※暴力表現あり
※名無しオリキャラ注意



 おれとカクは、とても仲が悪い。

「カクのばーか!」
「うるさいわい! ガキのような口ばかり叩きよって!」

 相手の拳をいなしながら相手を罵ると、イラ立ちで顔をしかめたカクの蹴りがこちらの腹をめがけて放たれた。
 慌てて鉄塊を使ったが、腹立たしいことにめり込んだ足の勢いに負けて体が後ろに滑る。
 演習場のあちこちがえぐれているのはおれ達がやり合ったからで、その大地におれの足が跡をまた刻み付けた。
 痛みに眉を寄せながら片手を患部へ添えて、おれは足を降ろした相手を睨み付ける。
 おれのそれを見やったカクが、おれが先ほど放った一撃で血を零している口元を軽く拭いながら、相変わらずおれには可愛さの分からない丸い眼に怒りをにじませて、鋭く舌打ちした。

「いつもいつも、ことあるごとに仕掛けてきよって。なんじゃと言うんじゃ!」
「お前が気に喰わないんだよ! お前だってそうだろ!」

 湧き出るイラ立ちのままに声をあげる。
 今日はおれから仕掛けたが、カクだっておれに仕掛けてくることが多い。
 一昨日は、おれが給仕へ話しかけているところにとびかかってきた。
 その前は確か廊下で角を曲がったところで衝突したからで、一緒にいたジャブラがゲラゲラ笑った後で止めてくるまでやり合った。
 そうだ、そういえばあの時はカクの蹴りが廊下の備品を壊してしまって、おれは悪くないはずなのにおれまで怒られたんだった。
 思い出すと更なるイラ立ちが湧き、もう一発殴ってやろうと拳を握ったところで、パンパン、と睨み合うおれ達の間に割って入るように誰かが手を叩いた。
 カクと揃ってそちらを見やると、おれとカクをあきれたように見やったおれ達の二つ上の同僚が、その片手を使って自分の眼鏡を押し上げる。

「カク、教官が呼んでいるわ」
「!」

 放たれた言葉にカクが慌てた様子で居住まいを正し、今行く、と短く言葉を紡いだ。
 その目が一度だけこちらを睨み付け、握った拳から突き出された親指が下を向く。
 挑発的な仕草に舌を出したおれを置いて、カクはその場から駆けだした。
 きっともともと教官に呼ばれていたんだろう。怒られたらいい気味だ。

「……ナマエ、貴方達はどうしてそう、仲良く出来ないの」

 そんな言葉が寄越されて、出していた舌を引っ込める。
 足音すらほとんどさせずに近寄ってきたカリファの目がおれを見つめ、その頭がふるりと横に振られた。

「そこまでルッチとジャブラを見習わなくてもいいんじゃないかしら」

 あちこちで喧嘩ばかりして、と呟くカリファが言う二人は、おれとカクより何年も先にCP9となった諜報員だ。
 よくジャブラがルッチにつっかかったり、ルッチが構われたいときに挑発を仕掛けている。
 あの二人は仲が良いだろうとおれは判断しているので、カリファの言葉に眉を寄せた。
 おれの様子にため息すら漏らして、カリファの手がハンカチを取り出す。
 白いそれを受けとって、おれは頬を軽くこすった。
 少しひりついた痛みがあるので、擦り傷でも出来ているらしい。

「それで、今日の原因は何?」
「今日? 今日は……あー……なんだっけ」

 寄越された言葉に少し悩んで首を傾げると、カリファがおれの名前を咎めるように呼んだ。
 眉間に皺を寄せた美人を見やって、慌てて借りていたハンカチを返す。

「カクに殴られたから飛んじまっただけだよ。そんな顔するなよ」

 さすがにおれだって、顔を見るだけで殴りかかるなんていう通り魔みたいなことはしない。カクがおれを怒らせるようなことをしなかったら、仲良くしてやることだってできる。
 理由がなかったわけじゃないんだと手を広げてみせると、ハンカチを片付けたカリファがもう一度ため息を漏らした。

「……一昨日はカクの方から仕掛けたんだったわね。その仕返しかしら?」
「いや、あれは一昨日でやり返してるし。一昨日のあいつはいつもに輪をかけて理不尽だったよな、急に木刀だもん。あの給仕の子に惚れてんのかな」

 そうだとしたら、驚きと恐怖で硬直していたあの子を落とすのにはかなりの労力が必要となるだろう。ざまァ見ろと言ったところである。
 おれの言葉を聞いて、先週の貴方も理不尽だったわよ、とカリファの口からあきれのにじんだ声が出た。

「カクはブルーノと組手をしていただけだったでしょう」

 そうして言われた言葉に、おれは先週のことを思い出した。
 ちょうどこの訓練場で、カクがブルーノに鉄塊を習っていたんだ。
 その目は真剣にブルーノを睨み付けていて、おれが見ていることになんてまるで気付いた様子もなかった。
 だというのに鉄塊を使っているブルーノを後ろに傾がせることすらできないカクに、笑ってやるつもりだったのにとてもむかついたのまで思い出す。
 イラ立ちはそのまま舌打ちとなって漏れて、おれはふいとカリファから目を逸らした。

「カクがぜんっぜんブルーノに勝てないから、情けねェって言ってやっただけだろ?」
「嵐脚を出しながら?」
「当ててねえし」

 カクだって直前でやっと気付いてきちんと避けていたし、ブルーノに至っては全部鉄塊で防いでしまった。

「……貴方達はどうしてそう、普通に仲良く出来ないの?」

 面白くなかったことに頬を膨らませると、先ほどと少し違う言葉を繰り返したカリファの両手がおれの顔を両側から挟む。
 潰された頬から押し出された空気がふしゅりと唇を滑って出て行って、少し口を尖らせたままのおれを見つめたカリファに、おれはそのままの顔で返事をした。

「カクが悪いんだよ」
「またそんなことを言って」
「おれをイライラさせるんだから、カクが悪い。思い出した。今日はフクロウを独り占めにしようとしたんだ」

 紙絵を習いたいと言ってフクロウを演習場に誘っていたから、イラ立ったおれがカクへと飛びついた。
 余裕の顔で紙絵を使おうとしたのにおれの拳を食らったカクの怒った顔ときたら、なかなかに愉快だった。
 ついでに言えばフクロウの方は、得意の剃でさっさといなくなってしまった。きっと今頃はどこかで楽しく噂話を集めているんだろう。
 おれの返事を聞いたカリファが、軽く眉を動かす。
 そうやると教官にそっくりだ。父親なんだから当然だろうか。

「……まったく、もう」

 いい加減にしなさい、なんて言葉と共につねられた頬は、なかなか痛かった。







 おれとカクが長官に呼ばれたのは、夕方頃のことだった。
 先にスパンダイン長官のところについていたのはおれで、部屋に入ってきたカクにおれは盛大に顔をしかめたし、カクだって似たような顔をした。
 それでもまさか、同僚が気に入らないからと言って呼びつけた長官を放って部屋を出るわけにもいかず、一定の距離を開いて並んだおれ達を見やった長官が、こちらへ資料を放りながら今回の『任務』をおれ達へ簡単に説明する。
 人間が攫われる事件が複数の島で起きている。
 特に頻発している海域の、すでにあたりをつけてあるします怪しい島へ潜入し、そこで『一般人』のふりをしながら犯人を捜す。
 最終的には攫われた人間達の居場所を突き止め、犯人を海軍に引き渡す。
 そんな簡単な説明の後で、にやりと長官が笑った。

