ただいまぁ──仕事から帰宅した奏は、鞄を放り投げながら電池の切れたロボットの如くソファに倒れ込んだ。テーブルを挟んだ向かい側で洗濯物を畳んでいた桂は、手を止めながらおもむろに顔を上げた。

「疲れた……」
「憑かれた!?」

 持っていた洗濯物を放り投げながら立ち上がった桂は、慌ててテーブルを回り込むと奏の顔を覗き込んだ。「疲れた」と「憑かれた」、似て非なる言葉が二人の会話に歪みを生んだ。

「一体、何に憑かれたんだ?」
「仕事に決まってるじゃん」
「そうか、仕事とは憑かれるものなのか……」
「桂といても疲れるけど」
「俺といても!?憑かれまくりじゃないか!」
「慣れっこですよ」
「意外と苦労してるんだな、お前……そうだ、週末にでも寺に行こう」
「やだよ、疲れるもん」
「寺に行っても憑かれるのか!?八方塞がりだな……」
「さっきから大袈裟だなぁ」
「大袈裟なものか。奏が憑かれてるんだ、居ても立ってもいられるわけがないだろう」
「……なんか今日は一段と疲れた。お風呂入ってくる」
「待て。一段と憑かれたなら、尚のこと寺に行くべきだ」
「寺寺寺寺うるさいな……あー、そういう事か」

 話が噛み合わない原因を察した奏は、深い溜め息をつきながらクッションに顔を埋めた。

「違うよバ桂、そっちの「つかれた」じゃない」
「バ桂じゃない、桂だ」
「桂が言ってるのは「幽霊的なものに憑かれた」、私が言ってるのは疲労したって意味での「疲れた」」

 そういう事か!──そんな感情が込められたような表情を浮かべた桂は、大袈裟な咳払いで誤魔化しながら平静を装った。

「ツッコミまでのタイムラグはあったが、概ね合格だな」
「あたかも「試してただけですよー」みたいに言うのやめてくれる?明らか勘違いしてたでしょ」
「何の事だかさっぱりわからんな」

 あくまでもシラを切り通す桂に白い目を向けた奏は、再び深い溜め息をつきながらクッションに顔を埋めた。奏の頭を撫でながら立ち上がり、テーブルの反対側へ向かって歩き出す桂。遠ざかっていく桂の背中をちらりと見上げた奏は、頬を緩ませながらクッションを力強く抱き締めた。










back/Top
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -