうにしてる一年がいるなあと思って見たら星野だったんだよ」


「いや、集会とかみんなつまんないに決まって……」


……あ。いや。

篠塚先輩が話し出した途端目きらきらさせて聞いてた人もいた。人もっていうか、そんな人ばっかだったかも。

そこまでじゃなくても直江たちだって風紀委員長だ、と最初に先輩見つけたときは反応してたくらいだ。そんな中でつまんなそうにしてるやつがめずらしくて見つけやすかったって言いたいのか。


「………」


「なんだよ」


「う゛!」


俯きつつ上目でじとりと目の前のイケメンを睨んだら、がっと顎を掴まれて上を向かされてしまった。


「ん゛ー…っ」


「ふっ、」


くいこむ指と、そのせいで痛くて歪むおれの顔が面白いのはわかるけど。顔見て笑うのやめてくれませんか。


「…せんぱい、いたい」


「なんで今睨んだの」


「……べつに」


これだからイケメンは、と思ったからですけど。
とは言わずに、顔は伏せられないから目だけ伏せて言いたくない意を示した。


「ふうん。俺が星野に怒ってるのに俺が睨まれるのおかしいと思うんだよなあ」


「せんぱい、おこってないくせに。それにいろわるく、……」

ない。


と言おうとしてぴしりと止まったおれ。


「ふ、いろ?」


「ぅ、あ゛…っ」


さいあく。

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