「おれの為に頑張ってきやがれ、カク、ナマエ」

 言い放った相手に、おれは眉を寄せる。

「色々おかしくない? 長官」
「この完璧な作戦がか? 簡単だろうが。お貴族様の倅を攫ってショップに売り払った変態野郎の潜伏先を探す、ただそれだけの話だ」

 おれの言葉に長官はそう言うが、だからこそおかしいのだ。
 おれ達はCP9だ。
 もちろん命令が絶対の諜報員だが、他にもCPは多く存在するし、そういった『簡単』な任務は他に振られることが多い。
 何か別に意図があるのか、少し考えたおれの横で、なるほど、とカクが呟いた。

「この手柄はCP5のもんじゃな」

 さらりと落ちたその言葉にそれがどういう意味か分かって、思わず上官を見やる。
 おれ達の視線を受け止めて、当然だろうとスパンダイン長官は満足げに頷いた。
 CP5の主官が誰かを考えれば、この顔も納得だ。

「またですか」
「馬鹿お前、可愛い息子に手柄をやって何が悪い」
「CP9をコネで使うのも長官の息子くらいなもんじゃ」

 大方その『貴族』や海軍に名前を売っておきたいんだろうと判断してため息を零すと、おれの横でカクが肩を竦めた。
 親の七光りをここまで容認している親というのも珍しいんじゃないだろうか。
 そういえば顔の傷はもういいのかと向かいの相手へ尋ねると、スパンダイン長官はとても怖い顔をした。息子が怪我をしたときとても怒っていた誰かさんの怒りは、いまだに継続中らしい。
 八つ当たりされたらまずいと視線を外して、それにしても、と話を逸らす。

「成人してない男ばかり狙うって気持ち悪いなァ」

 壊すのが目的だとしても犯すのが目的だとしても、資料の『被害者』の状況を見る限り、犯人が変態野郎であることは間違いない。
 普通の人間が被害に遭ったら、まともな状態に立ち直るのはとても大変だろう。他人事だが、『貴族』の跡取りが心配になるくらいだ。

「……まったくじゃ」

 おれの言葉に、うんざり顔でカクが頷いた。
 それを聞いてからか、スパンダイン長官の方から声が放られる。

「万が一の時は、下手な抵抗するなよ。攫った人間をどこに連れ込んでるのか吐かせなきゃなんねェんだ、逃げられちゃァ困る」
「ええ?」

 なんだかとんでもないことを言われた気がして視線を戻すと、スパンダイン長官はおれ達の方を見やってとてもまじめな顔をした。

「むしろそのまんま攫われて、連れて行かれた場所で救助を求めたほうが手っ取り早ェな。まァもちろん、殺されそうだってんなら話は別だが」

 万が一の時はこれで援護を呼べととても小さな電伝虫を二つ揃って放られて、片手で一つを横にはじいて残った一つだけを受け止めた。
 どこにでも隠せそうな小さな小さな電伝虫は、その殻にボタンを一つつけられている。
 通話するための機械はついていないので、本当にただの合図のための物体だ。
 あまり遠いと電波が届かないだろうから、あとで確認しないといけないだろう。

「捕まっても好きにされろと?」

 おれがはじいた電伝虫を受け止めたらしいカクが、それをポケットへ仕舞いこみながら言葉を放つ。
 そうだと長官が頷いて、その事実におれはちらりと傍らを見やった。
 おれと同じ年の誰かさんも、同じようにこちらを見る。

「どうしよう……おれ、カクが変態野郎に捕まってたら指さして笑うかもしれない」

 カクがそんなことになるなんて、まるで想像もできない状況だ。笑いを堪えられる自信がない。
 おれの言葉に、ふん、と馬鹿にしたように鼻を鳴らしたカクが、その長い鼻を逸らすように顔を動かした。

「それはこっちの台詞じゃ、馬鹿ナマエ。お前がそんな目に遭っとったら、わしは腹を抱えて笑い転げるに決まっとる」

 間抜けすぎて、と続いた言葉にかちんと来て、おれはカクの方へ足を一歩踏み込んだ。
 それに気付いたカクも体をこちらに向けて、お互いに正面から相手を睨み付ける。

「おいおい、おっぱじめるんならおれのいないところでやれ」

 おれの責任になるだろうが、と保身が一番らしいスパンダイン長官が言葉を零して、とんとんと机をたたく。
 注意を引こうとするそれに、とりあえずカクへは舌打ちだけを放ってから、おれは長官の方へ視線を戻した。

「……それで、他には誰が一緒に?」
「ああ? 保護者役はいねェ。表向きにはCP5の任務だからな」

 顔を向けたおれへスパンダイン長官がそう言って、寄越されたその言葉の意味にぱちりと目を瞬かせる。

「あれ……今回は、他の人はいかないんだ」

 いつもなら、おれやカクの任務には他のCP9が同行しているのだ。
 何せおれ達はまだ他のCP9に比べれば新人の分類で、まともに六式全てを操れるようになったのだってつい最近だった。
 場数をこなせとあちこちに連れて行かれることも多いからてっきりそれだと思ったのに、と続けると、いい加減慣れただろお前らも、とスパンダイン長官が言葉を紡いだ。

「ルッチ達にゃァ別の仕事があるんだよ。今回の任務じゃァカリファを行かせるだけ無駄だしな」

 男の真似ができりゃあ良かったが女らしくなっちまったしなァ、とセクハラこの上ない言葉を放つスパンダイン長官の向かいで、もう一度瞬きをした。
 CP5の主官がどこで待っているのかは知らないが、おれ達の仕事の成果を全部受けとって持ち帰るだけだろうと考えれば、今回の任務の実働はおれとカクの二人だけだ。
 ルッチもジャブラ達もいないんなら、遊び相手をカクにとられる不愉快もない。
 二人きり、の言葉がなんとなく頭の中を回ったおれの横で、カクが大きくため息を零す。

「なんじゃ……わしが一人でナマエの面倒をみなくてはならんのか……」

 大げさな嘆きが耳に入ったが、どうしてかあまりイラつかなかった。
 その代わり、そっか、と呟いてから手元を見下ろす。
 相変わらず寝たふりをしている子電伝虫をポケットに入れて、ルッチがよくやるように両手もポケットへ収めた。

「駄目なら、いいや」

 命令だから仕方ないし、と紡いだおれに、どうしてかスパンダイン長官が怪訝そうな目を向ける。
 おれがあっさりと口答えをやめたのが不思議なんだろうか。
 おれだって子供じゃないんだから、そんなどうしようもないことに文句をつけ続けるはずがないのに。

