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「ふふふ……」
「トビア、顔が気持ち悪いぞ」
キンケドゥさんが、あきれ口調でため息をついた。
あれ?今ぼく、にやけてた?
「まったくお前は……艦がボロボロだっていうのに元気だよ」
「す、すみません……」
「まあ辛気くさい顔されてるよりかはマシだがな」
「………」
ぼくらは今、マザー・バンガードの修理をしている。ドゥガチ……のひとりを倒してから、艦内は以前ほどの活気はなかった。
仕方がない。犠牲者もたくさん出たし、それに見合う戦果もなかった。何より、あと9体もドゥガチがいるという事実が重くのしかかってきた。
それでもなんでぼくはこう元気なのか?それはスイさんとの距離が確実に縮まっているからである。
今ではキンケドゥさんたちと同じかそれ以上に親密になったし、一緒にいる時間も長くなった。
スイさん、ザビーネさんとの絡みも最近ないし。
「何があったかは知らんが、浮かれるのも大概にしろよ」
「はい! ふふふ……」
「…………」
ぱかんと頭を殴られた。痛い。
『艦内のものに告ぐ! 反乱だ気をつけろ! ザビーネにそそのかされた者たちがブリッジを占拠した!』
「え!?」
ザビーネさんが?
さっきの浮かれ気分が一気に冷めた。
「キンケドゥさん!」
「わかってる!」
キンケドゥさんは悔しそうに歯ぎしりした。その顔はまるでこの反乱が起きることをわかっていたように。
気がつけばマザー・バンガードからクルーが出てきてこちらに発砲してきた。たぶん、あれが副艦長の言ってたザビーネさんにそそのかされた者たちなんだろう。
……本当なんだ。
ぼくらはヨナさんと合流し、銃弾をかわしながらブリッジへ走った。
「くそ! わかっていながら押さえることができないとはな!」
「何やってたのよ! ウモンじいさんは!」
まさか、ザビーネさんが反乱なんて……。スイさんは? そのことを、知っている? まさか、彼女も反乱軍の一因に?
イヤな予感が胸をよぎった。最悪のシナリオが頭にこびりついて離れない。
しかし、ぼくの頭は別なことに焦点を切り替えてしまった。
「ベルナテッド!」
「こらトビア! 先走るな! 危険だぞ!」
******
「ザビーネ!」
廊下でザビーネさんと戦闘になって、恥ずかしくもぼくが一発殴られたとき、(ついでに歯も一本欠けた)キンケドゥさんたちが武装してやってきた。ザビーネさんは、その隙をついて逃げていった。
「ベルナ…テッド」
「トビア!」
ベルナテッドは、……大丈夫だ。怪我はない。よかった。
「助かったトビア。お前が隙を作ってくれたお陰でザビーネに一撃入れられた」
「いえ、結局逃してしまいました。ジェラドさん怪我は?」
「お前よりは軽いさ」
ザビーネさんと共にしていた反乱軍はすでに白旗をあげていた。ザビーネさんに逃げられたんだから、仕方ないだろう。
逃げた本人は恐らく、木星軍と合流するためにX2で出るだろう。そのためには格納庫に行く。ぼくも、できるだけ早く格納庫に向かわなければ。
……そこまで考えて、ようやくぼくは、大事なことを忘れていたことに気がついた。
「………スイさん!」
彼女は、最後に合ったときになんて言っていた?
格納庫でX2の点検をすると言っていた。
もし、彼女が反乱軍の一因じゃなかったら……彼女が危ない!!
「あっ、トビア! ひとりは危険よ!」
ベルナテッドの声も、最早聞いちゃいなかった。
ザビーネさんに殴られた痛みも忘れて、ぼくは格納庫に走った。
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