「じゃあ訊くけどナマエはおれにどんなやつとくっついてほしいわけ」
「んー…面倒見よくって裏表なくって…できれば純真で、あとお前の無茶を叱れる子がいい」
「ナマエじゃん」
「おれじゃねえよ」

おれのベッドを占領しているエースは、見るからにつまらなそうに顔をしかめた。酒のせいで頬がやや紅潮しているもんだから、拗ねているようにも見える。

「ヤダ。おれナマエがいい」

うーん、幼子に駄々をこねられている気分。
誰にそそのかされたか、それとも何か思うところがあったのか。おれの知り得るところではないが、ちょっと、いやかなり、困る。目に入れても痛くないほどに可愛がっていた弟分からそういった好意を寄せられて、あいわかったと誰が言えようか。少なくともおれは無理。

「ナマエはおれがそんなに嫌なわけ?」
「え…いや、」
「ナマエは女好きだもんなー。毎日連れ込んでるもんなー」

何だこの、まるで恋人に浮気をつつかれるような感覚は。
ちょっとドキッとしてしまったが、そんなの皆周知だし、今に始まった話でもない。だからどうしたと言えればいいのに、毎日じゃねえしと情けなくも小声で弁明するおれがいる。おれはなぜ嫌な汗をかいているのだろう。

「エース、おれの女好き責めるのと今の話は違うだろ」
「違わない」
「…ん?」
「おれ女じゃねーし」

エースがぷいと壁の方を向いてしまった。パタパタと動いていた脚もぴたりとおとなしくなって、掛け時計の秒針の音だけがいやに響いた。
これもうなにが正解なわけ?

「…おれさあ、エースのことすげー大事で、お前のためなら何でもやってやりたいくらいには思うけど、エースが?その…恋人に?なる?っていうの、考えたことないっていうか…うん」
「じゃあ今考えろよ」
「お前容赦ねえな」

エースが飛び起きてベッドの上で胡座をかいた。なんとなくつられておれもエースに向き直る。

「おれは!ナマエが好きだからもうなんだって覚悟してんの!あとはナマエが腹括るだけなんだよ、わかる?」
「…んん?」
「あと30分もすればナースがここに来るんだろ。選べ。おれを追い出すか、ナースを追い返すか」
「えっ、おま、待て、誰に聞い…いや、どのアホの入れ知恵だよ」
「うっさい。ガキ扱いすんな」
「…」

時計を確認する。確かにあと30分ほどで約束の時間ではある。
今日はこのかわいい弟分に負けっぱなしだ。認めたくなかったが、それだけ本気なのだろう。そう認めてしまったらなんだか落ち着いてきた。
もうどうにでもなれ。

「エースさ、おれがナースと何するのか、当然わかってるよな?」

立ち上がってエースに目をやると、奴は肩を僅かにびくりと震わせた。
ここまでくると、わかってるに決まってんだろ、なんて虚勢をはる姿が愛しくなってくる。無理しちゃってまあ。

「こういう大事なことはさ、シラフの時に聞かして。そんときに真面目に答えるから」
「…だから今日は、ナースがくるから部屋に戻れって?」
「いや、いてもいいけど。エースが代わりに相手してくれんなら」

何でも覚悟してるんだろ。耳元で囁くとエースの顔にぶわっと赤が走った。てかちょっと物理的に火が出て急いで飛び退いた。おれのベッド燃やすなよ。

「んじゃおれシャワー浴びてくるから」

惚けているエースの頭をぽんぽんと撫でて、着替えとタオルを拾ってシャワー室へ向かった。
扉を閉める直前、「ナマエずりい」なんて声が聞こえた気がしたが、無視して扉を閉めた。
ああは言ったけど、おれだって腹は括ってしまったし、そうさせたお前の方がよっぽどずるいよ。


余談になるが、シャワーから戻るとほろ酔いだったエースは予想通り爆睡かましていて、時間通りやってきたナースには丁重にお断りをいれることになった。

「ごめん、今エースが寝てるんだわ。だからまた明日でいい?なんかエースもやりたがってたから明日教えてやろうぜ、花札」

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