「……ナマエ?」

 すぐ横からカクがおれの名前を呼んできたが、それは無視しておれは長官へ向けて口を動かした。

「長官、土産、なにがいい? あまいの?」
「お、おう、そうだな……」

 おれの問いに慌てて頷き、長官が口にしてきたのはその島の銘菓らしい商品名だった。







「気味が悪いわい」

 耳に低く声が届いて、おれはちらりと後ろを見やった。
 普段と違う、明るい色味の服を着込んだカクが、どことなく怪訝そうな目をこちらへ向けている。
 一度だけ周囲を確認して、おれ達がいるデッキにいる旅行者達が離れた場所にいることを確認してから、カクの方へと近付いた。

「何がだよ、カク」

 仕事だろ、と続ける言葉は飲み込んだが、ちゃんと伝わっただろう。
 こちらを見やったカクの口からため息が漏れて、その目がおれから逸らされた。
 任務を言い渡されて三日。
 わざわざ旅行船に乗り込んで、おれとカクはようやくあと一時間ほどで目的の島へとたどり着くところだった。
 見た目からして『兄弟』の設定が通じそうにないおれ達はただの『友人同士』での旅行者で、おれ達の『保護者』役にすらならなかったCP5の主官殿は、どうやら客船に偽装した別の船に乗っているらしい。
 きっとゆったり椅子に座って過ごしているんだろうと思うと何とも言えない気持ちになるが、戦力になるわけでもないだろうなというのがおれ達二人の共通の認識だ。
 潜入させようにも、顔の怪我がいかつすぎて訳あり物件にしか見えないだろう。
 一応、おれ達が持たされた小さな電伝虫の念波が届く近海にはいるということだから、まあ最後に働いてもらうことにした。

「うまくやる自信がないんなら、できるおれに任せてもいいんだぜ?」

 顔へ吹き付ける潮風にわずかに目を細めながらその顔を覗き込むと、ちら、とこちらを見やったカクがふんと鼻を鳴らした。

「馬鹿を言いよって。『兄貴分』に勝てる『弟分』なんぞいるものか」
「同い年の癖によく言うよ」

 きっぱりとした言葉に、おれの口からはあきれのにじんだ声が出た。
 確かに、カクはおれより半年早く訓練を終えた。しかし、一年も変わらないし、年だって同じなんだから『兄』も『弟』もない。
 ルッチ達なら兄ちゃんって呼んでもいいけどな、と言葉を続けると、じろりとカクがおれを見る目に剣呑さを宿らせた。
 せっかく明るい色の服を着て『一般人』の格好をしているのに、まるで正体の隠れていない顔をする相手に、穏やかに微笑んで見せる。
 いつもだったらこのまま口喧嘩を発展させていって、そのまま殴り合いにでもなっていくところだ。
 しかし今おれ達がいるのは旅行船のデッキの上で、今のおれ達はCP9ではなく民間人のナマエとカクだった。
 周りにいるのは何も知らない一般人ばかりで、おれの仲間はカクだけだ。
 カクにとってもおれだけなんだと思うと、やっぱりなんとなく気分がいい。
 きっと、カクが誰かを独り占めにしようと思ったってできないからだ。

「どうしたカク、笑えないのか?」

 笑わしてやろうか、なんて言って両手を持ち上げてわざとらしくわきわきと指を動かすと、やめんか、と声を零したカクが一歩足を引いた。

「くすぐられてここで笑い転げるのは勘弁じゃ」
「じゃあ楽しそうにしてくれよ、せっかくの旅行なんだからさァ」

 わざと声を大きくして言うと、全く、と声を漏らしたカクがふいと顔を逸らす。

「もう島に着くことじゃし、船室に戻るとするか」
「あ、そうしよう。飲み物と、島の地図か何かも買ってこうぜ」

 おれは酒がいい、なんて言葉を放って、酒はまだいかん、と返したカクの言葉に口を尖らせながら先に歩き出す。
 海の彼方にはもう随分と大きく島が見える。船は一時間もすれば港に入るだろう。
 そろそろ降りる準備をしないとななんてことを考えながら、小売商のいる船倉へ向けて歩き出したおれの後ろで、少し距離をとってから足音がした。小さめのそれは、間違いなくカクの足音だ。

「……調子が狂うわい」

 ぽつりとカクの声でそんな風に紡がれたが、おれは聞こえなかったふりをした。







 辿りついたその島は、秋島らしく紅葉を使った観光を営んでいるらしい場所だった。
 彼方の森も街路樹も、どれもこれもきれいに染まっている。

「見ろよカク、木、まっか!」

 思わず気を指さして傍らを見ると、ははあ、とカクの口から声が漏れた。
 燃えとるようじゃのう、なんて寄越された言葉に頷きつつ、きょろりと周囲を見回す。

「宿屋……どこがいい?」

 旅行客が多いのか、あちこちに看板が見える。
 金は長官が持ってくれるからいくら使ってもいいだろうが、何処が一番都合がいいだろうか。
 そんなことを考えながら視線をカクへと戻すと、おれと同じく宿屋の並ぶあたりを見やったカクが、軽く肩を竦めた。

「どこでも構わん。好きにせい」
「なんだよ」

 まるで興味なさそうな様子に、思わずあきれた声が漏れる。
 おれ達は一応『旅行者』であるはずなのに、まるで旅を楽しむ様子がないのはどういうことだ。
 こいつはこんなことで他の潜入任務ができるんだろうか。
 もし『次の任務』で失敗していたら指さして笑ってやろうと心に決めて、仕方なく適当に宿を選んで指で示す。

「それじゃ、あの店な。二人部屋でいいだろ?」

 言葉を紡ぎながら歩き出すと、カクがおれに合わせて足を動かしながら、船に乗っていた時と同じ怪訝そうな眼差しをこちらへ向けてきた。
 『どうした』と尋ねてくる視線の意味を考えて首を傾げて、それからすぐに何が言いたいのかわかって眉を寄せる。
 確かに、いつもだったら絶対カクと二人部屋なんてとらない。
 けれども今日は『仕事』なんだから、いい加減理解してほしいもんだ。

「一人部屋より都合がいいだろ、色々」

 言葉に意味を含ませて放つと、まァそうじゃな、とカクがしばしの沈黙の後で頷く。
 じゃあ決まりな、と言葉を置いて、おれはカクより先に宿屋へと飛び込んだ。
 宿屋の主人に笑顔を浮かべて、いらっしゃいませを言ってきた相手に挨拶を投げながらカウンターへと近寄る。

「ご旅行ですか?」
「そうなんだ。とりあえず五日くらい滞在したいんだけど、二人部屋って空いてます?」

 尋ねたおれの後ろからカクが同じく宿へと入ってくる気配がして、近寄ってくるカクがおれの連れだと分かったらしい宿屋の主人は、ちらりとその目を手元へ向けてから、はいと一つ頷いた。
 窓があるかを確認してから、すぐにその部屋を押さえてもらう。
 前金と引き替えに差し出された鍵を受けとって、ありがとうと言ってからカクの方へ振り向いた。

「三階だって」
「わかったわい」

 おれの言葉に頷いたカクが、おれより先に歩き出す。
 部屋番号分かるのかよと後ろから笑ってそれを追いかけて、おれもさっさと移動することにした。
 階段は一つ、通路の奥には大きめの窓があって、すぐ隣に生えている樹の紅葉が見える。天井は少し低めで、階段にも通路にも監視電伝虫はいない。
 歩く途中でカクを追い抜き、一番奥の角部屋だったそこの鍵をあけながら窓の外をちらりと見やったおれは、大した高さでもないことを確認してからさっさと部屋へと入った。
 きちんと換気がされている部屋は決して広くないが、まあ別に狭くもない。
 教官に教わり、何度かついて行った『任務』でジャブラ達がやっていたように、自然さを心がけて部屋のあちこちを確認する。

