「願いが叶う…ねェ」
サッチは手のひらに乗った小石ほどの大きさのそれをじっと見つめる。訝しげな視線は涙の形に研磨された紺色の石に向けられていた。
見知らぬ占い師に貰った、正確に言えば押し付けられたばかりのそれが宝石と同じ輝きを持って手のひらの上で煌めいている。
宝石のような色味と輝きを持つ小石はこの世界にごまんと存在するが、生憎とサッチはこれが宝石かただの石なのかを判断する鑑定眼を持ち合わせていない。サッチにとってそれは少し珍しい色をした石のようなものだ。
人によってはそれが高価なものにもなりえるだろうが、所詮はただの石。ましてや人の願いを叶える能力など備えているわけもない。
紺色に紛れて銀色の粒のような光も見え、夜空を彷彿とさせるその色を指先で摘まむ。思うのはサッチを悩ませている元凶の男だ。
その人物が軽快に笑い、左右に美女を侍らせている姿が目に浮かぶ。人の気も知らないで、きっと今もどこかで町の美女とよろしくやっているのだろう。
自他共に女好きとして有名な相手を何故好きになってしまったのかと憂い、どうにもならないことにため息をつく。
もしこの石が本当に願いを叶えてくれるというのなら、女好きの相手が少しでも自分を気にかけてくれるようにと、女々しくもそう願うばかりだ。
「…ありえねェよなァ」
光にかざした小さな石が煌めく。
もしこれで願いが叶うなら苦労はしないと肩を落とし、手のひらの上に戻して握り込んだ。
「サッチ!!」
石に願いを託したことなど忘れて甲板に出た翌日、姿を見つけるなりすぐさま駆け寄ってきた相手に驚いて目を見開く。数分にしか満たない昨日の行動を思い出し、まさかと心臓が跳ねた。
そういえばあの石はどこにやったかと、現実逃避にも似た思案をしているとがしりと両肩を掴まれさらに胸が高鳴る。
相手の目は宝を見つけた時のように爛々と輝いていて、何を言われるのかとごくりと唾を飲み込んだ。
「サッチ、お前今日暇か!?暇だよな!!よし町へ行くぞ!!」
「は!?なんだいきなり、何しに行くんだよ」
「いいから行くぞー!!」
期待していたものとは違う言葉が相手の口から飛び出てきたことに安心半分、落胆半分の気持ちでいると早くと急かされ、腕を掴まれて船べりへと引っ張られる。離れることのない体温に妙な期待をしないよう自分を落ち着かせているとさらに腕を引っ張られた。
タラップを使わずに飛び降りる相手の後を自然と追う形になり、着地した海がばしゃりと音を立てて二人を迎え入れる。
何の説明もなく連れ出されたサッチは「おい」と声をかけるが、相手が何も言わずに悪戯っ子のような笑みだけを浮かべて町へと引きずっていくものだから、自然と期待してしまうのを止められなかった。
そうして連れ出された先で何をしたのかと言えば、ただの買い物だった。
あれが美味いとかこれが美味いだとか、島の特産品だという調味料やフルーツを使った飯を作ってくれだとか、何の変哲もないそういったもので、サッチが期待していた展開とは程遠い。
二人で買い物をしたことは何度かあるが、そのたびにいつもどこかへ消えてしまう相手が用事を済ませて船に戻るまで側にいたのはこれが初めてだ。
些細なことだが、もしかしてこれがあの石の効果だろうかと、買い込んだものを抱え込んで上機嫌に鼻歌を歌う相手を横目で見やる。
「…で、何だったんだ今日は」
「ん?」
水平線に沈んでいく夕陽を視界の隅におさめ、朝よりかは幾分か落ち着いた心音で相手の真意を尋ねる。
今日の買い物はサッチじゃなくてもいい内容で、それこそ町の女でも同じ船に乗るナースでもいいはずだ。
隣を歩いて、一緒に飯を食べて、あれやこれやと悩みながら買い物をする。今日の出来事はデートと言っても過言ではないだろう。
それなのに女好きである目の前の男はサッチを選んだ。天変地異の前触れかと思うぐらい、通常ならばあり得ないことだ。
「買い物してェだけならおれじゃなくていいだろ?」
平静を装ったつもりで放った言葉が震える。僅かに逸らした視線の先ではモビーディック号が二人の帰りを静かに待っていた。
核心に触れるようなサッチの言葉に鼻歌を止め、きょとんとした顔をしていた相手が徐々に表情を崩れさせてにんまりと笑う。
「…知りてェか?」
その言葉も表情もサッチには意味深に思えて、鎮まっていたはずの鼓動が再び騒ぎ出した。
相手の瞳に映っている自分がとても情けない顔をしていて、手の甲で隠すように顔を擦る。ちゃんと答えろよ、と返した声は強気な発言に比べて存外頼りない。
「たまには息抜きも必要だろうと思ってなァ」
笑みが深まった相手に何を言われるのかとどきまぎしていると自分を映していた目がフイと外れて真正面を見据えた。その口元には未だ笑みが浮かんだままである。
「…なんだよ、それ」
期待してしまいそうになる心を必死に押しとどめ、また鼻歌を歌い始めた相手の後を追う。
些細なことだが、自分を気にかけることがない相手だと思っていたサッチにとっては予想外だったし、小さな石に託した願いにしては充分すぎる幸福だった。
「サッチ、腹減った。なんかねェか」
「…おれは確かにコックだが、厨房以外でも常に食い物を持ってるわけじゃねェぞ」
数日経っても相手の態度は変わらなかった。
出航した後も事あるごとにサッチに話しかけ、用が済めば去っていく時もあれば数分程度の他愛ない話をしていく日もある。
今回の内容はどうやら後者に近い。食べ物など常備しているわけもないサッチは不満そうに見えるよう腕を組んでじとりと相手を睨みつけた。
「そんなこと言うなよサッチ〜」
相手がここで諦めるような性格をしていないことは重々承知しているが、予想に反して距離を詰めてきた相手に目を見開く。無遠慮に肩に乗せられた両腕は食べ物をねだって徐々に重くなった。
「分かったからのし掛かるんじゃねェ!」
何のてらいもなく触れられるたび高鳴る心臓に気付かれないよう平静を努めなければならないサッチは軽い抵抗を見せ、相手の重みが離れると自分を落ち着かせるために小さく息を吐いた。
ただの仲間でいいのだと、そう言い聞かせて。
「あげられるのはこれぐらいしかねェぞ」
「充分だって。ありがとう」
厨房まで付いてきた相手に先日仕入れたばかりの果物を丸々一個差し出すと途端に顔を輝かせ、サッチの手のひらの上に乗る重みのある赤色に手を伸ばす。
果物を取る際に僅かに触れた、何の意図もない相手の指先にでさえ緊張してしまう。
重みが相手に渡ったことを確認してから腕を下ろし、感触を閉じ込めるように手のひらを握り込んだ。
「夜メシが楽しみだなァ」
「…なんだよ急に」
「サッチのメシはどれも美味いだろ?だから楽しみなんだよ」
盛大に音を立てて空腹を知らせてくる腹を黙らせるために果物をかじり、広い厨房を見渡して笑う相手に訝しげな視線を向ける。
視線が交わった刹那、果物を頬張りながら笑顔で言い放った相手の言葉にどくりと心臓が跳ねた。
「──作ってるのはおれだけじゃねェが…」
いつまで効果が続くのかは分からないが、まさかこれも石の効果かと思い、それならばこれは石のおかげであって相手の本心ではないのだろうと結論づける。好意的な発言も行動も全ては石のおかげなのだ。効果が切れれば元の女好きに戻るのだろう。
「でもまァ、言われて悪い気はしねェな。ありがとう」
「おう!」
うまく笑ったつもりだったが、満面の笑みを浮かべる相手とは対照的にサッチの笑顔は寂しそうだった。
「サッチ!!」
「うおッ!!」
相手のスキンシップは日に日に勢いを増していく。
挨拶だけだったものが会話も混じるようになり、ついには出会い頭に故意的に激突するようにもなった。
「さっすが隊長サマだな、バランス崩さねェか」
「何がしたいんだよお前は…」
背中に飛びかかっても倒れないサッチの背から離れ、感心したように顎に手を当てる。呆れたような表情で振り返ると特に理由はないのだとカラカラと笑った相手にため息をついた。
サッチへのスキンシップが過激になっていくにつれ、女性へのスキンシップは減っていく。
サッチにとっては喜ばしいことだったが、これが石の効果だと思うと素直に喜べないでいた。
「──変わっちまったなァ、お前」
「あ?」
「前はこんなガキみてェなことしなかったろ」
最初のうちはただ、ほんの少し気にしてくれるだけでよかった。ほんの少しでよかったのに、石に願ってからその変化は顕著に表れ、徐々に大きくなっていく。
今では他人の空似なのではないかと思うまでに相手は変わってしまった。
サッチがそうなのだから周囲の仲間も同じように感じていることだろう。
「おれだってたまにははしゃぎてェ時もあるんだよ」
はたして目の前にいる人物は本当に自分が好きになった相手なのだろうかと、悪戯っぽく笑う相手を見て思う。
悪戯が目的で絡んできた相手はそう言うと機嫌よく鼻歌を歌いながら離れていった。
ナマエ。
その背中に向けて小さな声で名前を呼ぶ。
届かなくていいのだと、届かなくてよかったのだと、泣きそうに顔を歪めた。
消灯時間はとっくに過ぎ、全員が寝静まる時間に甲板に出たサッチは無数の星が煌めき歌う空を見上げる。
元凶となる石を取り出して空にかざすと夜よりも薄い色がサッチの指の間で鈍く光った。こんなに薄かっただろうか。
角度を変えて見てみてもその色は変わらず、何食わぬ顔で控えめに存在を主張している。前はもっと、夜のような濃い色をしていたはずだ。
目を眇めても変わらない色に、もしかして色が消える頃に効力も切れるのかと、そんな考えにたどり着く。
もしそうだとしたら、まだ効力が残っているのなら、もういいと、そう強く思った。色がなくなるまで耐えられそうにない。
相手の本心など無視して、自分の願望で相手が簡単に変わってしまうことが恐ろしい。
色素の薄い小さな石を握りこむ。
ほんの少しでよかったのだ。
こんなことは望んじゃいないと、元のナマエに戻してくれと、もう一度石に願った。
翌日、石を見るとその色味は完全に消失していた。効力が切れたのだろうか。
ダイヤモンドと見間違えてしまいそうなそれをそっと手のひらに乗せる。
「おれには充分すぎたよ。ありがとう」
小さなそれにお礼を告げ、瞳を閉じ、ふう、と息をはいた。
例えこれの色がなくなろうともナマエが元に戻っていなければ意味はない。
ベッドから抜け出し支度を済ませて甲板へと出る。
ナマエの姿を探すとナースと親しげに会話をしていた。久しぶりに見る光景だ。
胸に走った僅かな痛みを押し殺し、叶えてくれてありがとうな、と小さな石に再度お礼を告げる。
これでいいと、その姿を見て踵を返すと「サッチ」と声がかかった。
聞き間違えるはずもない。思わず振り向くと先程までナースと談笑していたはずのナマエがこちらへと歩いてきていた。
「おはよう、今日はちょっと起きるの遅いな」
「…お、おはよう」
「何ビックリしてるんだよ」
カラカラと笑う相手に目を白黒させ、元に戻っていないのはなんでだと、だってもうあの石は、と頭の中で思考がぐるぐると渦巻く。
石を壊せばいいのかと思い始めた頃、遅れてナースがやってきた。
ナマエの隣に並び、「サッチ隊長、聞いてくださいよ〜」と声をかける。
「この子、前の島で声をかけた女の子が原因で好みのタイプが変わったみたいで。前は散々私にちょっかいかけてきてたのに…なんだか寂しいわ」
「リリーが料理上手だったら今も変わらず口説いてたかもな!」
「ちょっと!私の作る料理が不味いっていうの!?」
「そんなことはねェけど…この船にゃァそれより美味いメシ作るやつがいるからなァ」
前の島?好みのタイプ?とサッチが思考を巡らせているうちに会話の中で意味深に視線を向けるナマエ。その視線を追ってリリーという名のナースもサッチを見た。
「あら。例えばサッチ隊長とか?」
ナマエがこのタイミングでサッチを見なければその選択肢は存在しなかっただろう。色恋沙汰の話を好む傾向にある女性らしくその表情は綻んでいる。
食い気味に袖を引っ張るナースに否定も肯定もせずに子供っぽい笑みを見せたナマエの意図がつかめない。目を見開いてナマエを見つめるサッチの表情は硬かった。
「あ、おい!サッチ!」
もう石の効力は切れているはずだ。
切れていないのならやはり石を壊すべきだと、呼び止める声を気にも止めず早足で船内へと向かった。
その片手に愛用の剣を持ち、机の上に置いてある透明な石を親の仇かのような顔で見下ろす。これが原因なら壊してしまえばナマエも元に戻るはずだと、小さな粒を空中に放り投げ、武装色の覇気を纏わせた刃で斬り裂く。
小さなそれはさらに細かくわかれ、ひとつは床に落ちて滑り、もうひとつは壁に当たって跳ね返った後木目の床を滑った。
真っ二つに割れたそれを見て小さく息をつく。
あとはナマエが元に戻ったかどうかを確認するだけだ。
──もし元に戻っていなかったらどうすればいいか、浮かんだ思考を振り払うように頭を振った。
「ナマエ!」
「あ、サッチいた!」
剣を置いてから目的の人物を探すとその姿は船内にあった。小走りで近寄ってくる様子からするとどうやら向こうも同じように探していたらしい。その傍に先程までいたはずのナースの姿はなかった。
石の効果が発揮された当初とは違う意味で心臓が早鐘を打つ。
「突然どうしたんだ、っておれのせいか」
睨んでくるサッチに何を思ったのか気まずそうに頭をかき、ちゃんと言わなきゃダメだよな、と呟いてから瞳を閉じて深呼吸をするナマエ。
その間もサッチの目は逸らされることなくナマエに向けられている。きちんと元に戻ったかどうかを確認するためだ。
「おれ、サッチのこと好きみたいなんだ」
目を開いたナマエが覚悟を決めたような顔で口に出した言葉にサッチは目を見開き、絶望にも似た表情を浮かべる。
まだ元に戻っていないのかと、ならどうすればいいかと考え、手のひらを額に当てた。
「──嘘だろ」
「…おいサッチ、」
誰かに聞かせるためのものではない、思わず口に出てしまった落胆がサッチの口から漏れる。
自身の感情を否定する言葉を紡いだ相手にナマエがむっとした表情を見せた。
「数週間前、おれは願いが叶うっていう胡散臭い石に願ったんだ。お前が少しでもおれを気にかけてくれるようにって。けどここまでは望んじゃいねェ」
「──あァ?石に願掛け…?何言ってんだおめェ」
「お前がおれを好きになるなんてありえねェだろ!いつだって女しか見てなかったじゃねェか!!」
元に戻す方法はないのかと、もう元には戻らないのかと思い、泣きそうな顔で感情を吐露するサッチにナマエは言葉が詰まったように口を引き結ぶ。そんなことねェけど、と言いながら逸らした視線は床へと注がれた。
「…前の島で会った子が作ってくれたメシがさ、すげェ不味かったんだよ。見た目は普通なのに味は最悪で、何入れたらこうなるんだってくらい。その後に食ったサッチの飯がすげェ美味くて、ああやっぱり料理上手なほうがいいなって思ったんだ」
「それからサッチを見かけるたびに絡んでたけど、お前の反応が意外にも可愛かったもんだから、こいつもしかしておれに気があるんじゃねェかって思って…そう思い始めてからはお前を可愛いとしか思えなくなった」
そんなわけない。
そんなわけがないと思うのに、再びサッチを捉えた相手の目はいつになく真剣で、これがナマエの本心なのか、それとも石によるものなのか判断がつかない。
ただその言葉は、サッチにとってあまりにも信じ難いことである。
「嘘だ」
「──お前なァ!」
ありえないことがありえている現象にサッチは目を見開いたまま言葉を零した。
二度も感情を否定されたナマエはキッと目をつりあげて大股でサッチに近寄り、胸ぐらを掴んで引き寄せる。
「お前が何と言おうとおれはおめェが好きなんだよ!!認めろ馬鹿!!おれの気持ちまで否定するんじゃねェ!!石だか何だか知らねェが、おれァそんなものに操られる男じゃねェぞ!!嘘じゃねェって証拠見せてやる!!」
サッチが口を挟む間を与えないよう矢継ぎ早に言い放つとナマエは胸ぐらを掴んでいた手を離しサッチの頬に触れた。
呆然としているサッチに顔を近づけてその唇を塞ぐ。ほんの少しの間だけ触れてすぐに離れていった。
「………え、」
「これで分かったか馬鹿!!」
何が起こったのか分からずに目を白黒させているサッチを睨みつける相手の顔はこれでもかというほど赤くなっていた。
女相手では慣れていることもあって赤面することのなかったナマエが今、サッチに自らキスをして、そして照れている。
「──うそだろ…」
反応が伝染したようにサッチの頬も赤く染まり、それを隠すように額をおさえて俯いた。
まだ言うのか、と言いながら近づいてくる相手を手の平を前に突き出すことで制止する。
今までの比ではないくらい心臓がうるさくて、今にも胸を突き破って出てきそうだ。
石のことなんて吹き飛ぶくらいの混乱がサッチの頭の中で巡り、一体どういうつもりだと、ちらりと向けた視線の先でナマエと目が合うと頬の熱さが増す。
制止により止まったはずのナマエがまた動き出し、突き出されたままのサッチの手を掴んだ。
「おれは、お前が、好きだ」
引き寄せられ、至近距離で告げられた告白。相手の目は真摯にサッチを射抜いている。
受け入れろと物語る相手の瞳に、そして受け入れたいと願う自身の心に、ああもうどうでもいいかと、悩みのタネである透明な石を思考から追い出した。
「これアクアナイトじゃねェか?」
「アクアナイト?」
「色が変わるだろ?これ。おれの生まれた島じゃ船乗りのお守りとして有名だぜ。これに願いを叶える力なんてねェよ」
「……そうか…」
二人横に並び、船べりに寄りかかりながら透明なそれを手の中で弄ぶ。
ナマエがいた島では有名な石のようで、願いを叶える力はないと言われたサッチは拍子抜けしたように脱力した。
この石に人の願いを叶える力がないのだとしたら、やはりあの告白は嘘偽りないナマエ自身の気持ちなのだろう。
好きだと言われたこと、キスをされたことを思い出し、顔が赤くなるのを感じて手の甲を鼻に当てた。
胡散臭い占い師の正体や狙いは分からずじまいだが、結果的にサッチにとっては良いことがあったといえる。
「キレイだよなァ、この石」
「…壊れちまったが、欲しけりゃやるよ」
「本当か!?ありがとうサッチ!!」
光に透かして石を眺めるナマエの瞳は少年のように輝いている。
口をついてでた言葉にナマエがキラキラとした表情のまま勢いよくこちらを向いた。直視するのも照れ臭くて視線を僅かに逸らす。
「それと…、おれも、お前のことが好きだ」
喜ぶナマエを尻目に、石は関係ないのだと安堵したサッチは今までしまい込んできた想いをようやく言葉にする。生涯口にすることはないだろうと思っていた言葉だ。
反応が気になってそろりと視線を戻すとナマエは石を貰った時よりも嬉しそうな顔で「おれもだよ」と笑った。