夕暮れ時の大江戸ターミナル。別れを惜しむ会話が、そこかしこで飛び交っている。そんな中、宇宙へ飛び立つ坂本辰馬と彼を見送る為にターミナルを訪れた詩乃もまた、ロビーのソファに並んで座りながら情緒的な会話を交わしていた。

「ほんとに行っちゃうんだねぇ」
「そうじゃのう。寂しいじゃろ?」
「うん、寂しい」

 そんなわけないでしょ──というドライな返答を予想していた坂本は、狐につままれたような顔をしながら詩乃を見やった。前を見据える詩乃の目元に涙が溜まっている事に気付いた坂本は、切なげな笑みを浮かべながら彼女の肩を抱き寄せた。

「触んな変態」
「わしゃあド変態きに、セーフじゃのう」
「ほんと触んないで、我慢できなくなるから」
「我慢なんかする事ない。こうすりゃ、わしにしかわからんきに」

 おどけたような笑みを浮かべた坂本は、半ば強引に詩乃の目元を片手で覆い隠した。刹那、詩乃の目から大粒の涙がこぼれ落ちる。

「バカ辰馬」
「おう」
「嘘、ごめん」
「おう」
「ド変態」
「情緒不安定じゃのう」
「やっと戦場から帰ってきた恋人が、今度は宇宙に行っちゃうんだよ?私、こういう時に笑顔で見送れるほど器用じゃないの」
「ほがな事ば言わせてしもうて、すまん」
「……別に、謝ってほしいわけじゃない。ただ、どこにいるとしても無事でいてほしいだけ」
「わしゃあ、詩乃のその優しさに何遍も救われたぜよ。今回だってそうじゃ。おまんがいてくれるから、わしは飛べる。おまんがいてくれさえすれば、わしは何だってやれる」

 目元を覆い隠していた坂本の手をおもむろに下ろさせた詩乃は、満面の笑みを浮かべながら涙を拭った。寄り添うように詩乃の肩にもたれかかった坂本は、窓の外に広がる夕焼けを眺めながら言葉を紡いだ。

「商いば軌道に乗ったら、迎えに来るきに。どこでプロポーズされたいか考えといてくれ」
「あ、それはもう決まってる」
「何だかんだ乙女じゃのう。どこがええんじゃ?」
「宇宙をまわった辰馬が、一番綺麗だと思った星がいい」
「ほがなもん、地球に決まっちょる」
「そんなの、実際に宇宙行ってみないとわからないでしょ」
「いんや、わしにはわかるね。詩乃と出会えたこの星以上に、綺麗な星なんぞあるわけない」
「違いないね」

 顔を見合わせながら屈託のない笑みを交わした二人は、時間の許す限り互いの体温を分かつように抱きしめ合っていた。





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