企画 | ナノ

ろんりー。


フォークで肉を押さえ、ナイフを滑らした。

一口サイズに切られたそれを、口に運ぶ。少し咀嚼するだけで肉汁が口いっぱいに広がり、柔らかい肉は簡単に喉にすべりこんだ。

贅沢な装飾、長いテーブルに贅沢に並べられた見るからに高級そうな食事。私は、こういうかしこまった所はあまり好きじゃない。雰囲気も苦手だし、テーブルマナーだって、ちゃんと覚えてるわけではない。

私のために特別にあしらってくれたというカクテルドレスも、ただただ息苦しいだけだ。

年代物の赤ワインを少し口に含み、私はナイフとフォークを置いた。


「アインさん」


私は向かいに座っているお付け目役に声をかけた。

私が食事を取っている様子を頬杖ついて見ていた彼は、なんでも言いなさいとでも言わんばかりに柔らかい笑みを浮かべた。


「息苦しいです」


アインさんは、それを聞いて部屋に備え付けてある通信機に手を伸ばした。


「酸素濃度が薄かったかい? もう少し高めにしてもらうよう頼んでこよう」

「そうではなくて……私も子供ではありません。ずっと私に構わなくても結構だということです」


遠慮だと取ったのだろう、アインさんはただ微笑をして、私の言うことはちっとも聞いてくれなかった。


「だが慣れない戦艦だと勝手がわからないだろう。そう気を使わなくてもいい」

「アインさんだって仕事が」

「上官にもきちんと許可を貰っている」


ああなるほど。つまり、監視してるってわけね。

確かに、私は監視されたっておかしくない立場にあるけれども、四六時中見られていて気持ちがいいわけではない。ワインを飲みながら心のなかで舌打ちした。


「やあ、スイ・レア。調子はどうだ……っと、食事中だったか」

「かまいません」


ナプキンで口元を拭った。私だってこれくらいのことは知ってる。

この人と会うのはそれなりに面白かった。私のことを快く思っていないと語る彼の冷ややかな目を見ると、いつも笑いが込み上げてくる。


「次の作戦が決まった。宇宙で暴動が起きているらしい、それを片付けに行く」


作戦と聞いてはアインさんの背筋がぴんと伸びた。その姿があまりにもおかしくて、私は笑ってしまった。

だってそうでしょう? あからさますぎるの、おかしくって仕方がないわ。

ガエリオ・ボードウィンはタブレットを見ながらつらつらと任務内容を読み上げた。聞く限り、特別不信な点も警戒することもない簡単な掃討のようだ。


「先陣を行け。アインがバックアップする」


だから私が駆り出されるんだろう。しかも特攻しろと言っている。バックアップたって、あなた達がアインさんにバックアップはしなくていいって命令してるくせに。


「君の実力とMSの性能ならまず大破などしないだろう。リラックスしていけばいい」


いつのまにかガエリオ・ボードウィンの後ろに金髪の青年が立っていた。確か、彼と同じ階級のマクギリスとか言う人だっただろうか?

高官達がぞろぞろと捕虜の世話に来るなんて、余程暇なのかしら。

私は全ての人から目を反らした。


「本職はひとりもいないんでしょ? 私が負けるわけないじゃない」


私の言葉にこの場にいる人間全てが目を丸くした。そして少しの沈黙の後、マクギリスがくつくつと笑い出した。

マクギリスはおもむろに私の手を取り、手の甲に口付けした。

後ろでアインさんが固まるのが見える。

彼が私の手袋越しにキスをしたから直接唇の感覚を知らずに済んだ。もしかしたら彼も私に触れたくはないのかもしれない。

……気持ち悪い。私が黙っていれば、好き勝手して。


「君は、近い将来『戦いの女神』として称えられるかもしれないな」


そう言って、マクギリスは笑った。嫌な笑い方だ。顔の表情と目の表情が一致していない。

まあ、知らぬうちに良いように扱われるのは構わないんだけどね、別に。


「出撃は30時間後だ。ゆっくりしていたまえ」


マクギリスは短いマントをひるがえしながら、部屋を出ていく。それに続くように、一度だけ私を睨み付けて、ガエリオ・ボードウィンも退出していった。

そして再び部屋は私とアインだけになってしまった。

くだらない話のせいで、食事が覚めてしまいそうだった。まだ少し熱を帯びていているステーキにナイフを刺そうとしたとき、アインさんが私を凝視していることに気がついた。

アインさんは、私をいろいろな感情が混じったキラキラした目で見つめていた。


「大丈夫だスイ。俺が君を守るから」


アインさんが、私の両手をぎゅうと包み込んだ。

ああ嫌だ。早くその手を振りほどいてくれないかな。そんな熱のこもった目で見つめられても鬱陶しいだけなんですけれど。


ああ嫌だ。嫌でたまらない。


私を利用しようとするもの。

私を未だ疑ってやまないもの。

私を妄想を交えた熱情を抱くもの。


気持ちが悪い。全てが。


ここにいる全ての人間も、全ての感情も、私をとてつもなく不快にさせる。

全てが気持ちが悪くてたまらない。


(あーあ……)


どうしてこうなった。


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