背伸び | ナノ


▼ 24


「スイさん!」

「どうしたの? ベルのおしりでも見た?」

「えっ? いや、あの、そうじゃなくて……。って、そんなこと言ってる場合じゃないんですよ。テレビ見てください!」


ぼくは急いでスイさんをテレビの所へ連れてった。

テレビでは、木星軍が連邦の惑星を攻撃しているとこがニュースになっていた。あまりにも突然、友好的な色を示していた木星軍が手のひらを返したせいか、連邦軍の対応は遅れているらしい。

さっきまでにこにこしながら洗濯物をしていた、スイさんの顔が変わった。恐れていた事態が、今、起きてしまったのだ。


「トビアくん、町に降りよう。X3の部品を買わないと」


ぼくはこくりと頷いた。

スイさんは大慌てでX3の所へ向かった。必要な部品をチェックするのと、道具を準備するためだ。

ぼくは理由を言って、大急ぎでおやっさんに道を尋ねた。


「機械の部品を買いにいく? 10キロ四方この山に住んでんのはわしだけだぜ?」

「もう一刻のゆうよもありません! 道を教えて下さい! 町まで出ます!」


おやっさんは少し迷ってから、机に地図を広げて説明してくれた。


「だいたい小屋がここ、町がここだぜ」

「11、12キロくらいですね。よし! 何か乗り物を貸して下さい! エアバイクがあれば一時間も……」

「ねえよ」


……。

…………え?


「ない?」

「ないよ。いらねえんだもん」

「普段の生活はどーしてるんですかっ!」

「どうって……そりゃ、歩くに決まってるだろうがよ!」


おやっさんは、さも当然かのように言った。


「片道12キロって、普段からそんなに歩くんですかーっ!?」

「変かね? ここじゃ歩くしかねえんだから、それで普通だぜ」


ほんとかよ……。

地球の人ってパワフルなんだな。


「トビアくん、仕方ない歩こう。私も一緒に行くから」


いつのまにか、準備を終えていたらしい。スイさんが隣に来ていた。

悩んでいる時間ですら惜しい。っていうか、もうこれしか方法はない。

ぼくは仕方なく、スイさんと下山して町に出ることにした。


「あとは、コクピットと動力部を繋ぐパーツだけだから。それをセットすれば動くと思う……たぶん」


スイさんは最後、自信がなさそうに付け加えた。いくら同型とはいえ、新作機でろくな説明書もなしじゃあ、当然か。

それでもメカニックマンであるスイさんがいたことは、本当に大助かりだった。

ぼくひとりじゃ出来なかったことも、彼女はすいすいやってのける。修理も、ひとりでするより何倍も早く終わらせることができた。


「……」

「……」

「……11、2キロって、けっこうあるんですね」

「そうだね」


急いでるとはいえ、スイさんと二人きりで町にいくんだ。最初は少し浮かれてたけど、だんだんそんな余裕はなくなってきた。

ぼくは耐えられなくなって、途中でばててしまった。


「ば、ばか野郎〜、こ、コロニーだったら内壁一周しておつりがくるぜ」


そのへんの草原に寝転がった。あっ、けっこう気持ちいいかも。ちょっとちくちくするけど。


「スイさんはよく平気ですね」

「これでもけっこう疲れてるけどね。歳だし」

「まさか! スイさんはまだまだ若いですよ」

「トビアくんよりはおばあちゃんだもん」


スイさんは自分で言って笑った。

それからスイさんは「少し休もうか」といって、水と少しだけ食料をくれた。ぼくは、それをありがたく受け取った。

もう、時間がないっていうのに、申し訳ない……。


…………それにしても。


ここは、なんてでかい世界なんだ……。なにもかもが全然スケールが違う。これが地球……人間が生まれた星?


「俺たちの……」

「え?」


俺たちの誰もが、地球を攻めようとしている人も、守ろうとしている人も、宇宙に住む人々全員が……実は地球のことなんて本当はよくわかっていないんだ。

人類は宇宙に出てニュータイプに変わっていくなんていうけど……。


「ニュータイプになるたかならないとかじゃない……。もっと別の意味で人類は、地球に住む人生き物じゃなくなってきているんだ」

「……」




それから、またぼくらは歩き出して、機械屋で部品を買って、また山道を歩き出した。

せっかく地球の町に出たんだから、観光やお土産買いのひとつやふたつしたかったけど、そんな時間も体力の余裕もなかったから、まっくすぐ帰ることにした。


「しっかしまいったな……まさかこんなに遅くなるとは……。もう夜だぜまったく」


間に合うかな……っていうか、今修理しても疲れてまともに動かせる自信ないんだけど。

さすがのスイさんもだいぶまいってるみたいで、行きよりもかなり口数が少なかった。

あともう少しで小屋につく、ってあうときに、ばさばさと音が聞こえた。

今までで聞いたことのない、不自然な音だ。


「何!?」


何かが一斉に羽ばたいていった。鳥?

鳥がこんな夜遅くに一斉に羽ばたいていく?


「鳥!? 何か? いるっ!?」


そのとき、赤い何かが木をなぎ倒した。

ばきばきと音を立てながら、まるでドミノ倒しのように木は次々と倒れていく。


「わああああ!!?」


あの赤い、木をなぎ倒したやつ……スネークハンド? 見たことがある。キンケドゥさんのX1を追いやったMS3機の内のひとつだ。

ということは……?

MSが、この山のなかに来ているということ!?


「木星のやつ? トビアくん!?」


1歩遅かった、ということなのか?


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