「夕方くらいには、小さな町にたどり着きそうよ」
「…………」
「白龍のお姉さんがいる……天山西部にはもう少し掛かりそうかな。山越えをしなくちゃいけないから、もしかしたらジンを使うかもね」
「…………」
「白龍は、ジンを使えば空を飛べそう?」
「…………」
「……ねえ、私の顔に何かついてる?」
「はっ」
白龍は、目が覚めたように肩を震わせた。とたんに顔が真っ赤になる。
「すいません、ぼうっとしてて……」
「いや、悪くはないけど…。白龍のジンは、空を飛べたりする?」
「空ですか?ええ。飛べなくはないですけど」
「そう、じゃあ町についたら東に進みましょう。そうしたら山を越えて……白龍?」
「え?ああ、はい、聞いてますよ?」
また、ぼおっと私を見て、また顔を真っ赤にした。
………朝から白龍はこうだ。暇があれば私の顔を見て、ぼうっとしたりなにかドジをしたりする。
……本当に顔に何もついてないか?もしかして、服がおかしいとか?変に露出してるとか。
ぺたぺたと顔を触っても、触った限りでは何も付いてないし、ひらりと服を見てもおかしな所はない。
じゃあなんでだろう?首をひねっても、納得のいく答えは出てこなかった。
「!白龍、あぶな…」
「え?……うわああっ!」
白龍は、目の前の水溜りとその前に置かれた大きな石に気づかず、盛大にこけて顔からダイブしていった。
******
「ホラ、町だよ。よかったねすぐ近くにあって」
「……めんぼくない、です。」
盛大に水溜りにダイブした白龍は、服までぐっちょり泥まみれになりながら町まで歩いてきた。
今は半分以上乾いているが、服には泥がしみこんでるし、顔も泥が付いてる。できるだけ拭こうとしたけど、白龍がかたくなに拒むので止めた。
私達は話し合って、とりあえず二手に分かれることにした。白龍は汚れた服と自分の体を洗いに、仕立て屋と銭湯に行き、私は夕食の場所決めと宿の確保へ。
私の方が早く済むだろうと、時間があれば自分も風呂に入ろうと思い集合場所は銭湯に決まった。
予想通り、私の仕事が終わって銭湯に行ったらちょうど白龍と出会い、服の仕立てが終わったという事で、男湯と女湯に分かれて銭湯に入った。
「部屋がひとつしか取れなかったんですか!!?」
「うん。今日はどうしても込んでるらしくて、ようやく一個取れただけ」
銭湯から上がり、とりあえず荷物を預けようと宿に向かう途中、白龍は顔を真っ赤にして叫んだ。いや、風呂上りだから元から少し赤かったけど。
「ご婦人と一夜を共にするなど……しかも二人きりなんて…」
真っ赤になりながらあたふたと言葉を並べていく白龍。性格からしてこういうのには疎そうだけど、そんなに深刻なことだろうか?
と、白龍に伝えてみたら、それでもしどろもどろに喋った。
「いや、でも、万が一ということも……」
「万が一って…白龍が私を襲うの?」
あんまりにも否定するので冗談半分で言ってみたら、白龍は大きく手を振りながら「まさか、そんな!絶対しませんよ!」とそれこそ否定された。
なんだか、それがなんとなく面白くて、私のよくないところをビビッと刺激した。
「あ、何?それとも襲って欲しいの?」
「!!?」
「私は全然かまわないけどね、白龍くん顔もいいし、綺麗だし」
にやにや笑いながら人差し指でくい、と白龍のあごを持ち上げた。
「な、な……」
白龍は、これでもかというくらい真っ赤になった。それはもうリンゴですかというほどに。あんまりにも面白いから、思わず笑ってしまった。
「冗談だって」
自分のあごに手をあて、くつくつと笑う。白龍はからかわれたことが理解できたのか、面白くなさそうに目をそらした。
「すっごい慌てちゃって、白龍かわいー」
「子供扱いしないでくださいよ……」
「私にしたら白龍もじいさんもみんな子供みたいなもんだけどね」
「それはそうですけど」なんて言う白龍の頭を撫でてやると、また子ども扱いしないでくださいとのけられた。