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明らかに劣性だと思われていた戦いは、思いの外有利に進められた。
理由は環境の違いだ。重力、空気抵抗、木などの障害物。
宇宙空間と違う、なれない環境にとまどって、動きが鈍かったり、フォーメーションも崩れていた。
なんとか機転を利かし、一機、また一機と破壊していく。
「バーンズ大尉! バーンズ大尉無事てすか? 大尉」
バーンズ大尉の乗っていた、紫色のデカブツを派手にやった。爆散こそしなかったけど、しゅうしゅうと煙をあげている。
コクピットはギリギリそれたはずだ。なんとか無事ていてほしいけど……。
デカブツに近づこうとしたとき、X3がかくんと傾いた。
「うわああ! な、何!?」
後ろから、赤いMSが表れる。倒したと思っていたギりが復活していたのだ。長い武器をX3、の首に巻き付けている。
逃げようにも身動きが取れないし、武器もない。
……だめだ、やられる!
そう思ったときだった。ふいに、誰かの声が聞こえた。
(……落ち着け! トビア!上部スラスターを下ろせトビア!)
ぼくはその声に応じて、急いでスラスターを下ろした。敵のMSは反動でがくんと下を向き、ビームは土に当たった。
そう、声の主は、やはり生きていたキンケドゥさんだったのだ!
キンケドゥさんはX1を駆ってギりの赤いMSを撃破した。赤いMSは、X1の前に倒れた。
完全に沈黙したことを確認すると、ぼくらはコクピットを降りてお互いを見た。キンケドゥさんはマスクをつけて、右手は義手になっていたけど、でも、間違いなくキンケドゥさんその人だった。
ぼくらが再開の喜びに浸っていると、かちゃりと銃を向ける音がした。いつのまにかギりがコクピットから降りていたのだ。
ギりは身体中ボロボロで、至るところから血が流れている。どう見ても満身創痍だった。もう、立ち上がる気力出させないだろうに。
キンケドゥさんも銃を構える。
「もうよせ! ギり! 勝負はついたんだ! 銃をおろせ!」
「フ、フフ。これじゃね、帰れないんだよ。僕はね、総統に選ばれたニュータイプのひとりで、カラスの最も優秀な生徒だったんだ!
こんな失敗、報告できるわけがないだろう……?もう、今さらお前たを殺しても同じなんだよ。だから……」
「何?」
ギりは、自分の頭に銃を向けた。
……まさか!
「やめろっ! ばかーっ!」
ばんっ。
渇いた銃声が鳴り響いた。
「……バーンズ大尉!」
バーンズ大尉が、ギリの腕を引っ張っていた。銃は空高く撃たれただけだったのだ。
ギリは信じられないとでも言うかのように、バーンズ大尉を見た。大尉もギリと同じようにボロボロだった。
「くっ……」
ギリが膝をついた。
バーンズ大尉も限界だったのだろう。ずるずるとその場に倒れこんだ。
早く手当てをしないと!
あわてて走ったとき、バラバラと空から何かがやって来た。
「連邦の消化隊だ」
「ふふ、連中にしては早かったな! 騒ぎにならないうちにいどうしよう……。なにしろおれたちは、お尋ね者だからな!」
*********
ぼくらは、キンケドゥさんもギリも全員、木こりのおやっさんの友達だった人の小屋に来ていた。
そこにはすでにベルナデットやスイさんがいて、ベラ艦長はキンケドゥさんと再開を果たした。
「もう少し腕をあげて」
「……」
ぼくが川から水を持ってくると、ちょうどスイさんがギリの手当てをしていた最中だった。
ギリはまるで付き物が落ちたかのように大人しく手当てを受けている。さっきまでの威勢が嘘のようだ。
「スイさん、ありがとうございます」
「今はもう、これくらいしかできないからね」
スイさんは力なく笑った。
ニュースではどの番組も、木星帝国の話をしていた。
『……すでに木星帝国が予告した総攻撃の時刻まで24時間しかありません。地上の主要基地は木星軍のMSによる破壊工作でほとんどがその機能をマヒ。
もはや地上から戦力を打ち出すことは不可能と思われます。われらには何のうつ手も残されていないのでしょうか?』
「……ジュピトリス9はな……外観からではわからんが、第8、第9ブロックの間が構造上弱くなっている……」
「バーンズ大尉!?」
「狙うならそこだ! フフフ、もっとも……いまさらこの状況下ですべてをひっくり返せるような……奇跡的な切り札をお前たちが持っているとも思えないがな」
「そうでもないさ!」
いつのまにか、キンケドゥさんが小屋の外から顔を出していた。
その目はまだ、戦士の目をしている。まだ彼はあきらめていないんだ。
「いくぞトビア!」
「ええ? どこへ」
「第117連邦軍基地……」
キンケドゥさんによると、集める仲間はぼくらで最後だったらしい。
すでにほかの生き残りのメンバーには連絡して、その第117連邦軍基地に終結し、作戦行動に移っていると。
「そして……おれたちの切り札は、クロスボーン・ガンダムだ! 奇跡を見せてやろうじゃないか!」
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