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「集会ってなにすんだろ」


「話聞くだけじゃん?」


6時間目までの授業を終え廊下に出れば他の教室からも人が出てきていて、ぞろぞろと体育館へ向かう人の流れに沿っておれらも移動を開始した。

集会は第一体育館で行われるらしい。

3つある中でいちばん大きな体育館だけど、全校生徒入るのか?と思って着いてみれば案の定続々と到着する生徒で既に結構いっぱいの状態。学年クラスごとに名簿順2列でできるだけ横を詰めて座れとマイクで案内がされている。


「ここ座っちゃおー」


「そうだな」


名簿順と言われているけど、この混雑している状況で並び直すのも面倒だしそんな確認もされないだろうとおれたちは自分たちのクラスの列を見つけ後ろにつくとそのままそこに座った。他の人もほぼ来た順に座っているから大丈夫そう。

隣のクラスの人との距離が近くぶつかりそうだったから、隣に座る直江の方にできるだけ寄って膝を抱えた。

体育館の右側ではまだ人が立ってわちゃわちゃしているが、たぶんあっちは3年生だ。まだ整列していないっぽくて、おそーい!って向こうから声が聞こえる。ような気がする。っていうくらい体育館全体がうるさくてまだ集会は始まらなそう。


「前誰いる?」


「ん〜3年生ばっか?あ、あれ体育委員長の人だっけ?」


直江と陽介は前に立っている人を確認し、体育委員なら体育祭の話とか?とこれから集会で話されるであろう内容を予想し始めた。


「あ!風紀委員長もいる〜」


「え」


体育祭の話と聞き、あーなるほどと思っていたところで直江が口にしたワードにおれは小さく声を上げた。そのせいでどうしたのかとふたりに問われてしまったが、話す人何人もいたら終わるの遅くなりそうだとか言って適当に誤魔化した。

……ほんとだ。篠塚先輩いる。


びっくりしたというか、特に何にもないんだけど思わず反応してしまった。

前に座る人たちの間からおれも前の様子を見れば直江の言ったとおり風紀委員長の篠塚先輩が立っていて。ふたりには先輩とのこと話していないけど、でも風紀委員長のことはふたりも知っているんだよなと思ったらなんだか少し変な感じ。


そうこうしているうちに集会が始まって、騒がしかった体育館内は静かになりマイク越しの声が響く。


「やっぱそうだったな」


先ほどふたりが見た人は体育委員長で合っていたらしい。全校生徒へ向けた挨拶と少し先の体育祭についての話がされた。

それに続いて保健委員長だという3年生の人も壇上に上がり挨拶をした。体育祭へ向け体育の授業だけでなく放課後練習することも増えてくるだろうから怪我と体調には気を付けろとのこと。


体育祭の話はあったが、今日のところはどちらかといえば今年度の委員会の長となった人たちによる全校生徒へ向けた挨拶がメインのようだ。


他にも前に立っていた各委員会の委員長による挨拶も手短に終わり最後に壇上に上がったのは篠塚先輩だった。


「……わあ」


その瞬間一気にざわついた周囲に、意味合いは違うがおれも一緒になって声をあげた。


「あー風紀委員長の人もすごい人気なんだよな」


「食堂行ったときは見たけど星野入学式のときの生徒会の挨拶聞いてなかったみたいだし、こういうとこじゃ初めてだもんね」


おれのきょとんとした反応に、びっくりした?とおれの顔を横と後ろから覗き込んでくるふたり。


「え、あ、うん。」


びっくりした、のかな。


人気者だという生徒会の人たちと同じように篠塚先輩も人気があるんじゃないかとはおれも思ってはいた。前に先輩と一緒に校内を歩いたときに先輩が周りの生徒から示されていた反応はすぐ隣で見ていたし、わかっていたことなんだけど。

こう、全校生徒を前にして立ってる先輩を見るのは初めてだし、こんだけ大勢の人ざわつかせるとかやっぱり先輩も人気のある人なんだと実感して。

直江と陽介に思われているのとは多分ちがうけど、たしかにびっくりした。


「篠塚先輩ってかっこいいよね」


「話してみたいよねー」


とか近くの人が話しているのが聞こえる。

やっぱり1年でも内部生なら知ってて当然の存在なんだな。すげえ。

と思っていたら直江と陽介もその会話を聞いていたようでむりじゃね、とかこそこそと話してる。


「話してみたいって、風紀のお世話になるしかないよな」


「でもわざわざ風紀委員長でてくるか?ふつうに他の人に怒られて終わりそう」


たしかに、とふたりで笑ってるけどおれその話題ちょっと笑えない。


「あ、そうだ星野気をつけろよ。なんかしょうもないことして風紀に捕まりそうだから」


「ア、ウン」


もう遅いよ。

とは言えなくて前に立って話してる篠塚先輩の方を向いたまま頷いた。周りではこうしてこそこそ話している人の声も聞こえてくるが、先ほどまでのざわつきは収まってみんな風紀委員長の話に耳を傾けている。


新年度が始まり少し経って慣れてきた頃。気を張る必要はないがテストや体育祭も近い。ハメは外し過ぎないようにというお話だ。


先生かよ。


硬い体育館の床。腰も痛くなってきてはやく終わんないかな、とぼんやり壇上で話す先輩を見ていたら全体を見渡すように話していた先輩がこっちを向いたタイミングで目が合った。ような気がするが変わらず先輩は淡々と話を続けている。


「………」


先輩ひとりに対してこっちは全校生徒がぎゅうぎゅうになって座ってる。

どうせ気のせいだしおれのこととか見えてないだろうけど、まだ終わらないんですかという思いを込めて、ん゛〜っと顔をしかめてみれば一瞬こっちを見る目がすっと細められた。


あ、待ったほんとに合ってたのかも。

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