鼻歌交じりに夕飯の準備をする後ろ姿、エプロンの紐を結き直す小さな手、たわいない会話の合間に見せる満面の笑顔──何で詩乃はいつも幸せそうにしているんだろうか。膝枕をせがむ風呂上がりの詩乃の頭を撫でていると、不意にそんな疑問が浮かび上がった。

「なあ」
「ん?」
「お前今、幸せか?」
「うん、幸せ。十四郎は?」
「あー……」

 詩乃の質問返しに、言葉が詰まってしまった。幸せの定義が、いまいちよくわからない。

「よくわかんねーや」
「ふーん、そっか」
「やけにあっさりしてるな」
「そう?」
「ああ、幻滅されるかと思った」
「幻滅?何で?」
「こういう時、即座に「幸せだ」って返した方が喜んでもらえる気がしてな」
「それはそれで嬉しいけど、「わからない」っていうのも無意識の内に幸せ感じてもらえてるのかなって思えて嬉しいよ」
「そんなもんか」
「そんなもんよ」

 ふふ、と小さく笑った詩乃は程なくして穏やかな寝息を立て始めた。こうした毎日の積み重ねが、幸せを築き上げていくのかもしれない。そんな柄にもない事を思いながら、詩乃の頭を撫で続けた。





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