夕飯を食べ終えた沖田と奏は、各々つまみや酒を持ち寄り縁側に集合した。一カ月に一、二回のペースで晩酌を共にする事が、沖田と奏の間で定番となっている。二人分のビールを注いだ奏は、乾杯した数秒後にはグラスを空にしていた。

「ん」
「サンキュ」

 沖田が注いだビールを一口飲んだ奏は、チータラを咥えながら夜空を見上げた。そんな奏を一瞥した沖田は、イカソーメンを咥えながら同じように夜空を見上げた。

「好きなのか?万事屋の旦那のこと」

 直球にも程がある質問をぶつけられ、今し方口に含んだビールを盛大に噴き出した奏は、涙目になりながら激しく咳込んだ。口の中に広がるイカソーメンの風味を味わいながら、そこはかとなく面倒臭そうに奏の背中をさする沖田。両手を合わせ謝罪の意を表した奏は、咳が治まると目元に滲んだ涙を拭いながら口を開いた。

「うーん……日に日に銀時さんのこと考えてる時間が増えてくし、一緒にいると楽しいのは確か」
「それを「好き」って言うんじゃねーの」
「そっか、これが「好き」なんだね。何でわかったの?」
「奏姉、わかりやすいからな」
「そう?」
「そう」
「内緒ね」
「どうかな」

 夜空を見上げながら言葉を紡ぐ沖田の横顔を一瞥した奏は、空になった二つのグラスにビールを注いだ。四方山話や思い出話に花を咲かせながら晩酌を楽しむ二人は、底をついたビールの代わりに日本酒を飲み始める。二時間後、大量のつまみと日本酒を胃袋に収め、どちらからともなく後片付けをし始める沖田と奏。後片付けを終え立ち上がった刹那、予想を上回る酔いに激しくふらついた二人はバランスを崩しながら共に倒れ込む。したたかにぶつかり合った頭をおさえながら起き上がった奏は、目の前でうずくまっている人影にそっと手を伸ばした。

「総悟、大丈……夫……」
「奏姉……こそ……」

 自ら発した声に違和感を覚えた奏は、おもむろに顔を上げた人影──もとい自分と全く同じ姿形をした人物と目が合った瞬間、小さく悲鳴を上げながら後退りした。恐る恐る見下ろした己の手がたくましくなっている事に驚愕し、震える両手で全身を弄り始める奏。体が入れ替わってしまった事をいち早く察した沖田は、股間にぶら下がっているイチモツに触れてしまった手を放心状態で見つめている奏に呆れたような眼差しを向けた。

「俺の体にセクハラすんなよ、奏姉」
「え!?あ、ごめん……いや待って、これどういう状況?」
「あれだろ、漫画とかでよくある入れ替わりハプニング的な」
「あー、そういう事……うーん、どうしたもんかね」
「駄目だ、酒で頭回んねェ。奏姉どんだけ飲んでんだよ」
「ごめんね。こういう場合、明日の朝起きてから考えた方がいいのかな。もしかしたら夢かもしれないし。とりあえず今日は寝よっか」
「だな。じゃ、おやすみ」
「おやすみー」

 驚異の順能力の高さを発揮した二人は、入れ替わった体で元の部屋へ戻ろうと歩き出した。すぐに間違っている事に気付いた沖田と奏は、踵を返すと苦笑しながら互いの部屋へ向かって歩き出す。沖田の部屋で眠れない夜を過ごした奏は、昨日まで当たり前のように過ごしていた自室の扉をノックした。あまりにも反応がないため、恐る恐る部屋の中を覗き込む奏。刹那、たまたま通り掛かった土方の飛び蹴りを食らった奏は廊下の突き当りまで吹き飛ばされた。

「何やってんだ、総悟。朝っぱらから堂々と女の部屋覗くとは、お前それでも警察か?次、奏の部屋覗きやがったら殺すぞ」
「……すいません、巡回行ってきまさァ」

 よろめきながら立ち上がった奏は、覇気のない様子でその場から立ち去った。土方に蹴り飛ばされた瞬間に見えた、がらんどうな部屋の光景が奏の不安を駆り立てる。険しい表情を浮かべつつパトカーに乗りこんだ奏は、沖田との昨晩の会話を思い返しながらアクセルを踏み込んだ。いつぞやのコインパーキングにパトカーを停め、万事屋へ向かって走り出す奏。階段を一気に駆け上がり呼び鈴を連打した奏は、応答を待たずして万事屋に上がり込んだ。焦れば焦るほど靴がうまく脱げず、襖越しに聞こえる男女の話し声に焦燥感を覚える奏。やっとの思いで靴を抜いだ奏が応接室に飛び込んだ瞬間、坂田の膝に跨がり猫なで声で誘惑していた沖田は不満げな表情を浮かべながら振り向いた。