「窓二つだけ?」
「そうじゃ。それにしても、ガラスにワイヤーも入っとらんとは不用心じゃ」

 そんな不満を零すカクに、そこまで求めなくてもいいだろと笑う。
 確かめたところ、部屋にはドアチェーンがなかった。
 鍵は掛かるが、マスターキーを持っているだろう店主なら簡単に開けられるだろうし、おれやカクならあっさりと開けて他の部屋を調べることもできるだろう。
 盗聴電伝虫の類も見当たらないし、監視電伝虫もいない。
 そんなことを確認してから窓の方へと近寄って、改めて周囲を確認した。

「ここ、三階のわりに高くないよな。隣の宿屋、屋根に届くか?」
「どれ。……まァ、わしは届くわい」
「じゃあおれも届くな」
「どうじゃろうか」
「なんだと!」

 わざとらしく肩を竦めた相手に声をあげつつ、あらかた点検を終えたところで先にベッドへと座り込むと、カクがもう片方のベッドへと座り込んだ。
 放った荷物を足蹴にして、ぱたりとベッドへそのまま倒れ込む。
 さかさまになった視界の中で、おれのようにベッドに転がったりはせず、カクの目がこちらを見下ろした。

「能天気な顔じゃ」
「笑顔は基本だろ」

 こちらを見下ろしたカクの言葉に、お前ももっと笑えよ、と船の上で交わしたやりとりを思い出しながら言い返す。
 おれと二人なのが嫌なんだろうが、それにしたってそれを顔に出しすぎだ。
 『仕事』なんだから仕方ないと割り切ってほしいし、おれは今のところイライラしていないから、このままカクがつっかかってこなければ問題ないはずだ。
 これは絶対帰ったらフクロウから言いふらしてもらおう、なんてことを考えたおれの向かいで、やれやれとカクが首を横に振る。

「楽しんどるふりか……教官がおるならやってもいいがのう」

 ため息交じりに落ちたカクの言葉に、一瞬だけ何か不愉快な何かを感じた。

「……ん?」

 声を漏らして起き上がると、どうしたんじゃ、とおれの背中側からカクが声を掛けてくる。
 少しだけ黙り込んで、過った不愉快さがもう見当たらないのを確認してから、なんでもないと声を漏らしたおれはベッドの上でくるりとカクの方へ体を向けた。
 カクの方へ手を出すと、カクが船で買っていたガイドブックを取り出した。
 広げたそれには島の簡易の地図が乗っていて、カクが広げたそれを覗き込む。
 おれ達が今いる西側は観光客向けの店が多いようで、南や北は居住区、東側がまた似たように交易に使う港があるという表記がされている。
 島の中央には森と大きめの公園があるらしい。きっと、この島の紅葉が目的の旅行者はそこに集まるんだろう。

「それじゃ、今日はとりあえず街に出ようぜ。おれは南側で迷ってみるけど」

 言葉と共にカクの手元を指さすと、ふむ、とカクが声を漏らした。

「ナマエが南なら、わしは東地区にでも行くか」

 言われた言葉に、まあいいんじゃねェの、と言葉を零した。
 今はまだ昼下がりだし、行って帰ってくるのはカクの足なら十分できるだろう。おれだってできる。

「あ、月歩と剃は禁止な。そんなのできる旅行者って怪しすぎるだろ」
「わかっとる。ナマエこそ、くれぐれも指銃でチンピラを襲わんようにな」
「襲わねェよ!」

 馬鹿にしたような言葉に声を張り上げると、そこでようやくカクがわはははと笑い声を零した。
 そのことにどうしてだか少しだけほっとして、でもどうしてほっとしたのかは分からなかった。









 とりあえず、おれ達はその島で三日を過ごした。
 ほとんど別行動で探索して、同じ宿に戻って結果を報告し合う。
 その結果として分かったことは、いくつかあった。
 その中でも一番重要だと思われるのは、この島には旅行者が大勢いて、ちらほら『いつの間にか』帰ってしまった奴がいるということだ。
 本当に帰っているのか、それとも攫われているのかどうかは分からない。
 いなくなっているのは、ほとんどが一人旅の連中ばかりのようだ。
 これはどちらかというと『一人旅の旅行者』として潜入したほうが良かったんじゃないかとおれとカクは顔を見合わせたが、しかし今さらそんなことを言っても仕方ないので、一人旅の連中にも目を配りながら更にあちこちを調べることにした。
 そうして、おれが見つけた『怪しい奴』を見るために、今日も朝の混雑を避けた時間帯に南地区の市場へ向かう。
 旅行者をもてなすことを目的とした西地区からはだいぶ離れているが、もともと島に暮らしている人数もそれなりで、かつ旅行者がこちらへ足を伸ばしてくることも多いのか、市場は混雑する時間帯を避けてもまあまあの賑わいだった。

「こんにちは、お姉さん」

 石畳を踏みつけてあちこちを確認しながら、たどり着いた店を覗き込んで声を掛ける。
 おれのそれに気付いてこちらを見やった店主が、朗らかに微笑んだ。

「あらナマエちゃん、いらっしゃい」

 また来てくれたのかい、と言葉を寄越す店主は女性で、取り扱っている店の果物の甘い匂いがその場に満ちている。
 奥の方で作業している男がちらりとこちらを見て、それから店主がおれの方へ近寄ってくるのに合わせてその目を逸らした。

「ここのリンゴ、美味しいかったからさァ」

 また食べたくて、と言葉を放ったおれに対して、そいつは嬉しいねェと笑った店主がリンゴを一つ掴まえる。
 丁寧に磨いたそれを差し出されて、ベリー硬貨と引き換えにそれを受けとった。
 光沢を宿した赤い皮からはふんわりと甘い匂いが漂っていて、みずみずしさのあるそれを深く吸い込む。
 微笑みを意識して視線を戻し、おれは店主へありがとうを口にした。

「ねェ、今日はどこか面白いことやってるところない?」
「面白いこと? そうだねえ……」

 おれの問いかけに、相手が軽く首を傾げる。
 うーんと唸る彼女を見つめているうちに、じとり、と誰かがこちらを見ているのが感じられた。
 視線の主は分かっている。奥の方で作業をしている男だ。
 最初は自分の女に近付く男に対するイラ立ちなのかと思ったが、品定めするかのような視線はまるでそれとは違う。
 怪しい奴がいなかったかというカクとの話し合いでこの店の男のことを口に出したのは、昨日の夜だった。
 覗き見てみると所作が荒っぽいし、暗がりにいるから分かりにくいが海の上にいる人間と同じく日に焼けた肌をしている。
 わずかに捲れた袖口からちらりと見えた傷跡は、一般人が持つにはあまりふさわしくない派手なものだった。
 昨日他の店を覗きながらできるだけ自然に調べたところ、彼は店主の身内で、よく店主に行き先も告げずにふらりと姿を消すらしい。
 これはもしや、と考えてはいるものの、近寄ってこないので尻尾を掴むのが難しい。

「そうだ、中央公園に行ってごらんよ」

 やがてこちらへ向けて言葉を落としてきた相手に、おれは意識を引き戻した。
 おれを見やって微笑んでいる店主が、軽く両手を合わせて見せる。

「今日は朝から何かやってるらしいからね、ナマエちゃんも楽しめると思うよ」

 旅行者向けの催しをやっているのか。
 人が多そうだと把握して、軽く頷く。

「わかった、楽しんでくる。ありがと!」

 明るく見える笑顔を顔に浮かべてから、これ以上店にいる理由を失ったおれは店先を離れた。
 気を付けて行っておいで、とまるでおれの家族のような言葉を放って手を振ってきた店主へ、同じように手を振り返す。
 見送られている視線を感じながら背中を向けて、おれはリンゴをもてあそぶように軽く爪を立てながら中央公園へと向かう道を歩いた。
 大勢の人の間をすり抜けるようにして道を歩いて、たどり着いたところに見慣れた背中を発見する。
 リンゴ片手に近付き飛びついてみると、すぐさまこちらを投げ飛ばそうと伸びてきた手がぴたりと止まって、その代わりのようにポンと頭が叩かれた。

「なんじゃい、驚かせよって」
「修行が足りねえな。ほら、リンゴ」

 寄越された言葉に笑いながら手元のリンゴを差し出すと、おれの頭を掴んだカクがおれを自分から引き剥がす。
 その手がその帰りにリンゴを掴まえて、おれが爪を立てたあたりに視線が寄越され、すぐにその部分を隠すように持ち直した。
 そして逆の手に持っていた食べ物をおれの方へ寄越したので、おれはありがたくそれを受けとった。
 多分広場で買ったんだろうホットドッグは、ピクルスもケチャップもマスタードもたっぷりだ。
 新聞でそのまま包まれているそれに口を寄せつつ、いくつかの文字に刻まれた印を確認した。

「昨日もこれじゃったのう」
「そっちだって同じとこのだろ」

 もぐもぐと口を動かしながら言うと、またため息を零したカクがリンゴを齧る。
 やっぱり果物屋の男が怪しい、と記したおれの文字はまだカクがしっかりとその手で隠しているままだ。
 同じようにカクが記した北地区の怪しい情報をぐしゃりと掴み潰すようにして、味覚を破壊しそうなくらいのケチャップとマスタードに眉を寄せながら、とりあえずそのまま口を動かして周囲を見やる。
 果物屋の彼女が言っていたとおり、公園の中央では何か催しが行われているようだった。
 旅行客はそちらに夢中で、とても楽しそうだ。
 はしゃぎ方を目で確認し、おれはそのまま視線を動かしていって隣を見やった。

「そっち、この後どうする?」
「ナマエはどうするんじゃ」
「『港』でも見てこようかな」

 西地区に、怪しい船は見当たらなかった。客船に商船、漁に出る船はあったが、一日動かない船なんてほんの一握りだ。
 カクの調べた限り、東にも怪しい船は見当たらなかったらしい。
 この島は北と南が絶壁だが、そうなると、どこかに船を隠している可能性が高いだろう。
 島の外周を回って確認するのは骨だが、まあ仕方ない。
 おれの言葉に、リンゴから口を離したカクが、ふむ、と声を漏らした。

「なら、ナマエは北を回れば良かろう」
「ん? 南に行くってことか?」
「そうじゃ」

 おれの言葉に、こくりとカクが頷く。
 『地区』をつけなかったということは、おれが『港』を探すことに異論はないということか。
 どうやら、カクも同じく船を探すつもりらしい。
 わざわざ南を担当したいというのは、三日も通えばそれとなく顔を知られるようになるから、途中で住宅街に入り込む可能性を考えると、殆ど足を踏み入れていないおれが北側へ行った方が都合がいいということだ。逆も提案されている。
 協力的なカクに思わず笑みが零れると、おれを見下ろしたカクもその口に笑みを浮かべた。
 カクのその手が音を立ててリンゴを割り、自分がかじっていない方をおれの口へと突っ込む。

「んぐ」
「一個は多いわい」

 マスタードとケチャップとそれ以外に支配されていた口に、さわやかな酸味と甘さが広がる。
 とんでもない不協和音に眉を寄せると、わはははとカクが笑った。
 それを睨み付けて、手元のホットドッグの残りをそのままカクの口へと突っ込む。
 リンゴに片手を添えながら、ぐしゃりと包み紙を潰した。中に零れていたケチャップやマスタードが包みに記されていた印を汚してしまったので、もはやもう一度内容を確認することは不可能だ。
 きちんと証拠隠滅したことを確認し、口の中身を飲み込んでから非難がましく傍らの同僚を見やった。

「なんてことするんだよ、すげェ味になったじゃねェか」

 甘いんだかすっぱいんだか、しょっぱいんだかからいんだかも分からない味だ。
 とりあえずリンゴで上書きしようとさらに一口を噛みしめると、おれが押し込んだホットドッグをきちんと咀嚼して飲み込んだらしいカクが、零れて口の端についたケチャップを手でこすり落とした。
 丸い目がこちらを見やって、なんてことするんだはわしのほうじゃ、とその口が言葉を零す。

「無理やり人の口に入れる奴がおるか。見ろ、汚れてしまったわい」

 ぷんぷんと怒ったような声が漏れているが、まるで怒っている気配がない。
 そのことに気が付いて、あれ、と目を丸くした。
 いつもだったなら、こんな簡単なやりとりから口論が始まるし、手や足が出る。
 今は潜入中なんだからそこまで発展しないのは当然だが、三日前までとは随分な違いだ。
 そういえば昨日もあまり怒らなくなっていたなと考え到ったおれを見て、なんじゃ、とカクが怪訝そうな声を出した。

「いや……なんか大人しいな? 今日」

 いつもだったらもっと怒るだろ、と告げながらポケットから取り出したハンカチを差し出すと、受けとったカクが遠慮なく汚れたところをそれで拭いた。
 白っぽいハンカチに血がにじんだような様子になったが、どうせ捨てるから問題ない。

「どっかの誰かさんも大人しゅうしとるからのう」

 しみじみそんな言葉を口にして、カクはその口元をにやりと笑みの形にした。
 見慣れた顔の筈なのに、まるで見慣れない顔を向けられた気がする。
 どうしてだと考えたおれの様子を無視して、カクが口を動かした。

「我慢を覚えたとは知らんかったわい」

 子供も成長するもんじゃな、とまるで人をガキ扱いするような発言に、眉間の皺が深くなったのを感じる。

「……カクのばーか」
「なんじゃ、ガキのような口を叩きよって」

 相手を罵ると、カクの方からあきれた声が漏れた。
 それを無視して、手元のリンゴをさっさと片付ける。
 自分が記した傷をしゃくしゃくと歯を立てて噛みしめながら、やれやれと息を吐いた。

