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普段はそれほどばかばか吸う方でもないしふとした時に吸うって感じだったけど、ここに来てから慣れない環境に口寂しくなることがふえて煙草の減るペースがはやくなっていた。





「えーと。確かこっちの奥に……。」


あ、あった。


校舎からすこし離れたそこ。午前に入学式をやった自然に囲まれたホールの外、出入り口とは反対側に空間があったな、と来てみたらビンゴ。

ホールと茂みの間に少しの空間と、横並びにベンチがふたつ。

こんなところにベンチがあって誰が座るのか。まあおれは有難く座らせてもらうけど。ベンチがなかったとしてもここは結構穴場なのでは、といい場所を見つけられてうきうきする。


一本取り出して口に咥えた煙草に、ライターで火をつける。ジ、と先端が赤くなってその匂いにほっと息をついた。

春休み中は、土地勘がない中で寮からあまり離れない範囲でその場その場で場所を見つけて吸ってた。けど、


「あっちは人通りが多いからなぁ」


フゥ、と吐いた煙が目の前をぼんやり白くする。


人が来にくそうな場所といっても、なんだか落ち着いて吸えなくていつも早めに切り上げるようにしてたから。
静かな場所でこうしてゆったり煙草をふかすことができて肩の力が抜ける。


大きく息を吸い、肺に煙をたっぷり吸い込む。


落ち着いて一服できるお決まりの場所っていうのがひとつできるといいんだけど。これからはこっちに来るようにしてもいいかもしれない。


今度は大きく肺から吐いた息。ぶわ、と広がる煙を遠ざけるように背もたれに寄りかかった。


普段ホールは使わないし、用もなければこっちまで人が来ることもないだろう。

わざわざこっちまで来る用があるとすれば、おれみたいなやつだろうし。


「んー…っ」


上半身を預けた背もたれに体重をかけて伸びをしたところで、おれが来たのと同じ方向からジャリ、と地面を踏む音がした。


「……ん?ああ、先客か。珍しいな」


おれみたいなやつっていうのは、人目につかない場所を探してて一服目当ての人。


「隣、いいか?」


この人もそうなのかな、と声がした方向に顔を向ける。


その人に投げかけられた問いに、っはい、と答える声が上擦ったのは、その人が見覚えのある綺麗な顔をしてたから。

びっくりした。


「新入生だろ。入学初日からこんなとこにいなくとも。」


そう言って笑ってイケメンが座ったのはおれの横。


隣って、隣のベンチじゃなくて?おれの横に座るのか。

なんて、急な人の接近にどぎまぎしながら隣に座ったその人の顔をちらりと見る。


ホールを出る時に目があった気がしたその人。

ぴしっと立ってホール出入り口にいたのは何か係りとかの役割があったのかな。さっきは確か腕章付けてたもんな。よく見えなかったけど。


ぴしっとしてた姿も、ベンチの背もたれにもたれる今の姿も様になってて。ふい、と目を逸らして煙草に口をつけると煙を細くゆっくり上に吐き出した。


「どうだ、高校生活は。」


いきなり。ゆらゆら消えてく煙を見上げながら、センパイに訊かれた。


あ、話すんだ。とか思ったり思わなかったり。


「え、むりそーですけど」


「はは、今日始まったばっかだろ。」


「始まったばっかの今日きかれても。」


まあそうかって笑うセンパイは、愛想のないおれの返事にも気を悪くしてないらしい。


「外部生か?」


「…そう、ですけど」


たった今会って言葉を交わしたとも言えるか言えないかくらいしか話してない相手。制服にも外部生だとわかるような何かがあるわけでもない。どうしてわかったのか。

驚きが顔に出てたのかセンパイはその理由を教えてくれる。


「見た感じ、と話す感じがさ。普通でその辺にいそうな雰囲気。」


「ええ?」


ポカンと口が開く。


このイケメンは初対面でおれをバカにしてるのか?


指に挟んだ煙草の灰がぱらりと地面に落ちて、慌てて胸ポケットから取り出した携帯灰皿。トントンと煙草を指で優しく叩き、そこに残った灰を落とす。


拗ねたように唇を尖らせて煙草を咥え直したおれに、センパイは笑いを含んだ声で続ける。


「ここにしちゃ緩いっていうのかな。」


もう少し締めとけ、と伸びてきた指先が胸元のネクタイをくいっと軽く引っ張った。


「ネクタイがですか?」


「それも含めて。制服の着こなしとかさ。砕けた感じ、ずっとここにいる奴にはない」


ふと同室の嶋を思い浮かべる。
内部生こわいと思ったのは、おれとは違う雰囲気の堅さにだろうか。言われてみてなんとなく納得する。周りを見渡した時も感じられた。


制服のネクタイとズボンは程よく落とすものだと中学生のときに学んだ。腰パンを超えてケツパンになってる上級生を見て。あそこまでは流石にないけど、上げすぎるよりは程よく下げるのが良いのだと思春期ながらに知ったのだ。

ここではそうではないのか。


一応、センパイに注意されたし気をつけよう、と手に持ってた煙草を唇に挟みネクタイを少し上げる。


「あと、それも」


「んぅ?」


指差された先はおれの口元、咥えた煙草。


「珍しいよ。当たり前みたいに、俺が来ても普通に吸ってるし」


「んー…」


一応隠れて吸うようにはしてるけど、こういうとこに来るならセンパイも同じ目的で来たんだと思って慌てて隠したりする必要ないと思っただけだけど。


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