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ザビーネさんの反乱からX2その他木星軍との戦闘、ベルナデッドとの対話。そして、ベルナデッドを置いてぼくはまたひとり宇宙へと出た。
短くも長い旅だった。色々思うところはあるけど、特に、いつものようにキンケドゥさん達がサポートしてくれない環境で木星軍と戦い、こうして生還できることをぼく自身びっくりしてる。
でも、この体験はぼくにとって大きな糧になるに違いない。これから間違いなく木星との戦いは激化する。きっと今回のことは今後に役立つはずだ。
そして、木星船ジュピトリスを脱出してから3日後。ぼくはマザー・バンガードに救出されることとなった。
「トビア! こいつ!よくも無事で!」
「へへへ……。みなさんもお元気そうで…………へへ。……まあ一一あまり心配はしてませんでしたけど!」
「ばか! 心配してたのはこっちの方だっ」
そりゃあもう大歓迎!
まず通信から信じられないと驚かれたし、キンケドゥさん始め色んな人がこぞって叫んでくれたり、ぼくのために何十って人がぼくの帰艦を出迎えてくれたり。
今も殺されそうなくらいキンケドゥさんに首を絞められてる。ちょ、キンケドゥさんごめん、苦しい。ちょっと真面目に死にそう。
「トビアちゃん!」
「よ、ヨナさん」
ヨナさんも、作業中だったのかドライバーを持ったままぼくの手をぎゅっと握ってくれた。目にはうっすら涙が浮かんでいて、さっきまで全然平気だったのにこっちまでもらい泣きしそうだ。
「ほんとによく無事で帰って来たわね! もう駄目かと思ってたわよ」
「せっかく帰ってきたのにそんなこと言わないでくださいよ!」
「だって敵に拐われたのよ! ……ってキンケドゥ、そろそろ離してあげないとトビアちゃ窒息しちゃうわよ」
「おおっとそうだった。すまないトビア」
ぱっとキンケドゥさんの手が離れ、ようやく酸素が肺に入っていった。あわてて大きく息を吸い、吐く。
し、死ぬかと思った。せっかく帰ってきたのに絞め技くらって御陀仏とか嫌すぎるぞ。
「で、木星軍から脱出するには大冒険をしたはずよね? お姉さんトビアちゃんの武勇伝聞きたいな〜」
「勘弁してくださいよ!」
その前に一日くらいゆっくり休ませてください! 気持ちはわからないでもないですけど!
「ヨナ、武勇伝を聞かせる相手はまずベラだろ? あいつだってかなりトビアの件は参ってたんだから」
「あっ、そうだった。ごめんね興奮しちゃって」
そのためにわざわざ呼びに来たのに、とヨナさん。
「ということでトビア、疲れてる所悪いが、先にベラのとこに行ってくれないか? そのあとは休んでいいからさ」
「は、はい」
そうだよな、まずは報告からだよなあ。
いくら漂ってるときに仮眠を取ってるっていってもやっぱり今すぐ温かいベッドでぐっすり寝たい。けど、仕方ないか。体に鞭打ってもうひと踏ん張りしよう。
******
「よっ、トビア」
「ジェラドさん!」
ベラ艦長との報告が一息つき、ようやく自室に帰ろうとしたところにジェラドさんが立っていた。
「よくやったなお前。木星の船からひとりで脱出したんだろ? 艦内はお前の話で持ちきりだよ」
「えへへ……ありがとうございます」
ジェラドさんにぽんと頭を撫でてもらった。ちょっとだけ恥ずかしかったけど、誉めてもらったことは素直に嬉しいや。
でも疲れて立ってるのさえやっとだから、できれば長話は遠慮したいな……と顔を上げたら、ジェラドさんがうって変わって眉間にしわを寄せていた。
「実はな、帰って早々悪いんだが、お前を待ち伏せしてたのは祝福の言葉を言うためじゃないんだ」
「はあ」
「スイのことだ。お前ら仲良かったろ? あいつ、反乱があって以来引きこもっちゃっててな」
「……えっ?」
「ヨナや艦長なんかが話をしようとしても、うんともすんとも言わないんだ。もう一週間くらい飯も食ってねえし」
今までの疲れや浮わついた気持ちは一気に飛んでいった。
……そうだよ。あのときは切羽詰まっていたから深く考えなかったけど、スイさんは、ザビーネさんに裏切られたも同然のことをされたんだ。
きっと、すごく傷ついてる。
「あの、スイさんケガは……」
「擦り傷ひとつしてないはずだぜ? まあ、あいつザビーネに惚れてたらしいし、落ち込む気持ちもわかるけど、こっちだって人手が足りないんだ。正直引きこもりされてたら困るんだよ」
「わかりました……なんとかやってみます」
「すまんな、まあぼちぼちでいいからさ。じゃ、トビアはゆっくり休めよ。今じゃお前も重要な戦力なんだから」
「はい。ありがとうございます」
ジェラドさんはもう一度だけ頭に手を置いて、その場から立ち去ろうとした。
「あの! ジェラドさん!」
「ん?」
「どうして、その、スイさんがザビーネさんのことを好きってわかったんですか?」
ジェラドさんは少し考えいたけど、やがて、
「反乱のことと、引きこもりのことを結びつけたら誰だって疑うだろ。あいつは特にザビーネのことを気に入ってたからな」
と言って、今度こそどこかへ行ってしまった。
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