背伸び | ナノ


▼ 14


「ふふふ……」

「トビア、顔が気持ち悪いぞ」



キンケドゥさんが、あきれ口調でため息をついた。

あれ?今ぼく、にやけてた?



「まったくお前は……艦がボロボロだっていうのに元気だよ」

「す、すみません……」

「まあ辛気くさい顔されてるよりかはマシだがな」

「………」



ぼくらは今、マザー・バンガードの修理をしている。ドゥガチ……のひとりを倒してから、艦内は以前ほどの活気はなかった。


仕方がない。犠牲者もたくさん出たし、それに見合う戦果もなかった。何より、あと9体もドゥガチがいるという事実が重くのしかかってきた。



それでもなんでぼくはこう元気なのか?それはスイさんとの距離が確実に縮まっているからである。

今ではキンケドゥさんたちと同じかそれ以上に親密になったし、一緒にいる時間も長くなった。


スイさん、ザビーネさんとの絡みも最近ないし。



「何があったかは知らんが、浮かれるのも大概にしろよ」

「はい! ふふふ……」

「…………」



ぱかんと頭を殴られた。痛い。



『艦内のものに告ぐ! 反乱だ気をつけろ! ザビーネにそそのかされた者たちがブリッジを占拠した!』

「え!?」



ザビーネさんが?

さっきの浮かれ気分が一気に冷めた。



「キンケドゥさん!」

「わかってる!」



キンケドゥさんは悔しそうに歯ぎしりした。その顔はまるでこの反乱が起きることをわかっていたように。


気がつけばマザー・バンガードからクルーが出てきてこちらに発砲してきた。たぶん、あれが副艦長の言ってたザビーネさんにそそのかされた者たちなんだろう。


……本当なんだ。


ぼくらはヨナさんと合流し、銃弾をかわしながらブリッジへ走った。



「くそ! わかっていながら押さえることができないとはな!」

「何やってたのよ! ウモンじいさんは!」



まさか、ザビーネさんが反乱なんて……。スイさんは? そのことを、知っている? まさか、彼女も反乱軍の一因に?

イヤな予感が胸をよぎった。最悪のシナリオが頭にこびりついて離れない。


しかし、ぼくの頭は別なことに焦点を切り替えてしまった。



「ベルナテッド!」



「こらトビア! 先走るな! 危険だぞ!」





******






「ザビーネ!」



廊下でザビーネさんと戦闘になって、恥ずかしくもぼくが一発殴られたとき、(ついでに歯も一本欠けた)キンケドゥさんたちが武装してやってきた。ザビーネさんは、その隙をついて逃げていった。



「ベルナ…テッド」

「トビア!」



ベルナテッドは、……大丈夫だ。怪我はない。よかった。



「助かったトビア。お前が隙を作ってくれたお陰でザビーネに一撃入れられた」

「いえ、結局逃してしまいました。ジェラドさん怪我は?」

「お前よりは軽いさ」


ザビーネさんと共にしていた反乱軍はすでに白旗をあげていた。ザビーネさんに逃げられたんだから、仕方ないだろう。


逃げた本人は恐らく、木星軍と合流するためにX2で出るだろう。そのためには格納庫に行く。ぼくも、できるだけ早く格納庫に向かわなければ。


……そこまで考えて、ようやくぼくは、大事なことを忘れていたことに気がついた。



「………スイさん!」



彼女は、最後に合ったときになんて言っていた?

格納庫でX2の点検をすると言っていた。

もし、彼女が反乱軍の一因じゃなかったら……彼女が危ない!!



「あっ、トビア! ひとりは危険よ!」



ベルナテッドの声も、最早聞いちゃいなかった。


ザビーネさんに殴られた痛みも忘れて、ぼくは格納庫に走った。

prev / next

[ back to top ]


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -