※東京タワーの5階で上演しているONE PIECE LIVE ATTRACTION 3 『PHANTOM』に登場するキャラクター


おれには気になる奴がいる。
恋愛の意味じゃない。
素顔が気になるって意味だ。

数年前にバギー座長の用心棒として雇われたそいつは座長とお揃いの赤っ鼻がついた覆面で顔の大部分を隠している。名前はパギー。名前まで座長に似ている。
素顔が見たくて覆面を奪おうと試みてはいるがいつも逃げられる。あいつはとにかく動きが素早くて、でたらめだ。何をするか分からない。

パギーの戦闘は見ていて飽きない。人を楽しませるための曲芸で敵を翻弄し、時に守るべき座長でさえもからかいの対象にする。
座長にも敵にもちょっかいを出して、ターゲットが追いかけてきたら逃げる。ただのヘタレかと思えば追いついてきた相手を返り討ちにする嫌なタイプの構われたがりだ。
いたずらっ子みたいな性格をしているがこれがどうしてなかなかに強いものだから未だに負けを知らない。懸賞金2億ベリーは伊達じゃないようだ。

電撃が流れるジャグリングポイを器用に振り回したり、回転させてアーティスティックに文字や模様を浮かび上がらせたりと戦闘に曲芸を取り入れた戦い方をする。それが戦闘時だけにしか見れないのが残念で仕方がない。
パギーが回れば三色の派手な髪が動きに合わせて揺れる。まるで踊ってるみたいに。それにじゃれつこうとしただけのリッチーさんを返り討ちにしてモージさんに怒られていた。
手加減をしていなかったらリッチーさんは今頃体の一部が焦げていたに違いない。


手持ち無沙汰にポイに繋いだ紐に指を差し込んでくるくる回すパギーはいつだって遊び相手を探していて、ターゲットを探してあちこちに向けられる視線はキョロキョロと忙しない。

「パギー!」
「!」

今日こそはといきり立って近付くと声に反応したパギーがこちらを向いた。
覆面を奪おうとジリジリ近付くおれに「なんだ、やるか」とばかりに目を輝かせてポイを構える。
覆面から覗く目はオモチャを与えられた犬みたいにキラキラと輝いていて楽しそうだ。

手が届きそうで届かない絶妙な位置で止まるとおれの出方を伺ってパギーも動きを止める。
またナマエか、あいつも飽きねェなと呆れたような声色でそう漏らす仲間の声が聞こえてきた。そう思うなら手伝ってくれてもいいじゃねェか。
パギーが自分で覆面をとってくれればこの攻防も終わるんだが、誰かをからかって遊びたいパギーは絶対に自分じゃとらない。仲間の支援も望めないとなれば自力でどうにかするしかないのだ。

「…?」

覆面をとるには今までと同じ動きじゃ通用しない。
そのままじぃっと見つめていると好戦的だった目が疑問を孕んで丸くなる。
構えを解いて、けれどおれが何をしてきてもすぐに反応できるよう警戒しながらも「かかってこないのか?」と少しだけ首を傾けた。
口数は少ないが表情や仕草で言いたいことは大体理解できるから意思疎通には困らない。

腰のベルトに取り付けたチャクラムに手をかけるとにんまりと笑っていつでもかかってこいとばかりにポイを構えるパギー。わかりやすいやつだ。
感情はこんなにもわかりやすいのに行動は読めないなんて難しい。

「おめェら物を壊すんじゃねェぞ」

上のほうから座長の声が聞こえる。たぶんこれは主におれに言ったんだろう。
パギーはポイひとつで家具を叩き割ることもできるが加減を知ってる。一方おれの武器は手加減に向かない切れ味抜群のチャクラムだ。触れたもの全部切っちまう。
そんなものを仲間に向けるなんてどうかしてるが、パギーがそれを使えと指差すんだからしょうがない。

上からおれ達を見下ろしている座長にパギーが目を向けた瞬間に距離を詰め、チャクラムをベルトから抜き取ってパギーに突進する。
本来チャクラムは投げるものだが投げたとしても持ち手である中心部分にポイを突っ込まれてそのまま器用に投げ返されるのがオチだ。今までに何度それをやられたことか。

ギリギリまで近付いたところでチャクラムを突き出すと座長に顔を向けたまま体を後ろに仰け反らせて凶器を避けるパギー。
チャクラムが通り過ぎるとピエロの覆面が戻ってきた。そこにすかさずもう片方のチャクラムを滑らせる。

「ポゥッ!!」
「あっ!こら!パギー!返せ!」

慌てることもなく、楽しそうな顔でチャクラムの中心にポイを差し込んだパギーに武器を片方奪われた。てっきり投げ返されるかと思いきやくるりと振り返って逃走する。余裕そうにポイでチャクラムをくるくると回しているところが腹立たしい。
手でならまだしも突っかかる部分のないポイでなんて、なんて器用なやつなんだあいつは!なんでもかんでもすぐできるようになりやがって!

「パギー!この野郎!」

後を追いかけるとペンペンと自分の尻を叩いて煽られたから一撃目に使ったチャクラムをそのカラフルな頭に向かって投げてやった。

「ポーウッ!」

曲線を描きながら後頭部へ向かっていくチャクラム。
かわされる予感はあったけど、当たる直前でくるりと振り返ったパギーにまたチャクラムを奪われた。くそ。武器がなくなった。

「パギー!待てこら!チャクラム返せ!あとツラ見せろ!!」

ケタケタ笑って両手に持ったポイでおれのチャクラムを回しながら逃げるパギーの背中を追う。
突然くるりと振り返られて反撃されるかと身構えるとべーっと舌を出してまた逃げた。ちくしょうまた煽られた。

「あっおれの剣!」
「悪い貸してくれ!待てパギー!!」
「うおっ、ナマエか」

すれ違った仲間の腰から剣を拝借して慣れない武器片手に悪戯好きなピエロを追いかける。勝手に奪っただけだが剣を貸してくれたあいつには後で酒を奢ろう。



「パギー!」

道なんてない天幕の中に逃げ込んだパギーを追い詰める。
前はおれ、後ろは天幕、逃げるとなれば左右しかないが、パギーのことだから天幕を破って逃げるかもしれないし、おれの股の下に滑り込むかもしれない。全く行動が読めない。

じりじりと近付くとパギーは至極楽しそうに口の端をつりあげてにんまりと笑った。なんだかうまいように遊ばれている気がしてならない。
この際チャクラムはいいから、今はその覆面だ。

「!?…ッ、」

パギーが一歩踏み出してダンっと床を鳴らす。
怯むとさらにもう一歩踏み出してきて、剥がしたいと常日頃から思っている覆面がおれの目の前にやってきた。
おいまさか噛み付いてくるとかないよな?

「ちょ、…あ!」

警戒して身を引くと距離を詰められる。
はっとしてこの隙にと覆面に手を伸ばそうとすると黄色い覆面に描かれた炎のような模様がより一層近付いた。

むに。

おれの鼻に作り物の赤っ鼻がぶつかる。
ぶつかるというか、押し付けられる。
座長の鼻と違ってちょっと硬かった。

「…えっ、なんだ今の…?」

丸い鼻はすぐに離れていって、ケタケタ笑いながらなにも持ってないとばかりに両手を振るパギー。
いつのまにかパギーの両手からチャクラムが消えている。
片手を鼻に、もう片方を腰にやるとしっかりとチャクラムがベルトにおさまっていた。

「…おい待てこら!パギー!!」

手持ち無沙汰にポイを回しながら次のターゲットを探すパギーの背中を見つめる。
普段ならここで諦めるところだが、いつも以上に訳がわからないパギーの行動を問い詰めるために動きに合わせて揺れる派手な色の髪を追った。

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