※女体化です




















夏。太陽が輝き、蝉が騒めく季節。
夏。女の子が薄着になる季節。





「…あっつい」


じりじりと蝉の声が絶えない放課後。教室にはもったりと水分を含み重たい空気が漂っている。べったりとはりつく空気は、ただでさえ汗のにじみ出る暑さに拍車をかけた。

そんな中、目の前の席に行儀悪く横向きに腰掛けた泉は、あたかも当然のように白いポロシャツをぱたぱたと扇いでいる。空気を通すように扇ぐその姿には同感を覚えるのだけれど、しっかりと握られせわしなくはためく裾に、問題はあった。


「泉ぃ、おへそ見えてるんだけど…」


白いポロシャツの裾からちらちらと覗く、ポロシャツに負けず劣らず白い肌。乳白色の大理石を思わせるそれは、暑さでとろけた頭でも赤信号だとわかるほどには扇情的だった。

それなのに目の前の張本人は白々しく一瞥を寄越すだけで、


「だから?」
「だからって…もう少し気を付けてよ」
「はぁ?」


お前何バカなこと言ってんの?とでも続きそうな眼で見られてしまえば、ため息をつくほかなかった。

ただでさえ薄着のこの季節は、白いポロシャツをうっすら透かす下着の存在に気が気でない。大きく開いた胸元からいつ見えてしまうかも心配だ。普段だったらそんな棚ぼた的偶然に感謝を覚えるけれど、そのぼた餅を落とすのが自分の彼女かと思えば、気が気でなくなるのも無理ない話だろう。
しかしそんなことは露知らず、かわいいかわいい恋人は相も変わらずぱたぱたとポロシャツの裾をはためかせていた。

そもそも泉は体温の調整が苦手なのか、暑さにも寒さにも弱い。今はこんなに暑がっているが、秋の終わりになれば寒い寒いと口を開くたびに訴える。まるで子ども体温だ。それを本人に言えばまたへそを曲げて取りつく島もなくなってしまうから言わないけれど。


「あーもーほんっと暑い、まじ暑い、どうにかして、浜田」
「いや、そんな無茶な…」
「ほんっと役に立たないな」
「すいません…」


つと首筋に汗を滴らせる泉は、機嫌悪そうに唇を尖らせた。そうされたところで、自分になにができるわけではなかったが。

突然、泉が振り向き、期待に満ちた大きな黒く光る瞳が真っ直ぐに見つめてきた。


「アイス食べよう!」
「え?」
「アイス!ほら、売店!」


どうせ財布は俺のでしょ、と思いつつも、許してしまう自分が情けないやら何やらで、ため息が漏れた。女の子は甘やかしてなんぼだと思っている俺のポリシーは最近、批判されてばかりだ。泉だとついつい何でも許してしまう溺愛っぷりに、去年のクラスメイトは呆れて何も言わなくなった。

そんな俺の心境なんて目もくれず、ぴょいと泉が椅子を跳び降りた。ひらりと揺れるプリーツの裾。そこから覗く、焼けていない白い肌。揺れた余韻が残したのは、コットンのかわいい淡い花柄。突然の出来事に、事態を理解するまでにかなりの時間を費やしてしまった。飲み下した事実はあまりに過激で扇情的で、かっと耳まで熱くなってしまう。思わず背けた顔はきっと赤く染まっているだろう。

薄くなるのは何も上半身だけではないのだ。夏服のスカートというのは、冬服のそれに比べて格段に薄くなる。日の光が差せば、腿のシルエットが見えてしまうくらいだ。そしてそれは心なしか冬服より膝上の露出を促し、さらには軽くなったことで際どい部分やあまつさえは禁断の花園まで覗かせることもあるほどだ。泉のすらりと伸びるきれいな脚が頻繁に見られるのはありがたいが、それが公にさらされているとなると心境は複雑だ。

風を含むプリーツは相変わらずひらひらと戯れるように目の前をちらついている。控えめチェックの深緑と、焼けていない白い腿のコントラストが眩しい。うっと思わず息が詰まった。


「何やってんの?早く売店行こうよ」
「はぁ…泉さぁ、少しは俺の気持ちも考えてくれないかな…」
「はぁ?何それ。…自分で買えって意味」
「いや、そうじゃなくてさ…」
「じゃあ一体何」


曖昧な俺の態度に痺れを切らしたのか、はたまた己の日々の行いを振り返ってのことなのか、泉はすねたように唇を尖らせた。怒ったような表情を見せながら、不安げな色をのぞかせているのがいじらしい。ほんのり染まった頬がそのいじらしさを際立たせていた。

ぽんと、ふわりと揺れる黒髪のてっぺんに手を載せた。ゆっくりと、揺れる瞳が顔色を窺う。先ほどの大きな口先とは裏腹に、その視線は頼りなかった。


「あのね、あんまりにも泉がかわいくてどうにかしちゃいそうだから、もう少し気を付けてって意味」
「は…?どうにかって?」
「手ぇ出しちゃいそうってこと」


そう言ってちゅっと額にキスを落とすと、泉は面白いくらいに赤くなった。


「なっ、ばっ、なんっ…?!」


ばっと離れた泉は真っ赤になった顔で、必死に額を両手で押さえている。大きな目は見開かれてまんまるだ。小さな唇がぱくぱく泳いで、言葉を発せていない。思わず噴き出すと、さらに顔を赤くした。


「っ浜田のバカっ!」


くるりと背を向けて早足になる背中を追い掛ける。廊下を蹴る上履きが盛大に音を立てているのも、気になっていないようだ。


「いーずみ、1人で行ってもアイス買えないよー」


だって泉は財布すら手に持っていないから。そう軽くからかってみても、真っ赤な鼻先がこちらにむくことはなく、


「そんなことわかってる!バカ浜田!」


つまりは、その早足もただの照れ隠しなわけで。こんなにも本心が溢れだしているというのに、どこまでも天の邪鬼。自分にだけ見せる泉のその姿が、いとおしかった。

短いプリーツの裾は相変わらずふわふわと揺れて白い肌をちらつかせているけれど、こんなにかわいい泉が見られるなら、もうしばらくは清純な男でいてやろうと思った。


短いスカートに恋をして



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