「あと二日かァ。思い出作りに、今日は夜も出かけようぜ」

 もともとこの島へ来てからずっと夜も活動しているが、残りの時間は短くなってしまった。そろそろ大っぴらに『外出』したいところだ。
 おれとしてはあの怪しい男をもう少し調べたいし、カクも自分が睨んでいる箇所があるだろう。
 おれの発言に、そうじゃなとカクが頷く。
 詳しいことは宿に帰ってから決めようぜと言葉を置いて、おれとカクはお互いの手にあるものを片付けてその場を後にした。







 港から回り込むようにして島の北側を散策してみたが、絶壁には裂け目すらも存在していなかった。
 怪しい船なんて見当たらないし、むしろ岩場が多くて島へ船を近づけることすら不可能だ。
 少し住宅街も歩いてみたが、やっぱり新たな発見はない。
 こうなると、一見怪しくなかった港の商船や客船が怪しいということになる。
 判断を間違えたかな、と首を傾げながらおれが北地区から西地区へと戻った時、あたりはすっかり夕暮れ時だった。
 もうじき日が落ちるだろう。
 見やった宿屋の三階の窓はカーテンが両方閉じていて、まだカクが戻っていないということを確認する。
 先に戻っても問題ないが、少しだけ考えてから、おれはそのまま宿屋の前を通り過ぎた。
 どうせ後で見て回るが、もう一度あの店の周りを確認しようと思ったからだ。日のあるうちの方が明るくて、周囲を確認しやすい。
 少し速足で南地区へと向かって、石畳に伸びる自分の影を見やったところで、ふとふわりと甘い匂いがした。
 気付いて視線を向ければ、おれの目当ての店の主人が、ちょうど店じまいをしているところだった。
 あの怪しい男はいなくて、手を動かしているのは女主人だけだ。

「こんばんはー、もしかして、もう閉まっちゃう?」

 様子を確認したくて駆け寄りながら声を掛けると、あら、と声を漏らした彼女が手を止めた。

「ナマエちゃん、また来てくれたの?」

 どことなく嬉しそうな顔をした相手へ微笑み頷いて、おれは口を動かす。

「あと二日で、ここのリンゴも食べられなくなっちゃうからさ」

 リンゴ一個くださいな、とベリー硬貨をつまむと、おやまあ、と声を漏らした店主が少しばかり眉を下げた。

「あとたった二日で帰っちまうのかい?」
「うん、そうなんだ」

 寄越された言葉にこくりと頷くと、そうなのかいと呟いた店主が何かを考えるように視線を動かした。
 その様子になんとなく違和感を覚えたおれを放っておいて、ぽん、と彼女の手が合わせられる。

「それじゃあ、今日はとっておきをあげようじゃないか」
「とっておき?」

 言葉と共に片付けもそのままに店内へと入って行った彼女に、おれは戸惑いの声を投げた。
 おいでおいでと手招きされて、ひとまずはそれに従う。
 店の奥にもあの男は見当たらず、出かけているらしいということは分かった。昼間から見張っていたほうが良かったかもしれない。
 初めて踏み入れた店の奥で、あちこちから香る果物の匂いを吸い込んだおれに背中を向けていた彼女が、両手に物を持ってくるりと振り返る。

「ほら、これだよ」

 言葉と共に差し出された右手にあったのは、真っ赤なリンゴだった。
 今日と昨日買ったものよりもずいぶんと毒々しい赤だ。
 みずみずしく艶を零すそれを見て目を瞬かせてから、困った顔を作る。

「なんだか、すごく高そうじゃない?」

 そんな高いの買えないよ、と言外に伝えると、お代はいらないよと優しげに笑った店主が左手に持っていたナイフをリンゴに添えた。

「うちのリンゴが好きだって言ってくれたナマエちゃんにサービスさ。特に甘くておいしい品種なんだよ」
「ええ? でも……」
「いいじゃないか、食べとくれよ」

 人の良い店主の言葉に、困惑を顔に張り付けたままでベリー硬貨をしまいながら頷く。
 どう見ても高いものなのに、それを惜しげもなくたった二回買い物しただけの客に振る舞おうとするなんて、とんだお人よしだ。
 そんなことを考えたが、それと同時に果物達の匂いの合間に紛れた独特の香りに気付いて、おや、と眉を動かした。
 店主は気にした様子もなく手を動かして、剥き終えたリンゴを食べやすい大きさに切りとる。

「ほら、どうぞ」

 微笑んだまま差し出されたそれを受けとると、みずみずしいリンゴの果汁がおれの指を濡らした。
 口元へと近付ければ、芳醇な香りが鼻を刺激する。
 そして、先ほどと同じ匂いが、先ほどよりも強く鼻へと届いた。
 それはとてもとてもわずかな匂いだが、『おれ達』がよく知る匂いだ。
「……すごくいい匂いだね」

 微笑んで言うと、まだいくつかのリンゴを刻みながら、そうだろ、と主人が微笑んだ。
 温和な女性の微笑みの筈だが、ここに来てようやく違和感の正体に気付く。
 あの怪しい男と同じ目で、彼女はおれを見ている。

「それじゃ、遠慮なくいただきます」

 リンゴを放り出したい気持ちを押さえて片手を動かし、しゃくりとリンゴを噛みしめた。
 ナイフに仕込んであったのか、はたまた片手に塗り付けてあったのか、リンゴの表面には本当にごくわずかな苦みがあって、それを甘いリンゴの味が押し隠す。
 耐性の無い一般人なら、この一切れで十分昏倒できる薬だ。

「…………あ」

 だからこそ、おれはひとまず自然な動作で足から力を抜き、ばたりとその場に倒れ込んだ。







 ずるずると、体が引きずられる。
 気絶したふりをしての二十四分、おれの空間認識能力に狂いがなければ、おれが運び込まれて今引きずられているのはあの店の『地下』だった。
 通路は長く、ちらりと一度だけ目を開けて見やった天井は西地区へ向けて湾曲していた。
 空気に潮の匂いが入り混じったので、出口の方は海に通じているのかもしれない。
 そうだとすれば、西地区の港のどこかに通じているんだろう。
 通路に気付けなかった事実に少しばかり歯噛みしたが、どうしようもない。カクに知られる前に抜け出したいところだ。
 ずるりとさらに引きずられて、足を主軸に振り回すように放られ、おれはどすりと何か柔らかいものにぶつかった。

「い……っ」

 衝撃に思わず声を漏らしてしまい、仕方なく目を開ける。
 おれの様子に気付いた女が、おや、と声を漏らした。

「起きたのかい、薬、足りなかったかねェ?」

 大体もう少しは寝てるんだけど、と言葉を続ける女に、意識してぼんやりした目を向ける。
 近寄ってきた彼女の少し荒れた手がおれの顔を掴み、こちらを覗き込んだ相手がその視線を側へ向けた。

「ねェ、ちょっと。そっちの処理が終わったらでいいから、こっちもやりなよ」

 放たれた言葉に、おれは視線だけを彼女と同じほうへと向けた。
 そこにはあの怪しい男が立っていて、その目がちらりと店主と、それからおれを見る。
 手足はそのままにしようだとか、奴隷市に間に合わさなけりゃだとか、反吐が出る言葉がおれをよそに交わされた。
 何人かの名前が女の口から飛び出したから、仲間は他にもいるようだ。
 見回した室内は静かな石造りで、男の向こうにも通路が見える。
 おれの顔に触れていた女の手がおれから離れ、押しやられたおれの体は真後ろのものへとどすりとぶつかった。
 先ほども触れた柔らかいものだと気付いて少しだけ身を捩ると、おれの目に金髪が飛び込んだ。
 驚いてわずかに目を見開いてしまったのはおれのクッションになっていたのが人間だったことではなく、よく知っている顔だったからだ。
 頬を石でできた床に押し付け、静かに目を閉じている相手はカクだった。
 胸は上下しているから、呼吸はしている。

