黄昏時の河川敷、奏は息を切らしながら坂田の背中を追いかけていた。いくら全力で走っても、前に伸ばされた奏の手が坂田の背中に届く事はない。おもむろに振り向いた坂田の表情には影がさし、寂しげな笑みをたたえる口許がかろうじて確認できる程。奏に向かって手が伸ばされ、二人の指先が重なり合った刹那、坂田の姿は霞となって夕闇に溶け込んだ。

「銀時っ……」

 夢から覚めた奏の手を、心地好い温もりが包み込んだ。いつものように飲み歩いていた坂田は、帰宅するや否や奏がうなされている事に気付き、寄り添いながら頭を撫で続けていたのだった。暗がりの中、坂田と目が合った奏は心の底から安堵したように彼の手を握り返した。

「怖ェ夢でも見たか?」
「んー……銀時がいなくなる夢」

 寝起き特有の甘ったるい声でそう答えた奏は、坂田の手の甲に頬に頬擦りをしながら目を閉じる。夢と現実の間を行き来する奏の額に口付けをする坂田。

「お酒臭い……」
「お前が手ェ離さねーと、風呂入れねェんだけど」
「やだ、離さない」
「俺にどうしろっつうんだよ」
「離したくない」
「やけに積極的だな」
「離さないで」
「離すわけねーだろ」

 微睡みながら微笑んだ奏は、安心したように意識を手放した。穏やかな寝息を立てる奏の額に再び口付けをした坂田は、お互いの体温を確かめ合うように寄り添いながらゆっくりと目を閉じた。









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