担任であり恋人でもある坂田銀八に呼び出された奏は、夏の匂いを孕んだ太陽のもと、休日にもかかわらず全速力で学校までの道のりを駆け抜けていた。校門の前でぼんやりと佇んでいる銀八の姿が、スカートをなびかせながら全力疾走していた奏の目に留まる。銀八の前で立ち止まった奏は、太陽にも負けないほど眩しい笑みを浮べながら汗を拭った。

「おはようございます!」
「走って来たのかよ。ゆっくりでいいから気ィ付けて来いっつったろ」
「先生と一分でも一秒でも長く一緒にいるには、こうするしかなかったんです」
「可愛すぎんだろ、おい……これ以上、惚れさせんなよ」

 おもむろに手を伸ばした銀八は、困ったように笑いながら奏の頭をそっと撫でた。幸せを噛み締めるようにはにかんだ奏は、ポニーテールを揺らしながら銀八についていく。グランドで練習試合をしている野球部の掛け声が響き渡る中、二人が辿り着いたのは半年以上放置されていた屋外プール。用意してあったデッキブラシを手に取った銀八は、二本ある内の一本を奏に差し出しながら誤魔化すような笑顔を浮かべた。

「今週中にやっとかねェとなんなくてよ。手伝ってくれねェか?」
「もちろん、喜んで。でも、高いですよ?」

 デッキブラシを受け取った奏は、悪戯な笑みを浮べながら銀八を覗き込んだ。うるせーガキンチョ──そんな憎まれ口を叩きながらも、締りのない顔で奏の頬をつまむ銀八。水が抜かれたプールの中に降り立った二人は、二手に分かれ、時おり足を滑らせながら藻を擦り落としていく。プールの中央で合流した二人は、デッキブラシをホースに持ち替えるとプールの壁面や底を流し始めた。

「奏」
「わっ」

 振り向きざまに水をかけられた奏は、楽しげな笑みを浮べながら応戦した。ふと足を滑らせ仰向けに転倒した奏は、夢の中で後頭部を強打すると同時に体をビクッと震わせながら目を覚ます。クラスメートに注目されつつ教室を見渡した奏は、銀八と目が合うなり赤面しながら顔を背けた。

「何だよ急に女の顔しやがって、腹立つな」
「夢の中で勢い良くぶっかけてきたのは、先生の方じゃないですか」
「ぶっかけるって、何をだよ。つーか夢見るくらい健やかに寝てんじゃねーよ。しかも、人のこと勝手に出演させやがって。ギャラ払え、ギャラ」

 眉間にしわを寄せた銀八は、白衣を翻しながら持っていたチョークを奏に投げつけた。額のど真ん中にチョークを食らった奏は、白目をむきながら再び机に突っ伏した。










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