背伸び | ナノ


▼ 15

できるだけ急ぐ。しかし、格納庫までの距離が長い。
実際はそう遠くはないのかもしれないけれど、それでも、焦っているぼくにとってはとてつもなく長く感じられた。


「キンケドゥさん!」

「トビア!」


先に追いかけていったはずのキンケドゥさんに出会った。キンケドゥさんはクルー……おそらくザビーネさんにそそのかされた人達……と交戦していた。

ついこの間まで、一緒に戦ってきた人達なのに、どうしてこうも簡単にお互いの血を流し合うことをしてしまうのだろう?

キンケドゥさんは銃を片手に、通路の角に隠れながら攻撃を繰り返していた。


「このさきを突破されるのはまずい。ここはおれが始末するからお前は早くザビーネを!」
「き、キンケドゥさん、でも……」
「いいから行け!」


その声に、全身がすくんでしまった。そうだ、迷っている一分一秒が惜しい。こうしているうちに、ザビーネさんを逃してしまうかもしれないのだ。

ぼくは意を決して、キンケドゥさんのそばを通り先を急いだ。





******





「……っ」

キンケドゥさんが上手くしてくれていたのか、あれからは誰一人として反乱軍と会うことはなかった。あったとしても、みんな気を失っている。でも、その間にただの一度もスイと会うことはなかった。

……最悪の形を見てないだけでまだましだ。でも、心臓は早鐘のようにどくどくと鳴っている。

スイさん、どうか、無事でいてください……!


「っ!!? スイさん!」


格納庫にたどり着いたとたん、ぼくは思わず叫んでしまった。だって、ずっと探していた人が、ようやく、そこにいたのだから。


「スイさん! 大丈夫ですか!?」


彼女はX2の前でぐったりと倒れ混んでいた。ぼくは急いで彼女のもとに駆け寄る。
体を起こしてやると、ちゃんと息もしていたし、目立った外傷も見られない。

……よかった。

スイさんは、ちゃんと生きている。そして少なくとも、命の危険性もない。
ぼくはほっと安堵した。
そのときだ。


「そこまでだ」


かちゃりと銃を装填する音が聴こえた。
振り向けばそこに、X2と……。


「ザビーネ、さん……」

「フフフ……よくもここまで、さんざん邪魔をしてくれた。貴様さえいなければ、ベラをこちらのものに出来たというのに……」

「なぜ反乱を起こした! この一件でクロスボーン・バンガードは仲間割れして、多くの命が消えていったんだぞ!」

「私の行動理論はコスモ・バビロニアの再建! 今までもそうして行動してきたし、今回の件も木星軍に身をおいた方が私の理想を実現しやすいと判断したゆえの行動だ」

「スイさんはあなたに情があったんだ! なのに彼女のことを考えもしないで! あなたのやったことは彼女の気持ちを裏切る行為なんだぞ!」

「ほう」


ザビーネさんは笑った。


「あまりに無茶苦茶な言い分だな。ふふふ、そうか。トビア・アロナクス、きさまその女に惚れてるな」

「人が人を好きになって悪いか!」

「いや、悪いことではないさ。そのおかげで彼女には十分働いてもらった。」

「なんだと!?」


……まさか! ザビーネさん、スイさんが好意を寄せていることを知ってて!?


「私がベラと姫君をつれてくることに失敗し、ここに来たときは泣きそうな顔で銃を構えていた。私はお情けで彼女だけでも救ってやろうと思ったのだよ? だから共に来ることを提案した。それなのに彼女はそれを断ったのだ。殺さなかっただけでもありがたいと思ってほしいものだな」

「きさま……人の気持ちをなんだと思っているんだ!!」

「感情を処理できん人類はゴミだと、教えたはずだがな」


怒りがふつふつと沸き上がってきた。

ぼくは今まで、進んで人を殺すなんてしたことがなかった。でも、この人だけは、この手で、その喉をかき切ってやりたい!

ザビーネさんの銃が、ぼくの額に焦点をあてた。

かまうもんか。たとえ死んだって、ぼくはこの人に一発入れてやる!

だけど、ザビーネさんは格納庫にさらに人が来る気配を感じとったのか、その銃を下ろした。


「ちっ……。トビア・アロナクス、今すぐ殺したいがその女に免じて見逃してやる! せいぜい生き残るんだな!」

「待て!! ……くそっ!」


銃も何も持っていなかった!気絶してる人からひとつでも盗んでくるべきだったのに。

今から追いかけても間に合わない。ぼくはただザビーネさんがX2へ乗り込むのを見ているだけだった。


「トビア!!」

「キンケドゥさん! ザビーネさんがっ」

「わかっている!」


キンケドゥさんがぼくの横を通りすぎようとしたとき、ぴたりと止まって抱えていた彼女を見た。


「スイか……ここで見つけたのか?」

「倒れていたんです。気絶してますが、生きてます」

「医務室へ運んでやれ、あそこは大丈夫だ。そしたらお前もバタラに乗り込め!」

「はい!」


キンケドゥさんはそのままX1に乗り込んだ。

ぼくは彼女を担ぎながらなんとか医務室まで運び込み、またその足でベズ・バタラに乗り込んだ。


その後、カラス先生と人騒動あり、木星船ジュピトリス9でX2と生身で(!?)戦うことになるのだが、それはまた別の話。




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