「ちょっ……」
「ちょっとぉ、お楽しみ中なんだから邪魔しないでよ総悟。ね、銀時さん」 
「いや、あの、何つーか……積極的な子は嫌いじゃねェし奏ちゃん相手ならむしろ嬉しいはずなんだけど、何でかあんまり気分乗らねーんだよな」
「緊張してるんじゃないですか?その緊張、奏がほぐしてあ・げ・る」
「はは、参ったな」

 困惑しながらも満更でもなさそうな坂田は、下心に満ちた笑みを浮かべつつ沖田の腰を抱き締めた。悪戯な笑みを浮かべながら坂田の首に腕を回した沖田だったものの、笑顔の裏に垣間見える殺気のような気迫に押され口元を引きつらせた。

「で、どんなご奉仕してくれんのかな?「沖田君」」

 鬼畜じみた笑みを浮かべた坂田は、逃げ出そうとする沖田を羽交い締めにしながら押さえ込んだ。手首を捻り上げられ後ろ手で拘束された沖田は、唸り声を上げながら痛みに顔を歪ませた。

「こんな朝っぱらから奏ちゃんが用事もねーのに来るなんて、おかしいと思ったんだよ。何が「銀時さんに会いたくて来ちゃいました」だよ、嬉しすぎて襲っちまいそうになったじゃねーか」
「いてて……怒ってんだか喜んでんだかわかりやせんぜ、旦那」
「俺自身わかんねーよ。ビッチに成り果てた奏ちゃんに迫られてんだ、そりゃ恐怖と歓喜が入り混じって当然だろうが。蓋を開けてみたら、奏ちゃんとドS小僧が入れ替わってたっつーんだもんな。ふざけんじゃねーよマジでありがとうございます」
「礼には及びやせんよ。何も、ただ単に旦那からかいに来たわけじゃねーんでさァ」
「総悟、まずは銀時さんの膝からどこうか。何なら力ずくでどかそうか」

 威圧的な笑みを浮かべながら沖田に歩み寄った奏は、萎縮した彼を促しつつ坂田の向かい側に腰を下ろした。奏と目を合わせないようにしながら、中身が入れ替わってしまった経緯を話す沖田。いつの間にか起きていた神楽は、半開きの目を擦りながら沖田の説明を話半分に聞いている。相槌を打ちながら沖田の話を聞いていた坂田は、入れ替わった二人を改めて見比べると納得したように「ふーん」と呟いた。

「で、俺達を元通りにしてほしいって依頼をしに来たわけでさァ」
「ふーん、なるほどな。そこの窓、特別に使わせてやってもいいぞ。同時に飛び降りれば元に戻るだろ」
「うわー、雑だなぁ」
「元に戻るどころか土に還っちまいそうでさァ」
「そんなめんどくさい事しなくても、この場で簡単に戻れるアル」
「どうやって?」
「んなもん決まってるだろ。こうやるネ」

 沖田と奏の頭を鷲掴みにした神楽は、ニヤリと笑いながら双方の額を勢い良くぶつけ合った。白目を向きながら折り重なるように倒れ込んだ沖田と奏は、微動だに動かない。一時間後──ようやく目を覚ました奏は、いの一番に自らの胸を揉みしだきながら起き上がる。奏の一連の行動にいちご牛乳を噴き出した坂田は、嘔吐しそうな勢いで激しく咳き込んだ。

「あ、ある……戻ったんだ!」
「そ、そう……良かったな、元に戻って」
「ありがとうございます、ほんと助かりました。大丈夫ですか?良かったら、手拭いどうぞ」

 深々と頭を下げた奏は、懐から取り出した手拭いを坂田に差し出した。坂田の手のひらに置かれた手拭いがふわりと広がった瞬間、それが自らの下着である事に気付く奏。反射的に取り上げた下着を懐に戻した奏は、殺意のこもった眼差しで犯人であろう沖田の姿を探した。

「総悟はどこですか?」
「あー、三十分くらい前に起きて早々と帰ってったな」
「……そうですか。そろそろ私もお暇します。色々と、すみませんでした」
「送るよ。あのドS小僧、奏ちゃんが乗ってきたパトカーで帰っちまったんだ」
「総悟め……いいんですか、送ってもらっちゃって。迷惑じゃありませんか?」
「迷惑だったら端から申し出ねーよ」
「……ありがとうございます」

 奏の頭をそっと撫でながら歩き出した坂田は、スクーターのキーを手に取ると鼻歌交じりに下足を履いた。頬を赤く染めた奏は、うつむきながら坂田の背中を追いかける。初めてのスクーターにおっかなびっくり跨がった奏は、促されるまま坂田の腰に両手を回しながら広い背中に顔をうずめた。



続く






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