コンビニへ向かう道すがら、前を歩く通行人が落とした手拭いを拾い上げた詩乃は、慌てた様子で駆け出しながら口を開いた。

「あの、すみません」
「はい?」

 振り向いた落とし主が指名手配犯の桂小太郎である事に気付いた詩乃は、警戒心を露わにしながら口をつぐんだ。落としましたよ、と目を逸らしながら手拭いを差し出す詩乃。一方、若くありながら未亡人のような色気を醸し出す詩乃に一目惚れした桂は、どさくさ紛れに彼女の手を握り締めつつ手拭いを受け取った。

「かたじけない。いかん、その辺にもう一つ落とし物をしてしまったみたいだ」
「もう一つ?」
「ああ、俺の恋心なんだが」
「私は見かけてないですけど、ちょっと警察に問い合わせてみますね」
「おのれ、謀ったな」
「何の事ですか?」
「その色香で俺を惑わせただろう」
「勝手に惑ったのはそちらさんですよね」
「ああ、正直抱きたいとさえ思ったね。……おっと、そろそろ行かなくては。お前さんの恋心、俺以外の男の前で落としてくれるなよ」

 巡回中の真選組隊士に一早く気付いた桂は、詩乃の手の甲に唇を重ねると脇目も振らずに走り出した。目を白黒させながら手の甲を見下ろした詩乃は、平静を装いつつ何事もなかったかのように歩き出した。





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