自室の灯りを消し、布団に潜り込んだ土方は、就寝前に心霊番組を観た事を心の底から後悔していた。深夜独特の水を打ったような静けさの中、なかなか寝付く事が出来ず、寝返りをうっては溜め息をつく土方の耳に微かな足音が届く。ひたひたと徐々に近付いてくる足音に恐怖し、音を立てないように頭まで布団を被る土方。部屋の前で足音が止まり、襖が軽く叩かれた瞬間、土方の恐怖心が絶頂を迎えた。

「……起きてますか、土方さん」

 襖の向こう側から聞こえてきた声が奏のものだと理解した土方は、安堵と憤りが同時に込み上げるのを感じながら立ち上がった。襖に手を掛け、数センチ開けた隙間から覗き込むように奏を見下ろす土方。土方と目が合った瞬間、奏は声にならない悲鳴を上げながら腰を抜かした。

「どっからどう見ても寝てんだろ、おととい来やがれ」
「目ェ開いてるし、立ってるじゃん!」
「うるせェ馬鹿、他の連中が起きちまったらどうすんだ」

 語尾を荒らげる奏の口を塞いだ土方は、室内に彼女を引きずり込みながら慌てて襖を閉めた。土方と奏は恋仲であるものの、隊士と勘定方という建前上、屯所ではあくまでもお互い仕事仲間として接している。一部の隊士は察しているものの、付き合っている事をお首にも出さない土方達を囃し立てる者はいない。しばらく聞き耳を立てていた土方は、異変がないと判断するや否や、奏を布団の中に引きずり込む。されるがままに抱き寄せられた奏は、動悸が落ち着くまで土方の胸に顔を埋めていた。

「……起きてる?」
「……寝てる」
「起きてるじゃん」
「寝てるっつってんだろ」
「さっきさ、怖い番組観ちゃっ……いたっ」

 会話を遮るように、奏の頬をつねる土方。土方の心臓が早鐘を打っている事に気付いた奏は、悪戯な笑みを浮かべながら顔を上げた。

「十四郎も観たんでしょ」
「観てねェ」
「じゃあ何で、心拍数上がってるの?」
「さあな」
「ねえ、何で?」
「知るか」
「彼女とくっついてるから?」
「それはない」
「あっそ、わかった。自分の部屋帰る」

 起き上がろうとする奏に対し、土方は彼女の腰に回した腕に力を込めながら必死に抵抗した。

「本当は俺も観てました」
「……」
「悪かったよ」
「ちゅーしてくれたら許す」
「調子乗んなよ」
「帰る」
「待て待て待て待て、待って下さい神様仏様奏様」
「苦しゅうない、近う寄れ」
「これ以上、どうやって寄れっつーんだよ」

 ひとしきり笑い合った土方と奏は、どちらからともなく唇を重ねた。吐息とともに薄く開いた唇の隙間から舌をねじ込んだ土方は、艷やかな髪を撫でながら奏に覆いかぶさった。









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