近藤勲、土方十四郎、沖田総悟の三人は、中庭に面した縁側で晩酌を酌み交わしていた。近藤を中心に仕事の話や故郷の話で盛り上がる中、土方の懐で不意に鳴り出した着信音が響き渡る。懐から取り出した携帯電話を開いた状態のまま動きを止めた土方の手元を、不思議そうな表情を浮かべながら覗き込む近藤と沖田。土方の携帯電話のディスプレイには、「メリー」という女の名前と「000-4989-4989」という気味の悪い番号が表示されていた。

「がっ、外国の女の名前!?」
「土方さんも隅に置けやせんねィ」
「いや……こんな小洒落た名前の女なんか知らねーし、こんな気持ち悪ィ番号も記憶にねェ」
「スピーカー状態で出てみてくだせェ」
「ああ、それがいい。トシ、局長命令だ」
「んなくだらねェ事で職権乱用しないでくれよ……出りゃいいんだろ、出りゃ」

 面倒臭そうにそう吐き捨てた土方は、スピーカー状態に設定しながら通話ボタンを押した。

「はい、どちらさん?」
「私、メリーさん」

 目を見開いた土方は、助けを求めるように近藤と沖田に目配せをした。しかし、解決策を模索する隙もなくメリーさんは言葉を紡いだ。

「今あなたのうし、あっ……間違えた」
「あなたの牛?」
「いえ、えっと、あの、ちょっとリテイクさせてください。申し訳ありませんが一旦切らせていただきますね、失礼いたします」

 半ば一方的に電話を切られてしまった土方は、携帯電話を耳元に添えたまま再び近藤と沖田を見やった。身を乗り出した沖田は、強引に奪い取った土方の携帯電話を操作し始める。着信履歴からメリーさんにリダイヤルした沖田は、殴りかかろうと身を乗り出す土方に携帯電話を投げ返した。

「あっ、え、何これ……お、お電話ありがとうございます。株式会社都市伝説メリー課、営業担当 朝比奈でございます」
「朝比奈?」
「え?あれ?……あ、さっきの!何で番号……」
「何でって、リダイヤルしただけなんだが」
「やっべ、非通知設定し忘れてた……私、メリーさん。今、大江戸ターミナルにいるの」
「待て待て待て待て、何しれっと再開してんだ」
「ふへへ」

 照れくさそうに笑った朝比奈は、何事もなかったかのように電話を切った。顔を見合わせた土方達は、ああでもないこうでもないと言いながら謎多き電話の解明をしていく。
 都市伝説のメリーさん、あるいはその模倣犯である事。いわゆる「メリーさん派遣会社」のような団体が存在している事。本来は非通知で電話をかけなければならないところを、その設定をし忘れたまま一回目の電話をかけてきたであろう事。メリーナンバー○○五八を務める朝比奈と名乗った者は、底無しレベルのアホであるという事。土方達が盛り上がっていると、再び着信音が鳴り響いた。

「はい、メリーさん?」
「えっ、あ、そうです、メリーです……先程は大変失礼いたしました」

 火をつけた煙草を咥えながらふんぞり返る土方と必要以上に恐縮する朝比奈のやり取りに噴き出す近藤。

「で、今どこにいるんだ?」
「はい、私ただいま真選組の屯所のま」

 真選組の屯所の前におります──と続くはずであった朝比奈の声を斬り捨てるように通話を終わらせた土方は、貧乏揺すりをしながら携帯電話の電源を切った。程なくして再び鳴り始めた携帯電話のディスプレイを確認した土方は、青ざめながら近藤にそれを投げ渡す。電源を切ったにもかかわらず着信音が鳴り響く超常現象に息を飲んだ近藤は、スピーカー状態に設定しながら通話ボタンを押した。

「……はい」
「度々、申し訳ございません。先程お電話いたしましたメリーですが」
「ト、トシならいねーぞ」
「え……いますよね、あなたの隣に。ちなみに私、あなた達の後ろにいるんです」

 土方達がほぼ同じタイミングで勢い良く振り向いた瞬間、朝比奈は咄嗟に頭を抱えながらうずくまった。

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!不法侵入して、ほんっとごめんなさい!!」
「えーっと……メリーさんなのか?」
「はい、朝比奈です……」
「いや、メリーどうした?」
「もはや正体隠す気もねーのかよ朝比奈」
「いいんです、もう。今日、誰かを恐怖のドン底に叩き落とせなければクビなんで」
「メリー業界も大変なんだな」
「クビになったとして、その後はどうするんでィ?」
「地縛霊が関の山ですかね。何にせよ、朝比奈・メリー・奏はおしまいです」
「そいつァ大変だ。まあ飲みな」
「あ、どうも」

 促されるまま沖田の隣に腰を下ろした朝比奈奏は、差し出された酒を受け取りながら締まりのない笑顔を浮かべた。つむじから足の爪先まで余すところなく全神経を集中させながらグラスを持たなければならない分、酔いが回るのも非常に早く、三口飲んだところでぐでんぐでんに泥酔する奏。幸せそうな寝顔で熟睡する奏を尻目に、土方達は彼女の進退について話し合っていた。

「いっそ真選組で飼うってのはどうですかィ?」
「寝言は寝て言え」
「飼うってお前……」
「幽霊の類だろうから食事代もかからねェし、演技さえしっかり仕込んでやりゃわりかし使えると思うんでさァ」
「例えば?」
「潜伏中の攘夷浪士どもをあぶり出すとか」
「何かパンチが足りねェんだよな」
「万事屋の旦那に嫌がらせするとか」
「天才かよ」

 近藤越しにグラスを重ねた土方と沖田は、不敵な笑みを浮かべながら酒を飲み干した。珍しく意気投合する二人に苦笑しながら、奏の寝顔を一瞥する近藤。妹を見守る兄のように微笑んだ近藤は、夜空に浮かぶ星を見上げながら酒をあおった。










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