▼ 19
「あ! みろ! 3号機の補給だ!」
地球が目前に迫った頃。
ぼくらの元にベラさんのいとこにあたるシェリンドン・ロナさんが物資を届けに来てくれた。
たくさんの補給やあっちの人も頻繁にマザー・バンガードに行き来して、しばらく見ないくらいにぎわっていた。
特に、ぼくはキンケドゥさんやウモンじいさんと新しいガンダムを見つけてテンション上がってるところだった。
「す、すげえ! 新型ですか?」
「同じやつだよ」
「一部パーツはかわってるってきいたがな。プラモじゃあるまいし、そうヒョイヒョイ新設計機がぇきるけえ……」
そ、そんなもんなのかなあ。
でもX1やX2と比べて、けっこう明るめのカラーリングだ。
いいなあ。けっこうかっこいいなあ。……乗ってみたい。
「パイロットはだれですかね?」
「まー お前じゃねえとは思うけど?」
……。
……まっ、そうだよな。
ウモンじいさんか、ジェラドさんあたりが担当するんだろう。
あーあ、せっかく新型なのに。一度くらい乗れるかな? X1もなんだかんだで乗れたし。散々だったけどね!
「あっ、スイさん!」
廊下を移動してると、向こうから書類を片手、ペンを耳にかけるという、いかにも忙しそうな風貌のスイさんがやって来た。
「見ました新型? 武器とか特殊装備とかついてるんですかね?」
ぼくが話しかけると、案外スイさんは足を止めて話に乗ってくれた。
「さあ? あっちがまだ詳しく説明したがらないからよくわかんないけど、さっきでっかい剣みたいなのは見たわ」
「でっかい剣ですか? うわあ、見てみたいなあ」
あっ、そうだ。
ベラさんが、相手は貴族主義の人たちが多いとか言ってたことを思い出して、ふとスイさんに聞いてみた。
「そういえば、スイさんは貴族主義のことをどう思いますか? っていうか、どうしてスイさんは海賊やろうって思ったんですか?」
「あれ? まだ言ってなかったっけ」
「はい。あっ、話しにくいならけっこうですけど」
「んー……いや、別にね」
スイさんは少し首をひねっていたけど、やがて、ポツリポツリと語り始めた。
「私は主義主張はあんまり持ってないの。今海賊やってるのは、ただ木星に地球を潰されたくないからだし。正直、そういうのって、何が正しいとか、何が間違ってるとかじゃなくて、結局強いものの主義が通るものって思うから」
「地球のために、海賊を?」
「両親がアースノイドなんだ。私も生まれは地球だし、7、8歳くらいまで暮らしてて。……やっぱり放ってはおけないでしょ?」
へえ、スイさん地球産まれなんだ。これは初耳だ。
「スイさんから見た地球って、どんなところなんですか?」
「トビアくんは地球に行ったことないの?」
「はい」
「んー、なんていうか……そうね……宇宙よりごはんがおいしいところかな?」
「ごはんが? ですか?」
「宇宙よりも水や空気、それに土がきれいだからね。肉も野菜も地球で食べるのが一番よかったなあ」
「はあ……ごはん、ですか」
そりゃあ、自然のなかで育ったから新鮮なんだろうけど、想像つかないな。
でも、確か地球の野菜とかって、あんまり薬を使ってないから貴重なんだって習ったっけ。あんまり高すぎるから食べたことはないけど。
「いつか、トビアくんとも地球に行けたらいいね」
「えっ、ほんとですか?」
「もし行けたら、私の好きな店でおごってあげるよ。とってもおいしいステーキ屋さん知ってるのよ?」
もちろんぼくは二つ返事でOKした。
やったっ、なんだかんだで一緒に食事をする約束しちゃった。ま、ふたりで地球に行けるかもわかんないし、本当にいけるかどうかも怪しいけどね。
でも、神様ってほんとうに意地悪だと思う。
ちょうどいいタイミングで、「はい今回のラッキータイムは終了」って言っちゃうんだから。
「トビア・アロナクスはお前だな」
目の前にクロスボーン・バンガードじゃない人たちが立っていた。
「一緒に来てもらおうか」
無表情に淡々と告げる。
その口調と立ち振舞いからして、NOと言える雰囲気じゃない。
ああ、ここ最近、どうしてこう楽しいことやうれしいことが続かないのかなあ。
なんだかとてつもなく嫌な予感がした。
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