朝食を食べた後、私達は町を目指し獣道を歩いていた。獣道と言っても、ジャングルのようにがさがさしたところではなく、まあがさがさしてるけど、少し道みたいな砂地を歩いていた。
「……イクリール殿」
「わかってる」
白龍が、視線だけを私に向けた。
私はゆっくりとメイスに手をかけた。彼も、なにげなく槍に手をかける。義手がざわざわと芽を出し始めた。
私は少しびっくりした。義手が芽をはやしうねうねと動いているのだから。白龍はそれに気がついたのか、にこりと私を見て笑った。
「実は俺、ダンジョン攻略者なんです。そのときのジンが植物をあやつるものだったんです」
私は納得した。そういえばダンジョン攻略者が出たとかいう情報が耳に入っていた気がする。
そのときだった。
木の陰から、武装した人が飛び出してきたのだ。
「………!!」
私と白龍は、すぐさま背中合わせになった。
やはり、敵が潜んでいた。私達がアイコンタクトをしたのは警戒しろ、という合図だったのだ。あたりを見渡す。……だいたい3、40人くらいだろうか。
囲まれていた。
どう見ても、育ちの良さそうな人たちではなかった。上半身裸で、舌を出しながら獲物をもてあそんでいる。
「……なにかご用ですか」
白龍は、あくまでも静かに、彼らに聞いた。
相手は、馬鹿にするようにひゃらひゃらと笑った。
「何か御用ですか?だあ?もちろん用があるに決まってるだろうが!その服は高く売れそうだし、その体も、奴隷商人に売れるからなあ。」
「特に女の方は顔もいいし若いからな、高く売れるぜえ。もちろん俺達が遊んだ後でな!」
ぎゃははははは、と、相手は一同に高笑いした。私は自分のしわが少し、寄るのがわかった。
「なるほど、人攫いってわけか」
「もしくは盗賊でしょうね」
私達は各々の武器を構えた。それを見て、彼らはさらに笑った。
「見ろよ!このお二方俺達に対抗するきだぜ!」
「この数にたった二人でかあ?姉ちゃんの方はそんな棒切れで戦おうってか?!」
私の正面にいた男は、私の構えた武器を見て笑った。他の男達もそれを見て馬鹿にした。
私は、思わず笑ってしまった。彼らはメイスを知らない。メイスを知らないということは使い方も知らないのだ。つまり私が魔術を使うことも理解していない。
彼らは数だのみで完全に勝利が自分達にあると確信している。白龍をちらりと見た。緊張はしている。が、あせってはいない。
「ねえ白龍、一撃必殺って知ってる?」
「はい?」
「今から、見せてあげる。から、ちょっとだけ囮になってくれない?たぶん半分は片付くと思うから」
「………魔術の類ですか」
彼らに聞こえるか聞こえないかくらいの声で白龍に聞いた。私は彼の質問にこくりとうなずく。
「ほんの少しだけでいい」
「……わかりました。」
白龍も、こくりと頷いてくれた。
私はすぐに魔法の使える体制に構えた。集中し、気をメイスに集める。メイスの宝玉が魔力を帯び輝き始めた。
ふと、下を見ると木の根がうねっていた。おそらく白龍の仕業だろう。成程これなら盗賊達も驚く。
私も驚いたけど、彼に大口を叩いた身、なんとか気を散らさず詠唱に入った。
「『金牛座を守護する輪廻王よ!我が力を糧とし真の姿を示せ!』」
ここで、ようやく盗賊たちが私に目を向けた。だが詠唱はすでに終えた。時すでに遅しだ。私は勝利を確証し笑みが浮かんだ。
「来い!『輪廻王カオス』!!」
周りが、風と光で包まれた。現れた幻獣の魔力により、空気がオーロラのように濁る。それだけで召喚が成功したとわかった。
ぐおおおおおお!
輪廻王カオスは、きょろきょろとあたりを見渡した後、大きくほえた。
「…………!」
「……………!!!」
「……?」
「……!!?」
「な………」
初めて声を出したのは白龍だった。人攫いか、盗賊の者達は開いた口がまったく塞がる気配はない。
幻獣を出すと皆、毎回同じ反応をする。ジンを見慣れていない人間ならなおさらだ。(見慣れてるのはまた別の意味で驚くけど。)
茶色い台座のようなものに、鎧のような者を着たものが、風をまといながら私の後ろに現れたのだ。
愉快だった。幻獣を見る人たちの顔が。私は思わず顔をほころばせた。
驚くのはまだまだはやい。
「いくよ……カオスっ!」
私が合図をすると共に、カオスは高く鳴いた。それは空気を振動させ、私や、彼らの体を震えさせた。
「あなた達でいう『極大魔法』って言うの、見せてあげる!」
カオスの周りに、魔方陣が現れる。カオスが『極大魔法』なるものの詠唱を始めた証拠だ。
「『ハリケーン』!!」