卒業式を終え、屋上へやって来た奏は、所々錆び付いた柵に寄りかかりながら校庭を見下ろしていた。冬の香りが残る風は、奏の頬を撫でながらどこへ向かうでもなく冷たい空気に溶け込んでいく。階段を上がってくる足音に気付き、スカートの裾を翻しながら振り向く奏。意中の相手である坂田銀八が姿を現した瞬間、奏は頬を赤く染めながら照れくさそうに微笑んだ。

「ったく、最後の最後まで呼び出しやがって」

 奏の前で立ち止まった坂田は、紫煙を燻らせながら困ったように笑った。入学式の時に坂田に一目惚れをした奏は、これまでありとあらゆる手段を使って告白をしてきた。

「最後の最後くらい、真面目に聞いてくださいよ」

 覗き込むように坂田を見上げる奏もまた、困ったように笑っていた。お子ちゃまには興味ねーの──一度目の告白から一貫してそう断られ続けてきた奏は、半ばヤケになりながらも告白し続ける事でしか好意を伝えられない自分に嫌気が差していた。目を閉じながら深呼吸をした奏は、真剣な眼差しで坂田を見つめた。

「私、坂田先生の事、大好きでした。最初は一目惚れだったけど、実は生徒想いな所とか、ぶっきらぼうと見せかけて優しい所とか、全部ひっくるめて大好きでした」
「……ありがとな、朝比奈」

 今までとは違う返答に戸惑いながらも、笑顔を崩すまいと必死で頬に力を込める奏。短くなった煙草の火を揉み消した坂田は、どこか切なげな笑みを浮かべながら奏の額に唇を寄せた。

「卒業、おめでとう」

 奏の額から唇を離した坂田は、いつもと同じ飄々とした笑みを浮かべながら新たな煙草を咥えた。憑物が落ちたかのように屈託のない笑顔を浮かべる奏の頬を、一粒の涙が伝った。









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