湯船に張られた湯を漂うアヒルの玩具は、浴槽の中で向かい合う坂田銀時と奏の間を宛もなく行ったり来たりしていた。短気同士、大なり小なり何かと喧嘩の多い二人であるものの、入浴している間だけは冷静に話し合う事が暗黙のルールとなっていた。

「私のアイス、食べたでしょ」
「愛しの奏のアイスを、俺が食っちまうわけねーだろ。ガリガリさんが俺の口ん中に不法侵入してきやがったんだよ。そう、お前が俺の心に不法侵入したみたいにな」

 サムズアップしながらウィンクする銀時に汚物を見るような眼差しを向けた奏は、溜め息をつきながらアヒルの玩具を手のひらに乗せた。

「……悪かったよ。明日、代わりのアイス買ってくるから許せ」
「しょうがない、バーゲンダッシュに免じて許してあげよう」
「さりげなくバーゲンダッシュに昇格させてんじゃねーよ」

 獲物を捕える獣のように奏に襲いかかった銀時は、小狭い浴槽の中で何とか彼女の後ろに回り込むと、力強く抱きすくめながらうなじに唇を寄せた。なめらかなうなじに啄むような口付けを落とす銀時の口元から発生したリップ音が、湯気の立ち込める浴室に響き渡る。銀時に体重を預けながら天井を見上げた奏は、腰に回されたたくましい腕を指先でなぞった。

「銀時ー」
「おう」
「坂田さーん」
「何だよ」
「ぎーんーとーきー」
「なーんーでーすーかー」
「好きだよ、銀時」

 照れくさそうな笑い声をこぼす奏を強く抱き締めた銀時は、込み上げる愛おしさをどう伝えるか迷った挙句、彼女の横顔を覗き込みながらその頬に幾度となく唇を寄せた。入浴を終えた二人は、取り留めもない話をしながら居室に戻ってくる。ソファに腰を下ろす銀時の背後に立った奏は、ドライヤーを片手に彼の髪の毛を乾かし始めた。

「なあ、奏」
「んー?」
「俺もその、何つーか……好きだ」
「え?なんて?」
「だから、好きだっつってんの!愛してんの、お前の事!」
「ごめん聞こえない。あと百万回くらい言ってくれたら聞こえるかも」
「言ったな?何十年かかってでも百万回言い切ってやるから、覚悟しとけよ」

 半ば強引に取り上げたドライヤーの電源を切った銀時は、ソファの上で膝立ちになりながら奏の唇を奪った。銀時の頭を両手で包み込んだ奏は、半乾きの柔らかな髪の毛の感触を堪能するようにじっくりと撫で回す。そのまま抱き寄せた奏をソファに押し倒した銀時は、熱を帯びた瞳で彼女を見下ろしながら覆い被さるように深い口付けを落とした。










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