「この間はあまり出来が良くなかったみたいだから、今回の二人で許してもらえるように、ちゃんと処理しとくれよ」

 言葉を投げた彼女へ男が頷いたのか、女はそこでようやく納得したように息を吐いた。
 それからその手が前掛けのポケットへと入り込み、取り出した小瓶をかちゃりと開ける。
 ふわりと漂うそれの匂いは先ほどリンゴについていたのと同じで、粉薬であるそれに指を突っ込んだ彼女は、無遠慮におれの口へとその指を突っ込んだ。
 ぐりぐりと口の中を掻きまわされて、舌で唾液に溶けた薬がそれ以上奥へ行かないようにしながら、誤魔化すように喉を鳴らす。
 おれが薬を飲んだと思ったのか、満足げな顔をした彼女がおれから手を離し、その指をおれの服へと擦りつけた。ずるりと体を滑らせたおれがその場に横倒しになるのを一瞥してから、その目がすぐに逸らされる。
 それからくるりと背中を向けて、来た道を歩いて戻っていく。
 開いたままだった通路の扉が閉ざされて、ガチャンと鍵の音もした。
 数秒を置いて、男がこちらを向いていないことを確認してから自分の服に口を押し付けたおれは、ひとまず含まされた薬をできるだけそこへ吐き出した。
 少し混ぜ物はされているようだが、さすがにこのまま飲み込んでは『ふり』が『ふり』じゃなくなってしまう。
 それから、がちゃがちゃと物音を立てて何かを用意している男の様子に気を配りつつ、片手をそっと傍らのカクの腕へと重ねた。
 触れた体がぴくりとわずかに動いたので、カクもどうやらちゃんと起きているらしい。

『バカ』

 指先で言葉を書き殴ると、すぐに動いた指がおれの体へと返事を寄越してきた。
 お前もだろうと罵る意味の文章に、相手もちゃんと状況を理解できているらしいと認識して眼を閉じる。
 状況からして、おれ達はそれぞれが捕まってしまったらしい。
 おれが捕まったのはあの女店主に近付きすぎたせいだろうが、カクはどうして捕まったんだろうか。何かへまをしたのかもしれない。
 あの女店主は変態野郎の仲間で、おれが睨んでいた怪しい男ともども下っ端の立場ということか。
 このまま大人しくしていれば、『処理』とやらをされた後に連れて行かれるのは間違いない。
 大抵の拷問や暴力には耐えられるように訓練を受けているおれ達なら、このままじっとしているのが一番だ。
 手足はそのままにしておくと言っていたし、とそんなことを考えたおれの耳に、こちらを向いた足音が届く。
 気配を探ると、近寄ってきたらしい男が、並んで転がるおれとカクを見下ろしたようだった。
 何かを考えるように数秒を置き、それから動いた男の掌が、がしりとおれの服を掴んで持ち上げる。

「……うぅ、ん……?」

 どうやらおれから『処理』することにしたらしい、と気付いたところで、どうしてかおれのすぐ横から声が漏れた。
 びくりと男の腕が震え、おれの服を手放す。
 結果としておれの体はまた床の上へ倒れ込んだが、今度は声を漏らす失敗はしなかった。
 倒れた向きが悪くて様子を窺うことしかできないが、まるで今目覚めた風を装ってカクが起きたのが、気配で分かる。

「なん、じゃ、きさま」

 薬が回った演技をしている様子の言葉遣いはたどたどしく、身じろいだカクに舌打ちをした男が、おれに先ほどしたようにカクの体を持ち上げた。
 そのままカクが引きずられていって、先ほど用意していたんだろう何かが軋む音がする。

「なに、この、やめ、んう……っ!」

 カクの拙い抵抗が封じられたらしく、口に布でも詰められたのか声がくぐもった。
 どうやら、起きてしまったカクから『処理』とやらをするようだ。
 何をされるのかは分からないが、殺されはしないだろう。
 おれがやるべきことはここで大人しくしていることだということは、今まで受けた教育でしっかりとわかっている。
 けれども、バクバクと心臓が跳ねるのを抑えるのは難しかった。
 なんでと、そんな言葉がぐるりとおれの頭の中を回る。
 おれが先に選ばれたんだから、カクは大人しくしていれば良かったはずだ。
 じっとしていたということはカクだって逃げるつもりはなかったということで、お互いの結論が同じなんだから何が聞こえようとも静かにしていれば良かった。
 だというのにわざわざ起きた演技までして、一体カクは何がしたかったのか。
 まるで、おれを庇おうとしたみたいだ。

「…………」

 ガタ、ガタガタと続く物音に目を開いて、ゆっくりと起き上がる。
 先ほど薬のついた指でかきまわされた口の中は少ししびれていて、零れた唾液を片手でぬぐった。
 おれに背中を向けた男は、どうやら先ほど用意したらしい台にカクを組み敷いている。
 何をするつもりか知らないが、体の自由が利かないという『演技』をしているカクの足を男の手が押さえつけているのを見たら、もう駄目だった。







「やりすぎじゃ」

 カクが声を掛けながらおれの腕を掴んで、ぐいと後ろに引っ張る。
 それで我に返り、おれは自分の足元を見下ろした。
 怪我だらけの男が、先ほど物音に気付いて慌てて降りてきた女と重なり合うようにして倒れ込んでいる。
 二人して身動きをほとんどしないのは、やってきた女から奪い取ったあの薬を、二人の口へと突っ込んだからだ。
 おれのように吐き出すことすら考えなかったらしい連中はすっかり薬にやられてしまっていて、体中に力が入らないらしい。そうでなくても、足が折れていては歩けないだろう。
 どちらもなかなかにひどい怪我をしているが、やったのは自分だということもちゃんと覚えている。

「……生きてるから、大丈夫だろ」

 掴まれていた腕を引き、カクの手を振り払うようにしてから拳を上着にこすりつける。
 おれの言葉にため息を零して、カクが自分のポケットを探る。
 そうして掴みだした小さな電伝虫に、おれは自分もそれを持っていたことを思い出した。
 しかしおれが掴みだす前に、カクの手が電伝虫のスイッチを押して、またそれを片付ける。

「作戦変更じゃ」

 言葉を零し、カクが肩を竦めた。
 十分したら出るぞ、と告げた言葉と共におれが来たのとは別の通路を指さされて、暗がりしかないそちらを見やる。

「何処に続いてるんだ?」
「港じゃ。西地区の、のう」

 寄越された言葉は予想の通りで、なるほどと頷いたおれは少し気まずくなって視線をカクへと戻した。
 おれのそれを見返して、全く、とカクが長い鼻を軽く逸らす。

「手間のかかる『弟分』じゃわい」
「……見逃して悪かったな」
「そこもそうじゃが、それ以外の話じゃ」

 言葉と共にその手が自分の服を合わせ直す。
 おれが真後ろから殴り掛かった時に男が顔をぶつけたあたりには少しばかり血がついていて、汚いから脱げと言って引っ張ってやりたいのを我慢した。
 衣類の乱れを直したカクは、しびれて動けない男を軽く蹴とばした。

