背伸び | ナノ


▼ 02

「じゃあ、もう一回動かして見て」

「は、はい」


およそ十分くらい(いや、もっと短かったかも)経過して、ようやくスイさんは顔を上げた。

モニターに自分の顔を預けて、後ろを見てる……思わず首筋がきれいとか、谷間が見えそうとか考えてしまう。
無為意識に、喉がゴクリとなった。

……って、何考えてんだ!これじゃただの変態じゃないか!

レバーを動かすと右腕はさっきよりも調子よく動いてくれた。


「これなら大丈夫そうです」

「本当?よかった」


スイさんの綺麗な顔がふにゃりとほころんだ。

ああ父さん母さん、ぼくを産んでくれてありがとう!おじさんおばさん、育ててくれてありがとう!


「いつもありがとうございます、こんなに世話してくれて」

「いいよ、私に出来ることってこれぐらいしかないし、パイロットのほうがよっぽど大変だもん」


コクピットから出るのに、スイさんが手を貸してくれた。ぼくは素直にそれを受け取るけど、なんか釈然としなかった。

いや、嬉しいよ!スイさんの手、温かくて、柔らかくて、女の人の手、って感じがするし。
でもどうしても年下というか、男というより子供って見られてる気がする。

まあぼくが15で彼女が20前後だから、弟みたいに見られても仕方がないけど。
だって、ぼくの手よりスイさんの手のほうがおっきいし!

……早く大きくなりたい。


「そういえば、スイさん元々パイロット志望だったんですか?」

「うん、まあ……。でも私とろいし、こっちのほうが向いてるから整備のほうにまわったの」

「はあ」


確かに、彼女少しおっちょこちょいなとこがある。
ドライバーがどこにあるか訪ねて、実は自分のポケットにはいってたりとか、右左間違えたりとか(どうやら彼女両利きらしい)

でも、そんなところもかわいいな、と思うぼくは末期なんだろうか?

あ、そうだ。スイさん今後予定とかあるのかな?なかったら、食事でも一緒には取りたいな。


「スイさ……」

「あ!ザビーネさん!」


すべてを言い終わる前に、スイさんはぼくの前から離れていった。まるで差しのばした手をギリギリで取れなかったように。

スイさんの向かった先には、キンケドゥさんとタブルエースを担っている天才パイロット、ザビーネ・シャルさん。


「すみません、X2の武器のことなんですが……」

「私もその件で来たところだ」

「そうでしたか!早速なんですけど、この間の戦闘で……」


ぼくと話すよりも、1オクターブくらい高く、そして弾むような声でザビーネと会話をするスイさん。

察しの良い人はもうわかるかもしれない。

ぼくの好きな人は、ザビーネさんのことが好きだ。

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