10
昼休み、
「なおなおとご飯いく?」
適当に購買で買ってきて食べようと思っていたら誘われた。なおなおに。
突然の誘いにどうしようかと一瞬迷っていたら
「なあ…お前そのなおなおってなんだよ。」
おれが答えるより先に聞こえてきた、なおなおに対する苦言。
「あ、ヨースケも行こー」
おれたちの席の方まで来たヨースケというらしい彼は、おれと同じか少し小さいくらいの身長で小柄だ。彼もすこし日に焼けている。
「行くけど…。あ、おまえも一緒なんだろ?」
「あ、うん。たぶん」
「たぶんて何。」
そう言って彼がけらけら笑うと、取っ付きにくそうだった雰囲気が人懐っこいものに変わった。
食堂に向かう2人の後ろについて歩く。
広い廊下に出たところで、2人が歩くペースを落としておれを挟むように並んだ。
「星野、カード持ってきた?」
「ああ、うん」
「たぶん凄く混んでるから、先席探そう」
食堂に向かう廊下には、おれたち以外にも沢山の生徒がいてぞろぞろと人の流れができている。
こんな状況も初めてなおれに親切に話しかけてくれるヨースケくんにうんうん頷きながら歩く。いい人だ。
「俺なに食べよ〜」
「お前先席見つけたらダッシュで確保しろよ」
「モチ!」
任せて!と意気揚々と言うなおなお。
……てか、そうだ
「…ねえ、やっぱナオエクンでいい?」
「っえ!?さっきなおなおって呼んでくれるって!」
「それはみんなも呼んでるっていうから。」
しつこかったし。
さっきのヨースケくんのなおなおに対する怪訝そうな反応を見て、これは早いうちに撤回しなければと思っていた。
「お前がなおなおとか初耳。」
「ちょっとヨースケ余計なこと言うなよ〜」
「普通に直江でいいよこいつ」
「待って!星野になおなおって呼んでもらえたら…、まいちゃんにも呼んでもらえる可能性が上がるんだよ!」
まいちゃんになおなおって言ってほしい……。
と神妙に言うこいつに引いていたら、ヨースケくんが代わりに、キモい。と言ってくれた。
「上がんないよ別に…。」
「だって同室じゃん。まいちゃんに俺の話する時、自然となおなおが移るかもしれないじゃん。」
なおなおが移るとは。まず嶋に直江の話をすることもないと思う。
「こいつこの前から嶋の同室者がどうのってうるさかったから……。あ、ほら直江、あそこ空いてる早く行って!」
食堂に着いて辺りを見回すと、ヨースケくんの言っていた通り凄く混んでいてしばらく待たないと座れないかなって思ったけど、どうやら空いていた席に直江を送り込んだらしく大丈夫なようだ。
「…あいつホシノホシノって最近ずっと言っててさ、俺も覚えちゃったし。下の名前ふつうにいろって読むんだな。」
「うん。」
直江は寮のネームプレートを見てたらしいから、ヨースケくんにも言っていたのだろう。星野色という書き方をする名前の読み方は分からなかったらしい。
直江が確保してくれた席に向かう。
「ナイス直江」
「おー」
各テーブルに付いてるタッチパネルで注文して生徒一人ひとりが持つカードを通す。出来上がると呼び出し音が鳴るから自分で取りに行くというのがここのシステムだ。
寮の食堂は春休み中に利用していたが、校舎の方の食堂はこれが初めてだ。システムとかは変わらないらしい。
特別値段が高いわけでもなく、おれはこれでいいかな、と日替わり定食を選んだ。他の2人も注文して、出来上がりを待つ。
「直江とヨースケくんはさ、同室なの?」
だいたいが同じクラスの人と同室になるらしいから、2人の親しそうな感じから同室者なのかなと思って質問をする。
「ん?ううん部屋は違う〜サッカー部で一緒なの」
「ああ、ヨースケくんもサッカー部なんだ」
「自己紹介で言ってたじゃーん」
朝やった自己紹介は、前半からほぼ聞いてなかったし途中から直江がうるさかったから後半も聞いてなかった。
直江に言われて、ヨースケくんがどこら辺にいたかも分からないし名前とかも含めてあとで改めて聞かないと、と思っていたことを思い出す。
「ご、ごめん」
「いやいいよ。俺小柴陽介ね。よろしく」
呼び捨てでいい、という彼の話を聞くと直江と同じくサッカー部で、中等部から持ち上がりの人は春休みから部員として活動を始める人もいるらしい。
春休みくらいゆっくりしたらいいのに。
おれも自己紹介し直した方がいいかと思ったら、俺は聞いてたからいい。と陽介に笑いながら遮られて、タッチパネルから料理の出来上がりを知らせる呼び出し音が鳴ってふたりが席を立った。
取りに行ってくれるらしい。おれは席が取られないようにお留守番。
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