「わしのことは放っておけば良かったじゃろうに」

 長官にも言われただろうというその発言に、むっと眉間の皺を深くする。
 殆ど条件反射で振るったおれの拳を、まるで分かっていたかのようにカクが受け流した。
 よけられた拳が壁にめり込み、ひどい音をしながらヒビが入る。
 何を怒っとるんじゃと声を落とされて、そりゃあ怒るだろ、と腕を引きながら言い返した。

「お前だって、放っておかなかったくせに」

 ひどい目に遭いたかったわけじゃないが、あの時のカクの最良の選択は、おれが何をされても無視しているということだ。
 殺されないらしいということは分かっていたし、長官は『大人しく攫われてアジトを見つけ出せ』と言っていたのだから、それに越したことはない。
 そうだ。カクだって同じことをした。
 おれの言葉に、ふむ、と声を漏らしたカクが片手を自分の顎に添える。
 それから数拍を置いて、予想通りに素早く放たれたその蹴りを、おれは真後ろに飛びのくことで避けた。
 生まれた風圧が室内のカンテラを揺らして、ゆらゆらと灯りが揺らぐ。

「何するんだよ」
「なんとなく腹が立ったわい」
「おれだって同じだっての」

 言い合って、お互いに相手の顔を睨み付ける。
 数秒を置き、やがて仕方なく目を逸らしてから、おれは足元に転がったままの二人を見やった。

「とりあえずこいつらは連れて帰って、あとはスパンダイン長官に任せるか」
「この場合はスパンダム主官殿に任せた方が良いんじゃないかのう」
「それって、結局長官に行くんだろ」
「それもそうじゃな」

 主犯がどこの誰かはまだ分からないが、連れて帰って吐かせればいいだろう。
 そろそろ時間だと告げたカクの手が男の足を掴んで引きずり出し、女の腕を掴んだおれもそれに続く。
 通路は確かに夜闇に沈む港に続いていて、ゆったりと近寄ってきた客船から降りてきたCP5の人間達が、おれ達の連れてきた二人をすぐさま確保した。







 おれ達の任務は、大成功とは言わないまでも、まあ少しは成功したと評価してもらえる結果で終わった。
 あの二人は無事、主犯の居場所を吐いたらしい。海軍が大捕物をしたという話だが、おれ達には関係ないことだ。
 おれとカクには日常が戻り、相変わらずエニエス・ロビーで顔を合わせては喧嘩をしている。
 いつも通りだと思っていたのに、数日経った頃、カリファに呼び止められてしまった。

「貴方達、少し変よ」
「え?」

 正面からきっぱりと寄越された言葉に、戸惑って瞳を揺らす。
 おれのそれを見て、自分でもわかっているでしょう、とカリファが眉を寄せたままで言い放った。
 回答を求めるそれは、まるで教官みたいだ。

「喧嘩の回数、増えたわね?」
「あー……うん、まあ。この間まで任務で喧嘩できなかったから、鬱憤がたまってんのかな」

 言われてみれば確かに、前よりおれがカクにつっかかったり、カクからおれにつっかかる回数が増えた気がする。
 顔を見るたび、あの日のカクのことを思い出して、なんだかイラ立つからだ。
 今までのイライラをもっと強くした、もやもやとしたそれはとても不愉快で、裏通りで喧嘩を売ってくるチンピラよりもひどい因縁をつけたりもするのだが、カクもそれを買うんだから同じようにイライラしているに違いない。

「それにしても多すぎだわ」

 ため息を零したカリファの目が、じっとおれの顔を覗き込む。

「私は、貴方達が仲良く笑顔でいてくれる方が好きよ」

 赤い唇が言葉を紡ぎ、それを耳にしたおれの頭にふと浮かんだのは、あの島でカクと過ごした三日間だった。
 島に行ったのはおれとカクの二人だけだったから、カクがおれから誰かをとることなんてなくて、ほとんどイライラしなかった。最後はああなったけど、ただの旅行客のふりをしている間は楽しかった。
 だって誰にも、カクをとられなかったんだ。
「……ん?」

 おかしな考えに至ったのに気付いて声を漏らしたおれの向かいで、どうしたの、とカリファが声を掛けてくる。
 それを聞きながら胸元に手をやって、おれは眉間に皺を寄せた。
 カクを見たときに浮かぶのによく似たもやもやとした感覚が、胸のうちにある。
 けれどもおれの目の前にはカリファしかいないし、カリファにイラ立ったことなんて一度だってなかった。
 今だってきっと、カリファが原因じゃない。

「…………カクのこと考えると、すごくイライラする」

 自分の考えを整理するように言葉を吐きだして、おれはカリファへ視線を戻した。

「あいつがおれを庇ったのも、あいつがおれじゃなくてルッチ達と話をするのも、すごくイライラするんだ」

 まるで教官みたいな顔をする彼女を見つめて呟くと、なんだか泣きたくなってしまった。

「……おれ、病気かな?」

 持病なんてものが発覚してしまったら、CP9じゃいられない。
 もしかしたら他の部署へ移されるだけかもしれないが、しかしそれでは、もうカクに近付くことすらできない気がした。
 恐ろしくなってしまったおれを見て、どうしてか目を丸くしたカリファが、それからやがてその顔を緩める。
 人を安心させるような笑みのまま、おれより少しだけ年上の彼女の手がそっとおれの頭を撫でて、大丈夫よ、とその口が言葉を紡いだ。

「そのうち原因が分かるわ」

 優しく寄越された言葉に、ぱちりと瞬きをする。
 まるでおれのこの症状の理由を知ってでもいるような相手に、それを問おうとしたおれが口を動かす前に、真後ろから足音が響いた。
 わざとらしく存在を示すそれが誰のものなのか気付いて、慌てて振り返る。

「ナマエ、その顔を貸すんじゃ」

 振り向いた先にはどうしてか怒った顔のカクがいて、言葉と共にとびかかってきた相手に、慌てて横へと飛びのいた。
 開いていた窓を通り抜けて中庭へと落下すれば、追いかけてきたカクが追撃を放ってくる。

「何するんだよ、馬鹿カク!」
「うるさいわ、馬鹿ナマエ!」

 相手の攻撃をいなし、大地に背中をつけることなく着地して罵れば、カクが同じように罵り文句を口にした。
 カクがこちらを睨み付けているのを見ると少しだけほっとするのがどうしてか、考えようとしたけどやり合っていては考えがまとまらなかった。
 今日もいつも通りそのまま喧嘩に発展して、中庭をいくらかひどいことにしたところで降りてきたカリファがおれ達を仲裁する。

「この……カクのばーか!」
「うるさいわい、相変わらずガキのような口を叩きよって!」

 引き離されても口で言い合って、お互いに相手を睨み付けた。
 やっぱり、おれとカクは、とても仲が悪いのだ。


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