「また詩乃と喧嘩したんですか」

 松下村塾の裏手にある河原へやって来た吉田松陽は、膝を抱えながら川を眺めている坂田銀時の隣に腰を下ろしながら微笑んだ。

「詩乃の奴、花ばっか構っててムカつくんだ」
「つまり、花に嫉妬して詩乃にちょっかいを出したという事ですか」
「べっ、……別に、嫉妬なんかしてねーし!」
「そうですか」

 強がりつつもそこはかとなく憂いを帯びている坂田の横顔を一瞥した吉田は、意味深な笑みを浮かべながら立ち上がった。

「詩乃は、本当に花が好きですからね。花もまた、純粋な愛情を注いでくれる詩乃の事が好きなんでしょう」

 松下村塾へ向かって歩き出す吉田の背中を横目で見送った坂田は、歯を食いしばりながら全速力で走り出した。何度も転びそうになりながらも全力で土手を駆け上がった坂田は、松下村塾の程近くにある花屋へやって来た。

「おばちゃん、ひまわりくれ!」
「はいよ」

 懐から取り出した三百円を店主である老婆に渡した坂田は、鮮やかな空色の包装紙に包まれた二本のひまわりを大事そうに抱えながら花屋を飛び出した。

「おばちゃん、ありがと!」
「はいよ」

 和やかな笑みを浮かべながら坂田の背中を見送った店主は、鼻歌交じりに鉢植えの花たちに水をやった。ひまわり、一本三百円──二本のひまわりを持たせたのは、店主の粋な計らいだった。
 松下村塾へと続く畦道を駆け抜ける坂田は、詩乃の喜ぶ顔を想像しながら頬を緩ませた。

「詩乃!」

 松下村塾の縁側に座りながらしゃぼん玉で遊んでいた詩乃は、そこはかとない警戒心を醸し出しながら坂田を見やった。後ろ手に隠した花を握り締めながら、一歩踏み出す坂田。恐る恐る詩乃に歩み寄った坂田は、意を決しながらひまわりの花を差し出した。





back/Top

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -