三月某日、卒業式。式後、昇降口で部活の後輩達に囲まれていた奏は、蕾が実り始めた桜の木を見上げる沖田の後ろ姿を発見した。ちょっとごめんね──後輩達に謝りつつ部活仲間の輪を抜け出した奏は、人波をかき分けるように移動しながら沖田に歩み寄った。

「沖田」

 屈託のない笑みを浮かべながら沖田に声を掛けた奏は、彼の視線を辿りながら桜の木を見上げた。入れ違うように振り向いた沖田は、桜の木を見上げる奏の横顔を目に焼き付けるかのようにジッと見つめた。

「卒業できたんですね」
「おかげさまで。もっと一緒にいたかった?」
「寝言は寝て言うもんでさァ」

 からかうように沖田の顔を覗き込んだ奏は、相も変わらぬ暴言に苦笑しながら彼の肩を小突いた。

「先輩」
「ん?」
「顔に何かついてる」
「え、どこ?」
「目んとこ」

 沖田が手を伸ばすと同時に目を閉じた奏は、無防備な姿を晒しながら次のアクションを待った。そっとまぶたに触れた指先をゆっくりとスライドさせた沖田は、おもむろに屈みながら奏の口元に唇を寄せる。あと二センチで唇が触れる距離で動きを止めた沖田は、確かに重なり合っていた二つの影を横目で見つつ奏から離れた。わずか、数秒間のことだった。

「あ、すいやせん。ただの目ん玉でした」
「もう……沖田の意地悪で不器用なとこ、私好きだなぁ」
「……卒業、おめでとうございます」
「ありがとう。来年は私が言う番だね」
「祝ってくれるんですかィ」
「当たり前でしょ」

 寂しげに微笑みながら桜の木を見上げた奏の横顔を見つめる沖田の瞳にもまた、寂寞の光が宿っていた。おもむろに桜の木を見上げ、ふと笑みをこぼす沖田。肩を寄せ合う二人の視線の先では、一足先に蕾を開いた一輪の桜が咲き誇っていた。





お題サイト・反転コンタクト様より、「意地悪で不器用な君」をお借りしました。






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